159話
鳥のさえずりと共に、今朝も頭の中に直接響く不躾な声で朝起きる。
『おい……薄のろま』
「あの」
『なんだ? 薄のろま』
「リルドだ」
『なんだ? 薄』
「リルド!!」
『ほう? リルドか、薄のろま』
「それやめろ!」
朝から不毛な押し問答を繰り返し、僕はすっかり疲れ果てた顔で、肩にうさぎ、背中にうるさい剣を背負ってギルドで掲示板をみる。
『薄……いやリルドよ……これなどどうだ?』
剣が選んだ依頼書を、同時にうさぎもぴっぴと同じ依頼書を叩く。
『ほう? お主、なかなかに骨がある。我と気が合うようだな』
「ぴっぴっ!」
いつの間にかこの二人は仲良くなっている。……僕を置いてけぼりにして。
現場への移動中も、剣の口(?)は止まらない。
『リルド……帰ったら、報酬の油で俺の柄をよしよししてくれないか?』
「それは卑猥な行為だったら許さないよ?」
『…………おぅ』
一瞬の沈黙。(そういう行為だったんだな)と僕は確信し、冷ややかな視線を背中の剣に送った。
依頼書の内容をこなす最中も、剣は「俺の角度が悪い」だの「うさぎ、そこだ!」だのと騒がしい。だが、帰り道に運悪く魔獣の群れに襲われている冒険者に出くわした。
「助けてくれ!」
「ちょうどいい、僕も少しイライラしてたんだ」
僕は冒険者の前に躍り出る。一緒に魔獣討伐を手伝う。
『さあ、リルドよ!! 我を使い……最高の魔術剣技を見せろ!』
「ああ! そのつもりだ!(そしてストレス発散させてもらうからな!!!)」
僕は剣の文句を封じるように魔力を全力で流し込み、目にも止まらぬ速さで剣を振るった。
「(魔術回路・全開! 剣士格闘術・極!)……せいッ!」
青白い閃光が森を駆け抜け、魔獣たちは悲鳴を上げる暇もなく霧散した。あまりの威力に、助けた冒険者はポカーンと口を開けて固まっている。
スッキリした顔でギルドに報告するために戻ってきた。
「ただいま、受付さん。討伐と採取、終わったよ」
「おかえりなさい! リルドさん、なんだか今日は……剣から『ひぃぃ、もう勘弁してくれ』って声が漏れ聞こえてきそうなほど、凄みがありますね」
「あはは、気のせいだよ。しっかり『よしよし(物理的な手入れ)』してあげないとね」
報酬を受け取り、僕は「お、俺が悪かった……」と震える剣を背負い直した。
「さて、僕も今夜は、少し静かになった聖剣を眺めながら、うさぎ君と一緒に美味しいスープでも飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、伝説の武器を力技で黙らせながら、今日も穏やかに(?)更けていく。




