217話
翌朝、リルドは窓を開け、ひんやりとした秋の空気をお腹いっぱいに吸い込んだ。
『リルドよ、おはよう。今朝は一段と秋の気配が濃いな。お主の頬も、まるで熟した林檎のように……あ、いや、なんでもない。今日も良き一日になるよう、我も全力を尽くそう』
「……おはよう、ラッファード。今日は美味しそうな依頼を探してみるよ」
ギルドの掲示板を眺めていると、季節感たっぷりの依頼が二つ並んでいた。
『裏山の栗拾い』と『湿地帯のスライム調査とスライムゼリーの回収』。
受付へ持っていくと、受付さんは嬉しそうに微笑んだ。
「おはようございます、リルドさん。栗はギルドの秋祭りの準備用です。スライムゼリーは、ぷるぷるの食感がスイーツの材料に重宝されるんですよ。足元に気をつけてくださいね」
「うん、秋の味覚をたくさん集めてくるね。いってきます」
まずは日当たりの良い裏山へ。足元には立派なイガがいくつも落ちている。リルドは「気配察知」で、中身が詰まった実だけを選り分けて拾い上げていく。
『……リルド、その大きな岩の影を見てみろ。魔力が溜まっておる……ほう、やはりな。一際大きな「王様栗」が隠れておったぞ。お主の鑑定眼(?)に狂いはない』
「(本当だ、ツヤツヤしてる! 喜んでもらえそうだね)」
午後からは場所を移し、少し湿り気のある場所へ。プヨプヨと跳ねるスライムたちを驚かせないよう、リルドは「魔力同調」で気配を和らげながら、彼らの生態を観察し、不要になった分の上質なゼリーを分けてもらった。
『ふむ、スライム共も、お主の清廉な魔力に当てられて、どこか気持ちよさそうにしておるな。お主という男は、魔物とすら友誼を結んでしまうのか……』
「(喧嘩するより、仲良くしたほうが楽でしょ?)」
夕暮れ時、カゴいっぱいの栗と、透き通ったスライムゼリーを抱えてギルドへ戻った。
「ただいま、受付さん。栗とゼリー、持ってきたよ」
「おかえりなさい、リルドさん! わぁ、この栗、粒が揃っていて最高です! ゼリーも不純物がなくて、とっても綺麗……。これなら極上のムースができそうです。はい、こちら報酬の銅貨です」
「ありがとう。……さあ、帰ろうか、ラッファード」
『うむ。秋の恵みを収穫する喜び……。我もかつて、勇者一行と焚き火で栗を焼いたことを思い出したぞ。……さて、今夜は、お主が拾った栗の香りを肴に、我の「伝説の秋祭り」の話でもしてやろう』
「(あはは、楽しみにしてるよ)」
報酬の銅貨をチャリンと鳴らし、秋の風に吹かれながら、リルドは茜色の道を歩く。
万年Fランク冒険者の日常は、季節の移ろいを肌で感じながら、今日も穏やかに、地味に更けていく。




