116話
翌朝、ギルドの掲示板は昨日の飾り付けの話題でもちきりだった。
「おい、見たか? あの広場の飾り、風が吹くたびに歌ってるみたいに揺れるんだぜ」
「ああ、リルドのやつ、やっぱりただのFランクじゃねえな……」
そんな声が聞こえてくる中、僕はあえて視線を合わせず、掲示板の隅にひっそりと残っていた依頼札を剥がした。
『祭りの出し物・迷子センターの運営補助』
「今日はこれにするよ、受付さん」
「おはようございます、リルドさん! ……あはは、昨日あんなに活躍したのに、今日もまた裏方のお仕事なんですね。でも、リルドさんなら子供たちも安心すると思います。よろしくお願いしますね」
受付さんから受理印をもらい、僕は再び賑やかな広場へと向かった。
祭りが始まると、街中が楽器の音と食べ物の香りで溢れかえった。迷子センターには、親とはぐれて泣きべそをかく子や、人混みに酔ってしまったお年寄りが次々とやってくる。
僕は一人一人の目線に合わせて腰を下ろし、「聴覚向上」で周囲の喧騒から親を捜す声を聞き分けたり、「視野拡大」で遠くにいる迷子の特徴を捉えたりして、テキパキと案内をこなした。
「お兄ちゃん、ママは……?」
「大丈夫だよ。あっちのリンゴ飴の屋台の近くで、君の名前を呼んでいる声が聞こえる。僕と一緒にあそこまで歩こうか」
僕が優しく手を引いて歩くと、泣いていた子供もいつの間にか笑顔になる。
本当は、願って何かおもちゃでも出してあげられれば早いのかもしれないけれど、こうして手を繋いで、一緒に歩いて、親御さんを見つけた瞬間の安堵した顔を見る。その過程こそが、僕にとっての大切なお散歩なんだ。
夕暮れ時、最後の迷子を送り届けてギルドへ戻ると、そこにはへとへとに疲れ切った討伐帰りの冒険者たちが倒れ込んでいた。
「ただいま、受付さん。迷子センターの任務、完了だよ。みんな無事に家族の元へ帰れたみたい」
「おかえりなさい、リルドさん! あなたがいてくれて、今年の祭りは大きな混乱もなく終わったって、警備隊の人たちも感謝していましたよ」
報酬を受け取り、僕は心地よい疲れと共に夜の風を浴びた。
「さて、今夜は祭りの賑やかな余韻に浸りながら、温かいミルクティーでも飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、お祭りの喧騒を裏側から支えながら、穏やかに更けていく。




