222話
翌朝、リルドは昨夜聞いた「勇者のドジな失敗談」を思い出して、ふふっと一人で笑いながら目覚めた。
『リルドよ、おはよう。昨夜は我の失策をあんなに楽しそうに笑うとは……。伝説の聖剣として少々複雑ではあるが、お主の笑顔が見られたのなら、昔の不名誉も報われるというものだ』
「……おはよう、ラッファード。ごめん、でも勇者様が迷子になって一晩中スライムと添い寝した話、すごく人間味があって好きだよ」
照れ隠しに鞘の中でカタカタと震えるラッファードを宥めながら、リルドはギルドへ向かった。
掲示板には、今日という一日の平穏を象徴するような依頼が並んでいた。
『街の広場の噴水掃除』と『迷い犬の捜索』。
受付へ持っていくと、受付さんは「あら、今日は一段と優しい依頼ですね」と微笑んだ。
「噴水は最近、水垢で少し流れが悪くなっているようです。ワンちゃんの方は、お隣のおばあさんの飼い犬で、まだ子犬なんですよ。よろしくお願いしますね」
「うん、早めに見つけてあげないとね。いってきます」
まずは広場の噴水へ。リルドは「水魔力」を指先に纏わせ、石の隙間に溜まった汚れを魔法のブラシのように優しく、かつ完璧に落としていく。
『……リルド、その彫刻の隙間だ。そこに魔力の淀みが溜まっておる。……ほう、お主が清めるだけで、水の音がまるで竪琴の調べのように澄み渡ったぞ。見事だ』
「(水が綺麗だと、広場全体が明るく見えるね)」
午後からは、子犬の捜索だ。リルドはラッファードの「広域感知」と、自分の「気配察知」を組み合わせて街の路地裏を丁寧に辿っていく。すると、市場の空き樽の裏で震えている小さくて茶色い毛玉を見つけた。
「見つけた。……怖かったね、もう大丈夫だよ」
リルドが優しく抱き上げると、子犬は安心したようにリルドの顎をペロリと舐めた。
夕暮れ時、ピカピカになった噴水の前を通り、子犬をおばあさんの元へ送り届けてからギルドへ。
「ただいま、受付さん。噴水も綺麗になったし、ワンちゃんも無事に帰せたよ」
「おかえりなさい、リルドさん! おばあさんからさっき、泣きながらお礼の連絡がありましたよ。噴水の水も、今日は宝石みたいにキラキラしています。はい、こちら報酬の銅貨です」
「ありがとう。……さあ、帰ろうか、ラッファード」
『うむ。水を清め、迷い子を導く。……今日のお主は、まさに「街の守護者」そのものであった。……さて、今夜は、かつて勇者が迷子の子竜を親元へ送り届けた時の、少しだけ誇らしい武勇伝を聞かせてやろう。昨夜のようなドジ話ではないぞ!』
「(あはは、楽しみにしてるよ)」
報酬の銅貨をチャリンと鳴らし、噴水の水の音を背に受けながら、リルドは茜色の道を歩く。
万年Fランク冒険者の日常は、街の小さな平和を一つずつ整えながら、今日も穏やかに、そして幸せに更けていく。




