143話
鳥のさえずりと共に朝起きると、窓から差し込む陽光が部屋を優しく照らしていた。身支度を整えて外へ出ると、玄関先の猫が日向ぼっこをしながら僕を待っていた。
「おはよう。今日もいいお天気だね」
『にゃあ、お出かけか? 帰りに魚の匂いがしたら呼んでくれ』
「あはは、善処するよ」
魔獣言語のスキルのおかげで交わされる、なんてことのない朝の会話。僕は猫の頭を軽く撫でてから、ギルドへと向かった。
ギルドの扉を開け、掲示板からいつものように地味な依頼書『薬草採取』を剥がして受付へ持っていく。
「おはよう、受付さん。今日は街道沿いに行ってくるね」
「おはようございます、リルドさん。最近、あのあたりは魔獣も少ないですし、お散歩には丁度いいかもしれませんね。いってらっしゃい!」
受理印をもらうと、僕は採集籠を片手に、のんびりと街の外へ移動を開始した。
現場に到着し、街道付近の薬草採取を行う。
「視野拡大」で葉の裏に隠れた良質な株を見つけ、「嗅覚向上」で薬効の強いものの香りを嗅ぎ分ける。特別な力に頼らず、一本一本土を払って籠に収めていくこの時間が、僕はとても好きだ。
「よし、これで今日の分は十分かな」
腰を伸ばし、籠を背負って帰り道を歩いている時だった。背後からドタドタと騒がしい足音が聞こえてきたかと思うと、一人の若い男の冒険者が走ってきて、いきなりリルドを横抱き(お姫様抱っこ)で連れ帰るように担ぎ上げた。
「ちょっと!? 急に何!? 降ろしてよ!」
「いいから、リルド! さっきあっちで不気味な魔獣の気配がしたんだ! Fランクのお前一人じゃ危ねえだろ、ギルドまで一気に運んでやるからな!」
「いや、自分で歩けるから! 恥ずかしいよぅ!」
僕の抵抗も虚しく、屈強な冒険者の腕の中で、僕はそのまま街の門を抜け、ギルドの入り口まで運ばれてしまった。
そのままの勢いでギルドの中に放り込まれ、僕は顔を真っ赤にしながらギルドに報告するためにカウンターへ向かった。
「……ただいま。薬草、持ってきたよ」
「おかえりなさい、リルドさん。……あら、どうしたんですか? 顔が林檎みたいに真っ赤ですよ」
受付さんが不思議そうに首を傾げると、僕を運んできた冒険者が後ろから笑いながら言った。
「いやあ、助けようと思って抱え上げたら、こいつ、めちゃくちゃ軽くて驚いたぜ。必死にバタバタしてる姿が、小動物みたいでかわいいんだよな」
周りにいた他の冒険者たちからも「確かに、リルドは守ってやりたくなる可愛さがあるよな」「マスコットみたいだ」なんて声が上がり、僕はますます耳まで熱くなった。
「も、もう! 可愛いなんて言わないでよ……!」
恥ずかしさのあまり俯きながら、僕は預かった銅貨を握りしめて早足でギルドを後にした。
「さて、僕も今夜は、火照った顔を冷ましながら、静かに温かいお茶でも飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、仲間の過保護な優しさに振り回されつつ、穏やかに更けていく。




