176話
ギルドの扉を開けると、今日も今日とて冒険者たちの喧騒が押し寄せてきた。「あの魔物、次は絶対に仕留めてやる!」「昨日の酒場、新メニューが絶品だったぜ!」といった声が飛び交う中、僕は掲示板の前に立つ。
背中では、相変わらず剣がうるさい。
『おいリルド、今日はどれにする? あのドラゴンの巣の調査はどうだ? 我の輝きで一掃してやろうぞ!』
「(……無理に決まってるでしょ)」
僕は大きなため息をつきながら、自分の身の丈に合った『銅鉱石採取』を剥がし、受付に持っていった。
街を出て、鉱山へと続く道中、剣は自分が勇者だった頃の昔話をする。
『……あの時の魔王軍四天王は手強かった。地を割り、空を焦がすような戦いだったが、我の放った一撃がお守り代わりの首飾りに当たってな。奇跡のような勝利だったのだぞ』
普段はスケベで騒がしいこの剣だが、語られる勇者ラッファードとしての昔話は、リルドにとっては憧れの話でもある。幼い頃に絵本で読んだような英雄の姿が、今、自分の背中で熱っぽく語られている事実に、少しだけ胸が高鳴るのを感じていた。
「へえ、その首飾り、今でもどこかにあるのかな?」
『ふむ、風の噂では王都の宝物庫にあるというが……まあ、今の我にはお主の背中が一番の安住の地よ』
鉱山に到着し、僕はピッケルを振るって銅鉱石採取に精を出す。
「(魔力感知・深度一段)」
岩の奥に眠る鉱石の脈を探り、丁寧に掘り起こしていく。地味な作業だが、ラッファードもこの時ばかりは『左だ。そこを叩け!』と的確な指示を出し、作業は驚くほど順調に進んだ。
収穫を袋に詰め、帰り道で剣とのやり取りを楽しみながら歩く。
「ラッファード、昔話の続きを聞かせてよ。その四天王を倒した後の祝宴はどうだったの?」
『おお、あれは凄かったぞ! 街中の酒が尽き、一晩中……』
つい夢中になって話し込んでいると、向こうからやってきた冒険者に「え? 独り言?」と怪訝な顔で指をさされた。
「あ……」
僕は一瞬で現実に引き戻され、顔を真っ赤にして口をつぐむ。ラッファードだけは『なんだあの若造、我と主の密談を邪魔するとは!』と憤慨していたけれど、僕はそそくさと歩調を早めた。
夕暮れ時、僕はギルドに報告するために窓口へ。
「ただいま、受付さん。銅鉱石、質の良いのがたくさん獲れたよ」
「おかえりなさい、リルドさん! 本当だ、純度が高いですね。流石です!」
報酬の銅貨を受け取り、僕は「よしよし」と喉を鳴らすように震える剣を軽く叩いた。
「さて、僕も今夜は、憧れの勇者様の武勇伝の続きを夢で見られることを祈りながら、温かいミルクを飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、伝説の英雄の物語を独り占めしながら、静かに、けれど誇らしく更けていく。




