178話
『リルドよ……先ほどのクレイアイドル、受付の嬢ちゃんに随分と気に入られていたな。お主の指先から伝わる魔力が、あやつらに愛嬌を与えたのであろう。……我も、たまにはあのように優しく魔力を流し込まれたいものだ』
「(……最後の一言がなければ、素直に喜べるんだけどな)」
翌朝、僕はいつものように鳥のさえずりと、それ以上に騒がしい剣の声で目を覚ました。
ギルドへ向かう道すがら、掲示板を確認する。
「今日はこれにしようかな。『裏山の枯れ木の伐採』と『湧き水の水質調査』」
依頼書を剥がして受付へ持っていくと、受付さんは少し意外そうな顔をした。
「あら、リルドさん。裏山の伐採は意外と重労働ですよ? でも、リルドさんなら道具の扱いも丁寧ですし、安心してお任せできますね。いってらっしゃい!」
裏山へ到着し、僕は斧を手に取る。
背中のラッファードが、鑑定スキルを全開にして念話を飛ばしてきた。
『おいリルド、その木はやめておけ。芯が腐っておる。狙うならあちらの、少し捻くれた枝ぶりの方だ。あれは乾燥させれば一級の焚き木になるぞ』
「へえ、詳しいんだね」
『当然だ。かつて我の主だった勇者は、野営の火おこしには人一倍うるさくてな。我を使って薪を割らせるという暴挙に出たこともあるのだぞ』
「聖剣で薪割りなんて、バチが当たりそう……」
木を伐り倒し、次は湧き水の調査へ。
「視野拡大」で水の色を、魔力感知で不純物の有無を調べる。
「うん、異常なし。冷たくて気持ちいいね」
僕が手を洗っていると、ラッファードがまたしても余計なことを言い出した。
『リルド……その水で、我の柄を少し濡らしてはくれぬか? 滴る水がお主の指を伝い、我の核に届く……あぁ、想像しただけで……』
「(……無視、無視。さっさと帰ろう)」
夕暮れ時、僕はギルドに戻って報告を済ませた。
「ただいま、受付さん。伐採も調査も終わったよ」
「おかえりなさい、リルドさん! お疲れ様です。……あら? 剣がなんだか、熱に浮かされたような溜息(?)を漏らしているようですが……山道で何か拾いました?」
「あはは……。ただの妄想だから、気にしないで」
報酬を受け取り、僕は「次は水浴びを……!」と震える剣を、さらにきつく背負い直した。
「さて、僕も今夜は、ラッファードの『勇者の野営でのとんでもない失敗談』の続きでも聞きながら、温かいほうじ茶を飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、伝説の武器の「水も滴る(?)欲望」をさらりとかわしながら、穏やかに更けていく。




