21話
翌朝、リルドは昨日もらったミルクをたっぷり入れたカフェオレを飲み、すっかり上機嫌でギルドの扉をくぐった。
掲示板の前で、彼はじっくりと依頼を見渡す。派手な討伐依頼や、高額な報酬が並ぶ中、彼の目が留まったのは端の方で少し斜めに貼られていた一枚の紙だった。
「ん、これにしよっと」
それを剥がし、いつものように受付へ持っていく。
「おはよう、受付さん。今日はこれをお願い」
「おはよう、リルドさん。……ええと、『古い街道沿いの石像磨き』? また随分と風変わりなものを選んだわね。あそこ、結構不気味だって敬遠されてるのに」
「石を磨くのは好きだからね。綺麗になると気持ちいいじゃない」
リルドは笑って受理印をもらうと、鼻歌まじりに街を出た。
目的の街道へ向かう途中、崩れかけたレンガの壁の上で、一匹の三毛猫が鳴いているのを見つけた。
「おや、こんにちは。君も日向ぼっこかい?」
リルドが声をかけると、猫は「なーん」と短く鳴いて、ひょいと彼の肩に飛び乗ってきた。
普通の人間なら驚くところだが、リルドは「おっと、一緒に来るかい?」と動じることなく、猫を肩に乗せたまま歩き続ける。
猫はリルドの耳元で喉を鳴らし、まるでお気に入りの場所を見つけたかのようにくつろいでいた。
目的地に到着すると、そこには苔むした古い騎士の石像が立っていた。
リルドは持ってきた布と、少しだけ魔力を込めた特製の洗浄液(といっても、水に森の木の実を混ぜただけのもの)を使って、丁寧に石像を磨き始める。
「よしよし、すぐに綺麗にしてあげるからね」
一拭きするごとに、長年の汚れが魔法のように落ちていく。猫はその様子を近くの岩の上から、じっと不思議そうに眺めていた。
数時間後、石像はかつての輝きを取り戻し、午後の陽光を浴びて神々しく輝き始めた。
「うん、いい出来だ」
リルドが満足げに頷くと、石像から微かな温かさが伝わってきたような気がしたが、彼は「お日様のせいかな」と特に気に留めず、道具を片付けた。
帰り道、街の門が見えてきたあたりで、リルドの耳に尋常ではない騒がしさが届いた。
「おい、あれを見ろ! 街のすぐ近くまで来てるぞ!」
「あんな巨大な群れ、街の警備隊だけじゃ防げない!」
街道の先で、冒険者たちが武器を手に右往左往している。どうやら森の奥から、大規模な魔獣の群れが街に向かって移動を始めたらしい。
「なんだか、いつもより賑やかだなぁ」
リルドは肩に戻ってきた猫を優しく撫でながら、人だかりの方へと近づいていった。
彼には、その騒ぎの先にいる「何か」が、単なる魔獣の暴走ではないことが、なんとなく察せられていた。




