163話
翌朝、宿の裏庭の地面に突き刺さっていた剣を回収し、僕は翌日依頼書の仕事をしに行く。
『うわーん……寒かったあ! 夜露が身に沁みたぞ! 伝説の聖剣を野晒しにするなんて、主は鬼か! 悪魔か!』
「(うっせー。自業自得でしょ)」
僕は無視して歩き出す。肩に乗ったうさぎは深夜の光景を知ってるので、半分目を閉じて呆れているようだった。
ラルドの街の郊外、霧の深い森へと足を踏み入れる。
『……おいリルド、ふざけるのはここまでだ。この辺りから変な魔力を感じるな。近くにいるぞ』
剣の声が、一瞬で「戦士」のトーンに切り替わった。
「了解」
「視野拡大」で霧の揺らぎを捉え、「聴覚向上」で土を蹴る音を特定する。
直後、巨大な影が木々をなぎ倒して討伐対象が現れる。古代遺跡の守護者、ストーン・ガーディアンだ。
「よし!(魔剣士、魔術、体術オンライン)やるぞ!」
僕は聖剣を抜き放ち、魔術回路を最大出力で接続する。
「(風の刃で関節を削り、火の追撃で核を焼く!)」
剣は文句を言いながらも、僕の動きに合わせて完璧な魔力伝導を見せる。僕が跳躍し、ガーディアンの頭上から一閃を叩き込むと、轟音と共に巨躯が崩れ落ちた。
無事に討伐を終え、帰り道にまた剣はいつも通りにうるさい。
『今の最後の一撃、少し角度が甘かったな! もっと我の重みを感じろと言っただろう! それにしてもお前の腰のひねりは実に……』
「はいはい、わかったから少し静かにして」
あまりに熱心に説教(とセクハラまがいの感想)をしてくるので、つい口に出して言い返していると、冒険者とすれ違いざまにギョッとされた。
「お、おい? 独り言か……? 若いのに大変だな……」
「(……っ!)」
僕は顔から火が出るほど恥ずかしくなる。慌ててうつむき、早歩きで街へ戻った。
ラルドの街の窓口で手続きを終え、そのまま本拠地のギルドに報告する。
「ただいま、受付さん。ラルドの街での討伐、完了したよ」
「おかえりなさい! お疲れ様です、リルドさん。……あら、なんだか今日は一段と顔が赤いですね。やっぱりラルドの街は日差しが強かったですか?」
「ううん……変なところで、変な独り言を聞かれちゃっただけだよ」
報酬の金貨を受け取り、僕は「次は腹が減ったぞ!」と騒ぐ剣を布でぐるぐる巻きにした。
「さて、僕も今夜は、このお喋りな剣に頑丈な猿ぐつわをはめる方法を空想しながら、静かにパンでも食べてゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、伝説の聖剣に振り回されつつ、少しずつ「最強の便利屋」としての実績を積み上げていく。




