表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/346

132話

ドーン、と。

夜空の静寂を切り裂くように、ひときわ大きな音が腹の底まで響いた。

「わあ……!」

僕が見上げると、漆黒の空に大輪の火花が鮮やかに広がった。赤、青、金。色とりどりの光が、僕たちが座る琥珀色のベンチを、そして隣に座るマスターの横顔を刹那に照らし出す。

「……綺麗だね、マスター」

「ああ、そうだな」

マスターの声はいつもより低く、穏やかだった。

お祭りのメイン会場からは遠く離れたこの場所でも、火花が弾けるたびに空気が微かに震えるのが伝わってくる。願ってこの景色を独り占めすることなんてできない。でも、こうして誰かと肩を並べて、消えてしまう光を惜しみながら眺める時間は、どんな魔法よりも贅沢に感じられた。

次々に上がる花火を眺めながら、僕たちはしばらく言葉を交わさずにいた。

「視野拡大」で夜空の隅々まで追いかける必要なんてない。ただ、ぼんやりと光の余韻に浸る。隣から伝わってくるマスターの体温と、浴衣の擦れる音。それが僕にとっての「今」だった。

最後の特大の花火が夜空を真昼のように明るく染め上げ、心地よい火薬の匂いと静寂が戻ってきた頃、マスターがゆっくりと立ち上がった。

「……そろそろ戻るか。あいつら、今頃は酔っ払ってひっくり返ってるだろうからな」

「あはは、そうだね。介抱しなきゃいけないかも」

僕はマスターの手を借りてベンチから立ち上がると、少しだけ乱れた浴衣の裾を整えた。

戻り道、遠くから聞こえるお囃子の音を背に受けながら、僕は今日一日を思い返していた。

設営を手伝った演舞台、男たちが選んでくれた突飛な衣装、そしてマスターが用意してくれたこの浴衣。特別な力なんてなくても、僕はこんなに豊かな世界に生きている。

「マスター、今日は誘ってくれてありがとう。本当にお散歩よりも楽しかったよ」

僕が微笑むと、マスターはまた、僕の頭をくしゃりと撫でた。

「……来年も、また来るぞ」

「うん、約束だよ」

万年Fランク冒険者の日常は、夏の夜の夢のような思い出を胸に、穏やかに更けていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ