149話
翌朝、昨日の「小動物扱い」に少しだけ納得がいかないまま、僕はいつものようにギルドで掲示板を見る。
今日は少し体を動かしたい気分だったので、目にとまった素朴な依頼を手に取った。
「今日はこれにするよ、受付さん」
依頼書『裏通りのドブさらいと排水点検』。
地味で汚れ仕事だけれど、街の衛生を守るためには欠かせない大切な仕事だ。
「おはよう、受付さん。街の裏側、少し綺麗にしてくるね」
「おはようございます、リルドさん。まあ、あそこは足場も悪いですし、匂いもきついですよ。本当にリルドさんが受けちゃうんですか?」
「あはは、大丈夫。鼻は利くけど、綺麗にするのは得意だからね」
受理印をもらうと、僕は長靴と清掃道具を担いで、依頼書の裏通りへと移動を開始した。
現場に到着し、仕事開始だ。
「視野拡大」で排水溝に詰まった泥やゴミの塊を正確に見つけ、「聴覚向上」で水の流れが滞っている場所の微かな異音を拾い上げる。
特別な力で一瞬にして浄化することはしない。僕は自分の手で泥を掻き出し、石の隙間に詰まった枯れ葉を取り除いていく。地道な作業だけれど、詰まりが取れた瞬間に「スッ」と水が流れていくのを見るのは、何とも言えない爽快感がある。
「(……よし、これで雨が降っても溢れることはないね)」
泥だらけになりながらも、僕は全ての点検を終えた。近くの井戸で軽く手足を洗い、夕暮れの涼しい風を浴びながら帰り道を歩く。
すると、向こうから屈強な戦士風の冒険者がやってきて、すれ違いざまに僕の肩をポンと叩いたかと思うと、そのまま頭を力いっぱい撫で回してきた。
「おっ、リルドじゃねえか! 精が出るな! ……お前は本当に、見てるだけで心が洗われるぜ!」
「ちょっ……、あはは! 髪がぐちゃぐちゃになっちゃうよ……!」
またしても撫でられた理由がわからず、僕は首を傾げる。
「(……さっきまでドブを掃除してたから、むしろ汚れてるはずなんだけどな。冒険者の人たちは、不思議な感覚を持っているんだね)」
髪を整え直し、僕はギルドに報告するためにカウンターへ向かった。
「ただいま、受付さん。裏通りの点検、バッチリ終わったよ。水も綺麗に流れるようになった」
「おかえりなさい! お疲れ様です……あら、なんだか今日は一段と髪がふわふわに跳ねていますね。また誰かに可愛がられましたか?」
「あはは、さっき。……ねえ、受付さん。僕、そんなに撫でたくなるような顔をしてるかな?」
僕が真剣に鏡を覗き込むと、受付さんはクスクスと笑いながら、「リルドさんには、不思議な癒やしのオーラがあるんですよ」と教えてくれた。
報酬の銅貨を受け取り、僕は心地よい疲れを感じながらギルドを後にした。
「さて、僕も今夜は、綺麗になった水の流れを思い出しながら、温かいお風呂に入ってゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、街の隅々を整えながら、誰かの優しさに包まれて穏やかに更けていく。




