129話
翌朝、ギルドの中は熱気に満ちていた。掲示板には大きな文字で「夏祭り」の文字が踊り、冒険者たちはいつにも増して騒がしい。
「よし、俺たちは櫓の組み立てだ!」
「こっちは街道沿いの提灯吊りだな。一気にやるぞ!」
そんな血気盛んな声を聞きながら、俺は掲示板の端に貼られた、少し細かな作業が必要そうな依頼札を手に取った。
『夏祭りの設営準備・演舞台の装飾と点検』
「今日はこれにするよ、受付さん」
「おはようございます、リルドさん! ああ、演舞台ですね。あそこは古い木材も使われているので、ささくれがあったりすると踊り手さんが怪我をしてしまうんです。丁寧な仕事ができるリルドさんにぴったりです!」
受付さんは嬉しそうに受理印を押してくれた。俺は道具箱を肩にかけ、広場の中央に組まれ始めた大きな舞台へと向かった。
広場では、大勢の男たちが丸太を運び、槌の音を響かせている。その騒がしさを「聴覚向上」でリズムとして楽しみながら、俺は舞台の床板に目を向けた。
「視野拡大」を使い、小さな釘の浮きや、木材のひび割れを一つずつ見つけていく。願って新しい板を出すことはできないけれど、俺は持参したヤスリと小さな金槌を使い、手際よく表面を滑らかに整えていった。
「(……ここは、子供たちが飛び跳ねる場所だね。もっと入念に磨いておこう)」
舞台の欄干には、祭りを彩る色鮮やかな布を巻き付けていく。風に煽られても解けないように、かつて覚えた確かな結び方で固定していく作業。魔法のような便利さはなくても、自分の指先が覚えている感覚を頼りに進めるこの時間が、俺は好きだった。
作業の合間、設営を手伝っていた若手冒険者が声をかけてきた。
「リルドさん、あんたが触った後の手すり、全然トゲが刺さらねえな。すげえよ」
「あはは、ただ丁寧に撫でただけだよ。お祭り、楽しみだね」
夕暮れ時、西日に照らされた演舞台は、明日の本番を待ちきれないように美しく輝いていた。
ギルドに戻り、完了報告を済ませる。
「ただいま、受付さん。舞台の点検、全部終わったよ。これで誰が踊っても大丈夫だ」
「おかえりなさい! お疲れ様です、リルドさん。実行委員の人たちが『今年の舞台は足触りが最高だ』って喜んでいましたよ。本当に助かりました!」
報酬の銀貨を受け取ると、街には屋台の準備をする香ばしい匂いが漂い始めていた。
「さて、今夜は祭りの賑わいを想像しながら、冷たい麦茶でも飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、夏の熱気を感じながら、穏やかに更けていく。




