170話
朝の柔らかな光が差し込む中、僕はいつものようにギルドの喧騒へと足を踏み入れた。
ギルドで掲示板をみるリルドは、背後で「派手な仕事にしろ!」と騒ぐラッファードを無視して、慣れ親しんだ薬草採取と木霊石の納品を剥がし、受付に持っていく。
「おはよう、受付さん。今日も無理せず、コツコツ頑張るよ」
「おはようございます、リルドさん。木霊石は河原の方ですね。足元、気をつけてくださいね」
街を離れ、僕はいつもの草原で薬草採取を行い、それから透き通った水の流れる河原にて木霊石採取をしている。
「木霊石は水音を聴かせると輝きを増すんだよね……」
僕が丁寧に石を洗っていると、突然、上流の方から大きな地響きと怒号が聞こえてきた。
帰り道にてDランク冒険者が勢いよく走ってくる。その後ろには、燃え盛る炎を纏った魔獣「フレイムサラマンダー」が迫っていた。
「逃げろ! 魔法が効かないんだ!」
絶体絶命の光景。僕は迷わず立ち上がると、これまで「地味に」と避けてきた背中の剣を抜く。
『よし! 我の出番なわけだな! 待っていたぞ、リルド!』
「そうだね。 ラッファード、力を貸して!」
剣が眩い青色の光を放ち、僕の魔力と深く接続される。
『リルドよ……我の言う呪文を唱えよ。水属性の真髄を見せてやる……。創たる水よ……我に従え!』
「わかった!」
僕は剣を正眼に構え、高らかに詠唱した。
「創たる水よ……我に従え!」
その瞬間、河原の清流が意思を持ったように立ち上がり、剣に水が宿る。
『放て! 水蓮刃!!』
僕が鋭く一閃を放つと、刀身から巨大な水の刃が飛び出し、炎の魔獣を瞬時に鎮火・圧倒した。蒸気が辺り一面を真っ白に染め上げる中、サラマンダーは戦意を喪失して逃げ去っていった。
助かった冒険者は腰を抜かし、霧の中に立つ僕の姿を唖然と見つめている。
「今のは……伝説の魔法剣士……?」
霧が晴れる前に、僕はさっさと剣を布で隠し、ギルドに報告するために街へ戻った。
「ただいま、受付さん。採取と納品、無事に完了したよ」
「おかえりなさい! ……あれ? リルドさん、なんだか少し湿ってませんか? それにその剣、なんだか誇らしげにキラキラしていますね」
「あはは……。ちょっと、水辺で張り切りすぎちゃって」
報酬を受け取りながら、心の中でラッファードが満足げに笑った。
『どうだリルド、我との連携も悪くないだろう? 次はもっと強力な術を……』
「ぴっぴ(格好良かったよ)!」
「さて、僕も今夜は、初めて使った水魔術の余韻に浸りつつ、冷えた身体を温かいスープで温めてゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、伝説の勇者との「秘密の特訓」を経て、少しずつその色を変え始めていた。




