121話
翌朝、ギルドの掲示板を眺めていると、一枚の小さな依頼札が目に留まった。
『迷い込んだ子犬の調査と保護』
「今日はこれにしようかな、受付さん」
「おはようございます、リルドさん。ああ、その依頼……。街の近くで鳴き声がするって報告があったんですけど、姿が見えなくて。臆病な子かもしれないので、よろしくお願いしますね」
僕は受理を済ませると、報告のあった森の入り口へと向かった。
「聴覚向上」を研ぎ澄ませると、茂みの奥からクゥクゥと細く震える声が聞こえてくる。「視野拡大」でその正体を探ると、そこには丸まった小さな影があった。
「(……おやおや。君は子犬じゃなくて、コボルトの赤ちゃんじゃないか)」
どうやら群れからはぐれて、心細さに震えていたらしい。僕が近づくと、その子は少しだけ警戒したけれど、僕が優しく微笑んで手を差し出すと、安心したようにその小さな体を僕に預けてきた。
僕は「大丈夫だよ」と声をかけ、体温が下がらないようにその小さな体を優しく抱きしめた。ふわふわとした柔らかな毛並みから、トクトクと小さな鼓動が伝わってくる。願って何かを出すことはできないけれど、僕の腕のぬくもりが、この子にとって一番の薬になればいいなと思いながら。
そのままギルドに戻ると、受付さんは目を丸くした。
「ただいま、受付さん。この子、子犬じゃなくてコボルトの子だったよ。とても心細そうにしていたから、すぐにコボルトの集落へ連絡を入れてもらえるかな?」
「ええっ、コボルトの!? ……本当だ、よく見ると特徴が……。分かりました、すぐにギルドのネットワークを使って集落へ伝えます! 迷子として探しているはずですから」
僕は無事に連絡を頼み終え、ギルドの隅でその子が迎えを待つ間、ずっと寄り添って頭を撫でてあげた。しばらくして集落からの迎えが来ると、その子は何度も僕を振り返りながら、嬉しそうに帰っていった。
「さて、僕も今夜は、あの小さな鼓動の感触を思い出しながら、温かいミルクでも飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、迷子の小さな命を家族の元へ繋ぎながら、穏やかに更けていく。




