173話
朝、カーテン越しに差し込む光で目を覚ます。背中の剣が「おいリルド、朝だぞ。主の寝顔も良いが、そろそろ活動の時間だ」と頭の中に直接響く。僕は「……わかってるよ」と眠い目をこすりながら身支度を整えた。
家を出てすぐの街道を歩いていると、一匹のコボルトが道端に座り込んでいた。以前、罠から助けてあげた顔馴染みだ。僕は足を止め、持っていた干し肉を少し分け与えながら「今日はいい天気だね」と声をかける。コボルトは「クゥ、リルド、元気。森、気をつけて」と片どりの言葉で返し、短い尻尾を振って森へ消えていった。
ギルドに到着すると、相変わらずの喧騒が広がっている。僕は掲示板の前に行き、いつものように地味で堅実な依頼を探した。『薬草採取』と『岩塩から塩を採取』の二枚を剥がし、受付に持っていく。
「リルドさん、おはようございます。今日は岩塩の採取ですね。あそこは少し足場が悪いので、ピッケルの確認を忘れないでくださいね」
「ありがとう、受付さん。気をつけて行ってくるよ」
採取場所へと向かう道中、背中のラッファードが饒舌に語り始める。
『ここはどうだ、リルド。この広場、かつては我と仲間たちが祝杯をあげた宿場があった場所なのだ。あれは昔は、もっと美しい白亜の塔が立っていてな……魔王軍の火竜に焼かれてしまったが、思い出深い場所だ』
僕は「へえ、そんな歴史があったんだ」と相槌を打ちながら、ラッファードの懐かしむような声に耳を傾ける。かつての英雄の思い出を共有できるのは、案外悪い気分ではなかった。
岩場に到着し、僕は「視野拡大」で純度の高い岩塩の層を見極め、丁寧に削り出した。同時に、周辺に生えていた質の良い薬草も手際よく摘んでいく。ラッファードは作業中も「右だ、そこに最高級の塩の結晶が眠っているぞ」とアドバイス(という名の横槍)を入れてくるが、おかげで仕事は予定よりも早く終わった。
夕暮れ時、僕はギルドに報告するために戻ってきた。
「ただいま、受付さん。岩塩も薬草も、いいものが取れたよ」
「おかえりなさい、リルドさん! まあ、この岩塩、透明度が素晴らしいですね。流石です!」
報酬の銅貨を受け取り、僕は少し重くなった袋を揺らした。
「さて、僕も今夜は、ラッファードの話に出てきた昔の料理を想像しながら、塩気の効いた温かいスープでも飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、伝説の記憶と小さな交流を大切にしながら、穏やかに更けていく。




