171話
ギルドの扉を開けると、いつものように騒がしい活気がリルドを迎えた。
「おい、この酒場の新しいチキン、マジで美味いぞ!」
「それよりこのおすすめ小説読んだか? 『時の剣士』の正体について熱い考察が載ってるんだ」
そんな会話を耳に流しながら、リルドは掲示板の前へ。
「(今日も目立たない仕事を……)」
彼は『薬草採取』と『岩トカゲの生態記録』の依頼書を剥がし、受付に持っていった。
街の外へ出ると、まずは草原で慣れた手つきで薬草採取を済ませる。
次に、岩場の陰に潜む岩トカゲの生態記録を行う。じっと動かずにトカゲの動きを観察し、手帳に筆を走らせる。地味だが、リルドの鋭い観察眼が光る作業だ。
帰り道、背中の剣と少し話す。
『リルドよ、先ほどの岩トカゲの観察眼、なかなかどうして鋭いではないか。あの隙を突けば一撃だったろうに』
「……ラッファード、僕は別に戦いたいわけじゃないんだってば。記録するだけで十分だよ」
『ふん、欲のない主だ。だが、そういう静かな強さも……まあ、悪くはない』
そんなやり取りを、肩の上のうさぎが「ぴっぴ」と楽しそうに聞いている。
夕暮れ時、リルドはギルドに報告するために戻ってきた。
「ただいま、受付さん。薬草と、岩トカゲの記録だよ」
「おかえりなさい、リルドさん! いつも丁寧な報告、ありがとうございます。生態調査の資料、学者さんたちが喜ぶわ」
報酬の銅貨を受け取り、リルドは安堵の息をつく。
「さて、僕も今夜は、ギルドで話題のチキンでも買って帰って、ラッファードの昔話でも聞きながらゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、伝説の勇者との穏やかな会話を楽しみながら、静かに、けれど確実に実績を積み重ねていく。




