148話
翌朝、昨日の料理の香りが少しだけ残っているような気がしながら、僕はギルドで掲示板を見る。
今日は二つの依頼を並行して片付けようと思い、二枚の依頼札を手に取った。
「今日はこれにするよ、受付さん」
依頼書『クレイドリルの素行を調査』と『ポーション小納品』。
クレイドリルはこの付近に生息する小動物のような魔獣で、最近の行動範囲の変化を調べる必要があるらしい。
「おはよう、受付さん。街道付近で調査して、そのまま納品も済ませてくるね」
「おはようございます、リルドさん。二つも受けるなんて、今日は精が出ますね。クレイドリルはすばしっこいですから、目を離さないようにしてくださいね。いってらっしゃい!」
受理印をもらうと、僕はポーションの小瓶を鞄に詰め、依頼書の街道付近にて調査開始した。
現場に到着し、茂みに身を隠しながら「視野拡大」でクレイドリルの小さな足跡を追い、「聴覚向上」で土を掘り起こす微かな音を拾い上げる。
特別な力で捕まえたりはしない。僕は彼らがどんな草を好み、どこに巣を作ろうとしているのかを、一歩引いた場所から静かに観察し、記録していく。その合間に、依頼されていたポーションを街道沿いの検問所へ届け、納品を完了させた。
「(……なるほど、今年は少し北側に巣を作っているんだね。冬支度が早いのかもしれないな)」
調査を終え、夕暮れに染まる帰り道を歩いている時のことだ。
向こうからやってきた見知らぬ冒険者が、僕とすれ違いざまに「よう、頑張ってるな」と、優しくリルドの頭を撫でてくる。
「えっ……? あ、あはは。お疲れ様です……」
撫でられた場所を抑えながら、僕は不思議でたまらなくなり、理由がわからないリルドは首を傾げる。
「(……最近、みんなによく頭を撫でられる気がするな。僕の髪に、何か珍しい虫でもついているんだろうか?)」
少し不思議な心地のまま、僕はギルドに報告するためにカウンターへ向かった。
「ただいま、受付さん。クレイドリルの調査結果だよ。ポーションの納品も済ませてきた」
「おかえりなさい、リルドさん! お疲れ様です……あら、なんだか髪が少し跳ねていますよ? 誰かに撫でられました?」
「あはは、さっき街道で。……ねえ、受付さん。どうしてみんな僕の頭を撫でるんだろう? 何か付いてる?」
僕が真剣に聞き返すと、受付さんは「ふふっ」と楽しそうに笑って答えた。
「それはきっと、リルドさんが見ていて安心する、可愛い小動物みたいだからですよ」
「……小動物? クレイドリルみたいってことかなぁ……」
納得がいかないまま、報酬の銅貨を受け取り、僕はギルドを後にした。
「さて、僕も今夜は、クレイドリルの賢い生き方を思い出しながら、温かいミルク粥でも食べてゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、理由のわからない親愛に首を傾げながら、穏やかに更けていく。




