152話
ギルドに戻ると、昨日の戦いを見た冒険者の話に尾ひれがつき、とんでもない剣士の噂がギルドで流れるが、誰もその正体に気づかないまま酒の肴にしたり、ファンタジー小説の話をしたりしていた。
特に少し昔に連載していたファンタジー小説『時の剣士』が人気らしく、荒くれ者たちが「あの剣技はまさに主人公の再来だ!」と盛り上がっている。その剣士の実のモチーフがリルドであることも知らずに語っているのを横目に、僕は苦笑いした。
「(あれ……僕なんだけどなぁ。あの作者さん、僕の旅の様子をこっそり書いてたんだよね)」
そんな喧騒をすり抜け、掲示板でたまに見るポエムのような依頼書があったのを見つける。
「(あ、またこういうの出てきたね)」
『されどもされども行く末は末端である。だが『ここにある』それまた人生である』。
目的も報酬も判然としない、哲学的な一文。
「(何を意味してるのか……今回のお散歩はそれを確かめるのが正しそうだね)」
僕がその紙を剥がそうとしたら、隣から伸びてきた手が被った。
「あ」
「あ……悪い、君もこれに興味が?」
そこにいたのは、真面目そうな目をした若手剣士のエストだった。結局、意気投合してこの奇妙な依頼書を一緒に行うことにした。今回はリルド、エストと一緒に行くことになった。
街の外へ出て、僕たちはポエムの意図を汲み取ろうと歩き回る。
「末端……人生……。リルドさん、これは境界線のことでしょうか? それとも人生の終着点?」
「うーん、どうだろうねぇ」
歩き続けて数時間、なかなか文章の意味に辿り着けない。だが、街道の本当に端っこ、手入れもされていない古い行き止まりに差し掛かった時、とある場所につきリルドは思った。
そこには、誰にも見られず、ただ静かに一輪の小さな花が咲いていた。道はここで終わり。まさに「末端」。けれど、その花はそこで精一杯に命を謳歌している。
「(『ここにある』。……そっか。どこへ行くかじゃなく、今ここでどう在るかってことか。この依頼主は、この景色を見てほしかったんだね)」
何も倒さず、何も得ず。ただその「在り方」を心に刻んで、僕たちは街へ引き返した。
ギルドに報告すると、受付さんは「ああ、あのポエム依頼ですね」と笑った。
「あれ、隠居した元ギルド長が、お気に入りの景色を誰かに見せたくてたまに出すんですよ。正解に辿り着いたのはリルドさんたちが初めてです」
「あはは、いいお散歩になったよ」
エストは「深い……深すぎる……」と感動に震えている。報酬の銅貨一枚を分け合い、僕は夕暮れの空を見上げた。
「さて、僕も今夜は、道端の花の強さを思い出しながら、温かい野菜スープでも飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、物語の正体を隠したまま、一輪の花のように穏やかに更けていく。




