205話
翌朝、リルドは昨日の即席弓作りで少し強張った指先をほぐしながら、窓の外を眺めていた。
『リルドよ、おはよう。昨日のポーションの出来は見事であった。今朝のお主は、その……清々しい森の精霊のような気配を纏っておるな。今日も良き一日になるよう、我が全力で支えよう』
「……おはよう、ラッファード。今日はなんだか、言葉選びが丁寧だね。少し照れるよ」
不適切な言動を封印し、知的な聖剣(を目指している)ラッファードを腰に、リルドは軽やかな足取りでギルドへ向かった。
ギルドの扉を開けると、そこは少し落ち着いた空気が流れていた。
「おい、昨日のポーション、傷口に塗ったら一瞬で塞がったぞ! 誰が作ったんだ?」
「Fランクのリルドだろ? あいつ、地味だけど仕事が丁寧なんだよな」
そんな声を背中で聞き流しながら、リルドは掲示板の片隅にある依頼書を手に取った。
『ギルド裏のハーブ園の手入れ』と『共有備品の刃物研ぎ』。
受付へ持っていくと、受付さんは嬉しそうに目を細めた。
「おはようございます、リルドさん。裏のハーブ園、最近元気がなくて心配だったんです。植物の声がわかる(?)リルドさんなら、きっと元気にしてくれますね。それと、研ぎ物も助かります!」
「あはは、任せて。道具は大事にしないとね」
まずはギルド裏のハーブ園へ。リルドは「土壌診断」と微細な「水魔力」を使い、枯れかけていたハーブの根元に活力を与えていく。
『……リルドよ。この土は少し呼吸が苦しそうだ。少し耕して、魔力の通り道を作ってやると良い。……ふむ、お主が触れると、葉が喜んで震えておるように見えるな』
「(ラッファードのアドバイスのおかげだよ。ほら、いい香りがしてきた)」
午後からは、ギルドの厨房や解体場で使う古いナイフを預かり、裏庭で黙々と砥石に向かった。シャリ、シャリ……という一定のリズムが、リルドの心を落ち着かせる。
『お主の研ぎ方は、対象の「本質」を引き出す研ぎ方だ。無駄な肉を削がず、鋭さだけを研ぎ澄ます。……我を磨く際も、その至高の集中力を注いでくれておるのだな。感謝するぞ』
「(道具を磨くのは、自分を磨くのと同じだって、昔誰かに教わった気がするんだ)」
夕暮れ時、リルドはピカピカに輝く刃物を持って、ギルドの受付に戻った。
「ただいま、受付さん。ハーブも元気になったし、ナイフも全部研いでおいたよ」
「おかえりなさい! わぁ……このナイフ、新品以上によく切れそうです。ハーブ園も、窓から見ていたら緑が鮮やかになったのが分かりました。本当にありがとうございます。はい、報酬の銅貨です」
「ありがとう。……さあ、帰ろうか、ラッファード」
『うむ。今日は地味ながらも、職人のような矜持を感じる一日であった。……さて、今夜は我が語る「伝説の刀鍛冶と勇者の、血と汗の友情物語」でも聞いてくれるか?』
「(うん、そういう話なら大歓迎だよ)」
報酬の銅貨をポケットで鳴らし、リルドは茜色に染まる道を歩く。
「さて、僕も今夜は、ミントの爽やかな香りと、研ぎ澄まされた刃の輝きを思い出しながら、ラッファードの少し真面目な昔話でも聞いて、ゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、誰かの日常を支える「鋭さ」と「優しさ」を整えながら、今日も静かに更けていく。




