161話
鳥のさえずりよりも先に、頭の中に響く威厳のある声で朝が来る。
『おい! リルド……そろそろ朝だぞ。主たるもの、日の出と共に動くべし!』
「はーい……分かってるよ……」
眠い目をこすりながら身支度を整え、ギルドまでの道を歩き出す。肩にはうさぎ、背中には喋る聖剣。この異色なトリオも板についてきたが、剣とうさぎは仲良く会話……というより、僕を肴にした密談に花を咲かせていた。
『……リルドのやつ、歩くたびにあの尻がキュッと引き締まっておるな。なかなかに鍛えられた良い形だ』
「ぴっぴ! ぴぴっ(顔も可愛いよね!)」
『うむ、あの無防備な寝顔も評価に値する』
背後と肩から聞こえる理解できない会話が飛ぶ。
「(だあ! こっ恥ずかしいなぁ! 聞こえてるんだからね、二人とも!)」
顔を真っ赤にしながらギルドに滑り込むと、館内はいつにも増して喧騒に包まれていた。どうやら新しい『瞳の中の聖騎士様』という小説が流行っているらしい。
「聖騎士の、あの散り際が最高なんだよ……!」という冒険者の声を聞いた瞬間、背中の剣がなにやら震えてそわそわしている。
「(冒険者の言ってるファンタジー小説に興奮してるのか? それとも、昔の知り合いでもモデルになってるのかな……)」
僕が呆れている間に、うさぎはぴっぴっと依頼書を強くとんとんする。
『ほほう! なかなか良さそうではないか! ちと遠いが【ラルドの街】は、昔勇者の時代には【王の住まう街】と言われ、我も一度は……』
歴史講釈が始まりそうになったので、僕は依頼を剥がして持っていこうとすると、
『まあ、待て、まだ話が……我の武勇伝が……!』
「はいはい、歩きながら聞くよ」
僕はすたすたと歩き出し、受付で手続きを済ませた。
そのまま遠方の【ラルドの街】へ向かう。
今回は初日は向かうのみで、ラルドの街の宿泊先に泊まることになってる。道中も、ラルドの街へ到着する間も、剣はあーだこーだと言ってた。
『あそこの丘は、昔邪龍と取っ組み合いをした場所でな……』
『あの川の水で我を洗えば、切れ味が増すかもしれんぞ』
「ぴっぴ(お腹すいた)!」
賑やかすぎる(主に精神的に)道中を経て、ようやく夕暮れ時に宿泊先に到着した。
「ふう……。やっと着いたね。今日は移動だけで疲れちゃったよ」
ラルドの街の宿は、昔の王都の名残か、どこか気品のある石造りだった。部屋に入ると、僕は荷物を下ろし、ベッドに腰を下ろす。
『おいリルド、我を窓際に置け。月明かりで魂を浄化したいのだ』
「はいはい……」
万年Fランク冒険者の出張は、歴史の生き証人である聖剣の思い出話に耳を塞ぎつつ、静かに夜の帳へと溶け込んでいく。




