154話
翌朝、昨夜の回想の余韻を振り払うように、僕はいつものようにギルドで掲示板をみる。
今日は少し高い場所の空気を吸いたくて、険しい場所の依頼を選んだ。
「これに決めたよ、受付さん」
依頼書『ホノル山脈でホノウ石の採取』。
標高の高い場所にしかない、熱を帯びた珍しい鉱石の採取依頼だ。
「おはよう、受付さん。ちょっと山まで登ってくるね」
「おはようございます、リルドさん。ホノル山脈は冷えますから、準備は入念にしてくださいね」
受理印をもらうと、僕は道具屋で必要な物を揃え、防寒具や採掘用のピッケルを鞄に詰めて、ホノル山脈へ向かうことにした。
澄んだ空気と雪に覆われた山道を、「視野拡大」で足場を確認しながら登っていく。目的の場所へ着くと、岩の隙間で赤く光るホノウ石を採取した。熱を放つその石を慎重に袋へ詰め、ホッと一息ついて帰り道を歩いている時のことだ。
向こうからやってきたCランク冒険者が来て、僕の前に立ちはだかった。彼は僕を上から下に見て、鼻で笑いながら言った。
「おいおい、こんな雪山に女の子がこんなとこ来ちゃだめだろ。危ないから俺が……へ?」
その瞬間、僕の耳には「女の子」という言葉が鋭く刺さった。
最近よく頭を撫でられたり、小動物扱いされたりしていた我慢が、ついに限界を超えた。
「……僕は、男だ!!」
ばきっ! どかっ!!
一瞬の静寂。地面には、何が起きたかわからず目を白黒させて倒れているCランク冒険者の姿があった。
僕は乱れた襟元を整え、ふんと鼻を鳴らす。
「ふう……すっきりした」
性別を間違われて不機嫌なリルドは、倒れた冒険者を放置したまま、足早に山を下りた。
街に戻り、まだ少し頬を膨らませたまま、僕はギルドに報告するためにカウンターへ向かった。
「ただいま、受付さん。ホノウ石、持ってきたよ」
「おかえりなさい、リルドさん! ……あら? なんだか今日は少し……お怒りですか?」
「……受付さん。僕、そんなに女の子に見えるかな?」
僕が低い声で尋ねると、受付さんは「えっ、あ、いえ! 中性的で可愛らしいとは思いますけど……」と冷や汗をかきながらフォローしてくれた。
報酬の銅貨を受け取り、僕はまだ少し収まらないイライラを抱えながらギルドを後にした。
「さて、僕も今夜は、自分が男だってことを再確認するために、ガッツリと厚切りの肉でも焼いて、豪快に食べてゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、たまには溜まった不満を爆発させながら、賑やかに更けていく。




