204話
翌朝、リルドは窓から差し込む柔らかな光の中で、静かに目を覚ました。
『リルドよ、おはよう。今朝の空気は一段と澄んでおるな。お主の寝顔も、まるで朝露に濡れる若葉のように……あ、いや、失礼。今日も一日、実りある探索になるよう、我が精一杯サポートさせてもらおう』
「……おはよう、ラッファード。今日はなんだか、すごく紳士的だね。助かるよ」
不適切な発言を自制しようと努める聖剣を背負い、リルドはギルドへと向かった。
ギルドの掲示板で見つけたのは、今のリルドにぴったりの地味で堅実な依頼だった。
『薬草採取』と『ポーション小作成』。
受付へ持っていくと、受付さんは安心したように微笑んだ。
「おはようございます、リルドさん。採取から調合までセットの依頼ですね。リルドさんの作るポーションは品質が安定していると、新米冒険者たちに人気なんですよ」
「あはは、光栄だよ。丁寧に作ってくるね」
森の静かなエリアで、リルドは慣れた手つきで薬草を摘んでいく。
『……リルド。その茂みの奥、日当たりと湿度のバランスが最高だ。質の良い「癒やし草」が群生しておるぞ。……ふむ、お主の摘み方は相変わらず優しいな。根を傷めぬよう、次への配慮も忘れない。流石だ』
「(ありがとう。ラッファードが教えてくれるおかげで、いいのが見つかるよ)」
採取を終えると、リルドは森の広場で携帯用の調合セットを取り出した。摘みたての薬草を丁寧にすり潰し、魔力を微細に流しながら煮出していく。
『お主の魔力操作は、まるで静かな湖面のようだ。この純度が、ポーションの効き目を一段階引き上げるのだな』
出来上がったのは、濁りのない透き通った緑色の「ポーション小」。リルドはそれを小瓶に詰め、満足げに頷いた。
帰り道、リルドはふと足を止めた。少し離れた藪の向こうで、獲物を狙う小さな獣の気配がしたのだ。
「(驚かせないように、少しだけ注意を引こうかな)」
リルドは傍らに落ちていたしなやかな枝と、丈夫な蔓を拾い上げ、魔法で強化しながら即席の弓矢をササッと作り上げた。
『ほう、即興の工作か。お主の器用さには恐れ入る。……狙いはあの枯れ木の枝か?』
「(うん。ちょっと音を出すだけだよ)」
ヒュッ、と放たれた矢は、狙い通り遠くの枯れ木を叩き、パキーンと乾いた音を鳴らした。驚いた獣は、リルドたちの方へは来ず、森の奥へと逃げていった。
「よし、これで安全に帰れるね」
夕暮れ時、リルドはギルドに到着した。
「ただいま、受付さん。依頼の品、持ってきたよ。ポーションも出来たてだ」
「おかえりなさい、リルドさん! わぁ、この透明感……素晴らしい出来です。即席の弓まで持っているなんて、今日は少し野性的な冒険だったのでしょうか? はい、報酬の銅貨です」
「あはは、ちょっとした護身用だよ」
報酬を受け取り、リルドは夕焼けの道を歩く。
『リルドよ。今日は我も、主の職人気質な一面を間近で見られて、誇らしい気持ちだ。……さて、今夜は我を磨きながら、主のその繊細な指先の動きについて、じっくりと語り合おうではないか』
「(……うん、そのくらいならいいよ)」
万年Fランク冒険者の日常は、調合したポーションの爽やかな香りを残しながら、今日も穏やかに、地味に更けていく。




