151話
翌朝、僕はいつものようにギルドで掲示板を見る。今日は少し風が冷たく、体が疼くような感覚があった。僕は二枚の依頼札を選び取る。
「今日はこれと、これにするよ」
依頼書『古井戸の調査』と『シンサーウルフの討伐』。
「(さて、たまには本気でやるかな)」
「おはよう、受付さん。この二つ、受けていくね」
「おはようございます、リルドさん。ウルフの討伐ですか? 無理はしないでくださいね」
受理印をもらい、僕は静かに街の外へと歩き出した。
まずは、郊外にある依頼書の古井戸の調査を行う。
「視野拡大」で暗い井戸の底まで見通し、構造を確認する。
「ふむ……滑車が安定してないね」
僕は手際よく緩んだ部位を調整し、安全を確認した。
続いて、森の奥深くへ。依頼書のシンサーウルフ討伐だ。
「聴覚向上」を最大まで広げ、森の呼吸を読み取る。
「(うまく出くわすと良いんだけどね)」
気配を消し、森と一体化して獲物を探す。ほどなくして現れたシンサーウルフを、僕は無駄のない動きで仕留めた。
森の出口付近で、悲鳴と共に巨大な地響きが聞こえてきた。冒険者が「助けてくれー!」と、巨大な魔獣に追われてこちらへ走ってくる。
相手は突進力の塊、ロンガーディバイソンだ。
僕は落ち着いて背中の手荷物からロングソードを取り出した。
「本日は大サービス」
そう呟き、僕の体内で、眠っていた魔力が鋭く脈打ち始める。
「(魔術回路、剣士格闘術、魔術剣士を久しぶりに使うよ)」
ロンガーディバイソンが突進してくる。
僕は最小限の動きで、ロンガーディバイソンの角を軽い風圧で斬り飛ばした。さらに、背後の飛び木の幹を利用して風の魔術に乗り、空中で剣を旋回させる。
「(風よ、火よ、混ざり合え……!)」
火の魔術と風の魔術を合わせた剣技で討伐する。紅蓮の渦を纏った一閃が魔獣を貫き、巨大な体は一瞬で沈黙した。
その華麗な切っ先に冒険者は腰を抜かす。
「な、なんだ……今のは……。あんた、一体……」
僕は剣の汚れを軽く払い、いつもの穏やかな微笑みに戻った。
「あはは、運が良かっただけだよ。怪我はないかな?」
夕暮れ時、僕はギルドに報告するためにカウンターへ向かった。
「ただいま、受付さん。古井戸の調査も、ウルフの討伐も終わったよ」
「おかえりなさい! ……あれ? なんだか今日のリルドさん、いつもより少し……シュッとして見えますね?」
「そうかな? 運動したからかな」
背後で、先ほどの冒険者が「とんでもない剣士がいたんだ!」と熱弁しているのを横目に、僕は報酬の銅貨を受け取った。
「さて、僕も今夜は、久しぶりに動かした体の節々を労りながら、温かいお粥を食べてゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、その真の姿を夕闇に隠したまま、また穏やかに更けていく。




