215話
翌朝、リルドがギルドへ行くと、掲示板の中央付近に少し変わった依頼が貼られていた。
『新米Fランク冒険者の実地訓練支援』
「(僕もFランクなんだけどな……)」
苦笑いしながらそれを受付へ持っていくと、受付さんは「あ、リルドさん!」と嬉しそうに声を弾ませた。
「この依頼、実績のあるFランク……つまりリルドさんのような『ベテランのFランク』の方にお願いしたかったんです。最近登録したばかりで、まだ森の入り口すら怖がっている子たちがいて。彼らを導いてあげてくれませんか?」
「……なるほど。僕に教えられることがあれば。いってきます」
ギルドの前で待っていたのは、装備もまだ真新しく、緊張で顔をこわばらせた少年少女の冒険者たちだった。
「リルドです。今日はよろしくね」
「よ、よろしくお願いします、先輩!」
自分より実績のない「本当の新米」たちを連れて、リルドは森へと向かった。
『……ふむ。リルド、お主が「先輩」と呼ばれておる姿、なかなか様になっておるぞ。我がかつて新兵を率いた頃を思い出すな。……よし、我がお主の背後から、彼らの隙をこっそり見張ってやろう』
まずは採取支援だ。リルドは薬草の見分け方や、根を傷めない摘み方を丁寧に教えた。
「こうやって少し魔力を意識すると、質のいい草が分かるよ」
次は討伐支援。現れた数体の角ウサギに対し、リルドは自分では倒さず、新米たちが怪我をしないよう絶妙な位置取りで彼らをサポートした。
「落ち着いて、相手の動きをよく見て。……今だ!」
リルドの的確な助言のおかげで、新米たちは初めて自力で魔物を倒すことができ、帰り道には自信に満ちた笑顔を見せていた。
夕暮れ時、ギルドに戻ると、新米たちは「リルド先輩、ありがとうございました!」と深々と頭を下げて去っていった。
「ただいま、受付さん。みんな無事に初仕事を終えられたよ」
「おかえりなさい、リルドさん! 彼ら、見違えるように良い顔をして戻ってきましたよ。これは特別な指導料込みの報酬です」
差し出されたのは、いつもの銅貨ではなく、鈍い光を放つ「銀貨」だった。
「えっ、銀貨? ……いいのかな」
「もちろんです。未来の冒険者を育てた功績ですから」
ギルドを出ると、ラッファードが満足げに唸った。
『銀貨か……。たまにはこういう報酬も悪くない。何より、お主が誰かの道標になったことが、我には何よりの誇りよ。……さて、今夜は少し豪華な夕飯にしてもバチは当たらんだろう?』
「(あはは、そうだね。ラッファードも今日は見張り役、お疲れ様)」
万年Fランク冒険者の日常は、自分より小さな背中を支えながら、少しだけ重みの増した報酬を手に、温かな夜へと続いていく。




