175話
ギルドの喧騒の中、リルドはいつものように掲示板の前に立っていた。
背中の剣は、昨夜のしんみりした様子など微塵も感じさせないほど、朝から絶好調だ。
『今日も清々しいなあ! リルドよ、太陽の光がお主の髪を黄金色に染めて実に美しいぞ!』
「(あーはいはい、わかったから少し静かにしててよ)」
掲示板を眺めていると、ラッファードが特定の依頼書を指し示すように震えた。
『今日はこの毒消し草採取と解毒ポーションをやってみてはどうだ? 我が鑑定したところ、今朝は湿度が低く、最高品質の草が採れるはずだぞ』
「(え? 急にまともな提案……)」
その意外な熱心さに押され、リルドは依頼書を剥がして受付へ向かった。
「(毒消しは『宿りの森』だったよな。 たしかに最近、魔物の毒で困ってる冒険者が多いって聞いたし)」
装備を整えて街を出る。道中、剣はまたしても歴史の語り部となった。
『リルドよ、昔はこの道はいまでは宿りの道と呼ばれるが、当時は『闇夜の紬道』と呼ばれ恐れられていたのだ。一歩踏み外せば影に呑まれると言われていてな……』
「闇夜の紬道……。今はこんなに明るくて平和なのにね」
『うむ。平和とは、誰かの戦いの上に成り立つものなのだ』
そんな少し深い話を聞きながら、森の奥深くへ入り、毒消し草採取を始める。
リルドが膝をついて土を払っていると、ラッファードの講釈は止まらない。
『その草の扱いには気をつけろ。かつての有名な錬金術師であるポートはな、毒消し草の根を煎じる温度を一分間違えただけで、街中の鼻毛を緑色にする大失敗を犯したのだぞ』
「……え、それ解毒ポーションじゃなくて別の薬じゃない?」
『はっはっは! ポートは天才だったが、少しばかり抜けていてな!』
笑い話(?)を聴きながら、リルドは丁寧に草を採取し、携帯用の調合瓶で解毒ポーションを精製した。ラッファードの的確な温度指示(「今だ!」「火を引け!」)のおかげで、これまでにないほど透き通った紫色のポーションが完成した。
夕暮れ時、リルドはギルドに報告する。
「ただいま、受付さん。解毒ポーション、10本分持ってきたよ」
「おかえりなさい! ……えっ、このポーション、ものすごく純度が高いですね!? 熟練の錬金術師が作ったものみたいです!」
「あはは……。ちょっと、コツを教えてもらったんだ」
報酬の金貨を数枚受け取り、リルドは満足げな重みを感じながらギルドを後にした。
「さて、僕も今夜は、鼻毛が緑にならないことを祈りつつ、ラッファードの古い友人たちの失敗談でも聞きながらゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、伝説の英雄が語る「生きた歴史」を知識に変えて、着実にその腕を上げていく。




