139話
翌朝、ギルドの掲示板の前には昨夜デーモンを倒したというパーティが陣取り、意気揚々と武勇伝を語っていた。
「いやあ、あの瞬間のデーモンの顔、傑作だったぜ! まさか恐怖で一歩も動けなくなるとはな!」
「俺たちの威圧感に気圧されたんだろう。運も実力のうちだ!」
僕はその横をそっと通り抜け、いつものように控えめな依頼札を一枚手に取った。
『街道沿いの外灯点検・清掃』
「今日はこれにするよ、受付さん」
「おはようございます、リルドさん。……あはは、またそんな地味な仕事を。でも、街の人たちは夜道が明るくなると本当に安心するんです。ありがとうございます、よろしくお願いしますね」
僕は受理印をもらうと、使い込まれた脚立と磨き布を携えて、街の入り口へと移動を開始した。
仕事開始だ。
「視野拡大」で外灯の魔石の微かな曇りを見極め、「聴覚向上」で風が運んでくる土埃の音を聞きながら、一箇所ずつ丁寧に磨き上げていく。
特別な奇跡を起こして一瞬で街を輝かせることはしない。僕は自分の手で、一つ一つのガラスを透明にしていく。その地道な繰り返しが、夜には優しい光となって誰かの足元を照らす。それが僕にとっての喜びなんだ。
「(……よし、これで今夜はもっと明るくなるね)」
点検を終え、夕暮れに染まる街道をのんびりと帰り道につく。
道端の草花が風に揺れ、家々の窓から夕食の準備をする美味しそうな匂いが漂ってくる。お散歩を楽しみながら歩いていると、ふと後ろから馬車の音が聞こえてきた。
「おーい、リルドさん! 橋を直してくれたおかげで、荷車が跳ねなくて助かってるよ!」
以前、石橋のひびを埋めた時に声をかけてくれた農家のおじさんだった。
「あはは、それは良かった。気をつけてね」
ギルドに戻り、夕闇に包まれ始めたカウンターで報告を済ませる。
「ただいま、受付さん。外灯の点検、全部終わったよ。少し汚れが目立っていたところも、しっかり磨いておいたから」
「おかえりなさい! お疲れ様です、リルドさん。……ふふ、リルドさんが外灯を掃除した日は、いつもより街が温かく見える気がします」
報酬の銅貨を受け取り、僕は心地よい達成感と共に背中を丸めた。
「さて、僕も今夜は、街に灯る優しい光を眺めながら、温かいミルクでも飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、街の小さな灯りを守りながら、穏やかに更けていく。




