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ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


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120/346

120話

翌朝、目が覚めると窓の外は抜けるような青空だった。

小鳥たちが屋根の上で忙しなく羽を休めては、また空へと飛び立っていく。

「(今日は、どこまで歩こうかな)」

僕はいつものように身支度を整え、穏やかな足取りでギルドの扉を潜った。

中では、昨夜の深酒が残っているのか、頭を押さえながら「筑前煮の味が忘れられねえ……」と呟いている大男や、新作ミステリーの犯人予想で盛り上がる一団が、それぞれに朝の時間を過ごしている。

僕はそんな喧騒の合間を縫って、掲示板の下の方で丸まっていた依頼札を手に取った。

『広場のベンチの塗り直し』

「今日はこれにするよ、受付さん」

「おはようございます、リルドさん。……あはは、本当にリルドさんは、街を綺麗にするのがお好きなんですね。受理しました。ペンキと刷毛は現地の倉庫にあるそうです、よろしくお願いします」

受付さんから受理印をもらい、僕は日光が降り注ぐ中央広場へと向かった。

祭りや喧騒が終わった後の広場は、どこか穏やかな空気が満ちている。僕は倉庫から道具を取り出すと、「視野拡大」で木材のひび割れや塗装の剥げた箇所を細かくチェックした。

僕は丁寧に古い膜を削り落とし、新しい塗料を刷毛に乗せる。

願って一瞬で色を変えることはしない。一筆、また一筆と、木の呼吸を妨げないように薄く、均一に色を重ねていく。

「(……うん、いい色だ。お日様に当たると、もっと綺麗になるね)」

時折、広場を通りかかる人が「ご苦労様」と声をかけてくれる。

僕はそのたびに「こんにちは。もうすぐ座れるようになりますよ」と、笑顔で言葉を返した。全能の力などなくても、こうして誰かの憩いの場を整えている実感こそが、僕にとっては最高のご馳走だった。

作業を終え、艶やかな琥珀色に蘇ったベンチを眺めてから、僕はギルドへと戻った。

「ただいま、受付さん。ベンチ、ピカピカにしてきたよ。今夜はまだ、座らないように伝えておいてね」

「おかえりなさい! お疲れ様です、リルドさん。……なんだかリルドさんの塗ったベンチって、座るとすごく運気が上がりそうな気がします。私も明日、座りに行ってみようかな」

報酬の銅貨を受け取ると、僕は心地よい疲れを肩に感じながら、夕焼けに染まる街を歩き出した。

「さて、今夜はペンキで少し汚れた指先を洗い流しながら、温かいスープでも飲んでゆっくり休もうかな」

万年Fランク冒険者の日常は、特別なことは何もない。けれど、昨日より少しだけ綺麗になった街の中で、穏やかに更けていく。


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