13話
眩しい朝日が、街の石畳を黄金色に染めていた。
リルドは大きく伸びをして、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。
「ふあぁ……。今日もいい天気だ。絶好の石拾い日和になりそうだな」
清々しい気持ちでギルドへと歩き出したリルドだったが、街外れの角を曲がったところで、一匹の白いうさぎと出会った。
そのうさぎは、リルドの姿を見つけると逃げるどころか、短い足を一生懸命動かして駆け寄ってくる。
「ぴっ、ぴぴっ」
鼻を小刻みに鳴らしながら、うさぎはリルドの足元をくるくると楽しそうに回り始めた。そして、彼のブーツに柔らかな体をぴたりとすり寄せる。
「おや、どうしたんだい? お腹が空いてるのかな、それとも……遊びたいのかい?」
リルドがしゃがんで手を差し出すと、うさぎは待っていましたと言わんばかりに、彼の手のひらに頭を預けてきた。あまりの人懐っこさに、リルドは思わず顔をほころばせる。
「あはは、くすぐったいよ。……よしよし、そんなに離れたくないなら、一緒に行こうか」
リルドはうさぎを優しく抱き上げた。
腕の中に収まったうさぎは、まるでお気に入りの場所を見つけたかのように、リルドの胸元で安心しきって丸くなっている。
うさぎを抱えたまま、リルドはギルドを目指して街の中を歩き出した。
ところが、道ゆく人々が次々と足を止め、彼の方を凝視し始める。
「おい、見ろよ……あのうさぎ」
「えっ、あれってただのうさぎじゃないわよね? 耳の先の模様……まさか、霊峰にしかいないっていう『ムーン・ラビット』じゃない?」
ムーン・ラビット。
滅多に人前に姿を現さない希少な魔獣で、その愛くるしい外見とは裏腹に、極めて高い知性と強力な魔力障壁を持つことで知られている。高ランクの冒険者でも、生け捕りにするのは至難の業と言われる存在だ。
そんな伝説級の生き物が、ボロボロの服を着た「万年Fランク」の腕の中で、無防備にお腹を見せて眠そうにしている。
「おい、あいつ……魔獣を懐かせてるのか?」
「いや、リルドだぞ? きっと道端の野良うさぎだと思って拾っただけだろ」
周囲がざわざわと騒ぎ立てる中、当の本人は全く気にする様子もない。
「いい子だねぇ。毛並みがふわふわで、なんだか僕まで眠くなってきちゃうよ」
リルドは時折うさぎの耳の間を優しく撫で、のんびりとした足取りで歩き続ける。
彼の周囲だけ、時間が止まったかのような穏やかな空気が漂っていた。
ギルドの大きな扉をくぐると、中の喧騒が一瞬で静まり返った。
受付嬢も、談笑していたベテラン冒険者たちも、そして奥の部屋から顔を出したギルドマスターまでもが、リルドの腕の中にいる「白い塊」に目を見開いている。
「あ、おはよう、みんな。今日もいい天気だね」
リルドはいつも通り、のほほんとした笑顔で挨拶を交わす。
腕の中のうさぎは、ギルドの荒くれ者たちの視線などどこ吹く風で、「ぴっ」と可愛らしく鼻を鳴らした。
最強の魔獣を、ただの「可愛いお友達」として抱え、今日もリルドは掲示板の隅っこにある依頼を探し始める。




