210話
翌朝、リルドは昨日の薪運びで少しだけ心地よい筋肉痛を感じながら、ゆっくりと身体を伸ばした。
『リルドよ、おはよう。今朝のお主は……ふむ、昨日運んだ薪の「木の香り」がほんのりと移っておるな。まるで森そのものに抱かれておるようで、我も非常に落ち着くぞ。……あ、いや、変な意味ではないぞ!』
「……おはよう、ラッファード。大丈夫、ちゃんと真面目な感想として受け取っておくよ」
紳士的になろうと努める聖剣を背負い、リルドはいつものようにギルドへ。
ギルドの扉を開けると、そこは少し「冬の足音」を感じさせる活気に溢れていた。
「おい、昨日の薪の素材、乾燥させる前に少し削ってみたんだが、驚くほど魔力伝導率がいいぞ。あれ、ただの倒木じゃないだろ!」
「また『森の管理人』の仕業か?」
リルドは「(……ラッファードが見つけてくれたのが、良い木すぎたかな)」と心の中で苦笑いしつつ、目立たないように掲示板の端へ。
今日の依頼は、『街の共同井戸のバケツ修理』と『広場の街灯の清掃』。
受付へ持っていくと、受付さんは書類に判を押しながら、少しだけいたずらっぽく笑った。
「おはようございます、リルドさん。最近、あなたが街のインフラを陰で支えてくださっているおかげで、街の人たちの顔が明るい気がします。これも大事な冒険者の仕事ですね」
「……ただの雑用だよ。いってきます」
まずは広場の街灯清掃。リルドは「魔力操作」で布に薄く膜を張り、油汚れや煤を魔法のようにスルスルと落としていく。
『……リルド。その街灯の奥、魔石が少し曇っておるな。我の魔力を少し分けてやろう……。ほれ、これで夜になれば、この広場は聖都のような輝きを放つはずだ』
「(ありがとう。ラッファードのおかげで、街が明るくなるね)」
午後からは、井戸で壊れたバケツの取っ手を修理したり、錆びついた滑車に油を差したりと、小まめに動き回った。派手な魔法も剣技も使わないが、リルドが触れるたびに、街の道具たちが息を吹き返していく。
夕暮れ時、リルドは自分たちの手で整えられた街灯が、ぽつり、ぽつりと温かい光を灯し始めるのを眺めていた。
「ただいま、受付さん。街灯も井戸も、全部確認しておいたよ」
「おかえりなさい、リルドさん! 見てください、広場の街灯が今日は一段と澄んだ光で輝いています。みんな、とても喜ぶと思います。はい、報酬の銅貨です」
「ありがとう。……さあ、帰ろうか、ラッファード」
『うむ。暗闇を照らす光を守る……。それもまた、一振りの剣としての誇りだ。……さて、今夜は、かつて勇者と訪れた「不夜城」のきらびやかな思い出話でもしてやろう。お主の磨いた街灯に負けぬほど、美しい物語だ』
報酬の銅貨を握りしめ、リルドは優しい光に包まれた街路を歩く。
「さて、僕も今夜は、街灯の温かいオレンジ色を思い出しながら、ラッファードの少しロマンチックな昔話でも聞いて、ゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、誰かの足元を照らす小さな光を守りながら、今日も穏やかに、地味に深まっていく。




