146話
翌朝、少しだけ涼しくなった風を感じながら、僕はギルドで掲示板を見る。
いつもとは違う、少し遠方の依頼が目に留まった。
「これ、受けられるかな」
依頼書『オークの街で復興作業のお手伝い』。
どうやら以前の災害から立ち直ったオークの集落が、最後の手伝いと祝宴の助っ人を募集しているようだ。
「おはよう、受付さん。これ、泊まりがけになるみたいだけど行ってきてもいいかな?」
「おはようございます、リルドさん。ええ、復興はほぼ終わってるが最後の片付けと打ち上げに参加してほしいってことみたいです。宿泊先も用意してるとのことですよ」
「へえ、それは楽しみだね。お散歩がてら、少し遠出してみるよ」
受理印をもらうと、僕は一泊分の荷物をまとめて、依頼書のオークの街に到着した。
街では、以前出会ったあの剣士も含め、屈強なオークたちが活気よく動いていた。僕はさっそく復興作業の最終の片付けに参加する。
「視野拡大」で崩れた石材の僅かな隙間を見極め、「聴覚向上」で周囲の作業指示を聞き取りながら、効率よく瓦礫を運んでいく。
「(……みんな、この街が本当に好きなんだね。温かいな)」
作業が終わり、宿泊先にオーク達と行く。そこは、オークらしい質実剛健ながらも清潔な宿だった。
そして、待ちに待った打ち上げ開始。
大樽から注がれたオーク特製の強いお酒。一口飲むと、喉が焼けるような熱さが広がり、頭がふわふわとしてきた。
いつもと違い僕は溜まっていた想いが堰を切ったように溢れ出した。いわゆる本音トークだ。
「……地位とか名誉なんて、本当はどうでもいいんだよ。誰かの帰る道が明るければいい。お腹いっぱい食べて、笑って寝られる……それだけで、世界は十分美しいと思わない?」
僕が熱っぽく語ると、周囲のオークは「おお!」「なんと素晴らしい思想だ!」と、巨大な拳で胸を叩き、涙を流して感動していた。
翌日、少し重い頭を抱えて起きると、街の入り口までオークたちが総出で見送りに来てくれた。
代表のオークから「リルド……君の思想は素晴らしい。我らオークの魂に、君の言葉は深く刻まれたぞ」と言われる。
「……え、あはは。……ありがとう?」
正直に言うと、酒でほとんど覚えていない。けれど、彼らの晴れやかな顔を見る限り、悪いことは言わなかったんだろう。
街へ戻り、ギルドに報告する。
「ただいま、受付さん。復興のお手伝い、無事に終わったよ。……なんだか、すごく歓迎されちゃった」
「おかえりなさい! 宿泊までして、お疲れ様でした。……あら、なんだか一皮剥けたような顔をしていますね?」
「そうかな? ……あはは、少し飲みすぎちゃっただけだよ」
報酬の金貨を受け取り、僕は心地よい旅の余韻に浸りながら背伸びをした。
「さて、僕も今夜は、オークたちの力強い笑い声を思い出しながら、温かいお茶でも飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、泥酔して語った謎の思想を街に残したまま、穏やかに更けていく。




