130話
翌朝、ギルドへ顔を出すと、そこには異様な熱気が渦巻いていた。
いつもなら掲示板に群がっているはずの冒険者の男たちが、なぜか入り口で僕を待ち構えていたんだ。
「よう、リルド! 待ってたぜ!」
「今年の夏祭りは、お前も一緒に参加するんだろ?」
「あはは、そうだね。設営も手伝ったし、お散歩がてら見に行くつもりだよ」
僕がそう答えると、男たちはニヤリと顔を見合わせ、背後に隠していたものを一斉に突き出してきた。
「だったらこれだ! お前に着てほしい服、みんなで金出し合って用意したんだぜ!」
広げられたのは、フリルが何重にも重なった着物風のメイド服に、やけに丈の短い巫女服、さらには太ももまで大胆にスリットが入った真っ赤なドレス。
「(……どれも嫌だよう)」
僕は引きつりそうになる頬を必死に押さえて、苦笑いした。みんなの善意(?)は嬉しいけれど、さすがにこれを着てお散歩をする勇気は僕にはない。
困り果てていると、奥のカウンターからギルドマスターが呆れたような溜息をつきながら歩み寄ってきた。
「おい、お前ら。嫌がってるだろ。……リルド、こっちへ来い」
マスターの手には、綺麗に畳まれた別の布地があった。
それは、涼やかな白地に、清流のような青いラインが一本入った、とてもシンプルな浴衣だった。
「これならどうだ? 祭りの喧騒にも馴染むし、歩きやすいはずだ」
「あ、これならいいよ。……ありがとう、マスター」
僕が心からホッとして微笑みかけると、マスターは少し照れくさそうに「気にするな」と言って、僕の頭を大きな手でくしゃくしゃと撫で回した。
「おいおい……なんだよ、あの雰囲気」
「マスター、ちゃっかり一番いいところ持っていきやがって……」
差し出したド派手な衣装を手に、冒険者の男たちは複雑そうな、どこか羨ましそうな目で僕らを見ていた。
「よし、それじゃあ着替えてくるね。今夜はこれでお祭りを歩くのが楽しみだよ」
僕はマスターに最後にもう一度微笑んで、浴衣を抱えて更衣室へと向かった。
万年Fランク冒険者の日常は、お節介な仲間たちに振り回されつつも、心地よいぬくもりと共に夏祭りの夜へと続いていく。




