19話
鉄鉱石を無事に納品し、報酬の銅貨を受け取ったリルドは、すっかりオレンジ色に染まった街を歩いていた。
「今日はロック鳥君にも会えたし、いい一日だったなぁ。……あ、そうだ。明日の朝ごはんのパンを買って帰らなきゃ」
馴染みのパン屋で、外側がカリッとして中がふわふわの白パンを二つ買い、リルドは鼻歌を歌いながら自宅へと戻った。
家に着くと、庭先に白い影が動くのが見えた。
「ぴっ、ぴぴっ!」
「あ、うさぎさん。おかえり。今日も遊びに来てくれたんだね」
昨日のムーン・ラビットが、またリルドを待っていたのだ。リルドが玄関の鍵を開けると、うさぎさんは当然のように足元をすり抜けて中へ入り、一番お気に入りのクッションの上に陣取った。
「ふふ、すっかりここが気に入ったみたいだね。今夜はロック鳥君からもらった……じゃないや、会った時についていた不思議な実があるから、一緒に食べようか」
リルドは今日、ロック鳥が甘えてきた時に羽に挟まっていた、見たこともない金色に輝く実を取り出した。
半分に割ると、部屋中に高貴な香りが広がる。
「はい、半分こ。美味しいよ」
リルドとうさぎさんが並んで実を齧っていると、窓の外から「コンコン」と控えめな音がした。
見ると、今朝の青い小鳥が窓枠に止まっている。
「おやおや、みんな集合だね。入りなよ、夜は冷えるから」
窓を開けると、小鳥も中へ入り、リルドの肩に止まった。
最強の霊獣、空の王者の気配を纏った小鳥、そして伝説級の実力を持つ青年。
狭い部屋の中には、およそ世界中の冒険者が腰を抜かすようなメンバーが揃っていたが、流れているのはどこまでも穏やかで、ゆるい空気だけだった。
翌朝、リルドはいつもより少し遅くに目が覚めた。
右腕にはうさぎさんが、左の枕元には小鳥が丸まって寝ている。
「……幸せだなぁ。ずっとこうしていたいけど、そろそろ起きないとね」
みんなと別れ、リルドはいつものようにギルドへ。
掲示板の前で、彼はふと目に留まった一枚の依頼札に手を伸ばした。
「ん……? 『迷子の仔牛を探してほしい』。うん、これにしよう。牛さんはのんびり歩くから、僕も一緒に散歩ができそうだ」
リルドがその依頼札を持って受付に行くと、そこには昨日ロック鳥に助けられたCランク冒険者たちが、青い顔でギルドマスターに報告をしていた。
「本当なんです! あのロック鳥が、Fランクのリルドに喉を鳴らして甘えていたんですよ!」
「バカなことを言うな。あの誇り高いロック鳥が人間に懐くなど……」
ギルドマスターが呆れたように溜息をついた時、リルドがひょっこり横から依頼書を差し出した。
「おはようございます。マスター、受付さん。今日はこの仔牛さんの依頼をお願いします」
マスターはリルドの顔をまじまじと見つめ、それから彼の肩に一枚だけ残っていた「ロック鳥の輝く羽根」に目を留めた。
「……リルド、お前、また何かやったのか?」
「え? 何かって……あ、この羽根ですか? 落ちてたから拾っただけですよ。綺麗だったので」
リルドはあははと笑い、受理印を押してもらうと、軽やかな足取りでギルドを出ていった。
「……あいつ、絶対確信犯だぞ」
マスターの呟きは、のんびりと歩き出すリルドの背中には届かなかった。




