115話
翌朝、ギルドの掲示板はいつも以上の活気に満ちていた。どうやら街を挙げての大きな行事が近いらしい。
「よし、俺たちは力仕事の設営を全部引き受けるぜ!」
「こっちは酒樽の運び出しだ。祭りといえば酒だからな!」
そんな元気な冒険者たちの隙間から、俺は一枚の穏やかな依頼札を手に取った。
『春祭りの設営のお手伝い・飾り付け担当』
受付に持っていくと、受付さんはぱっと表情を明るくした。
「リルドさん、助かります! 力自慢の連中は多いんですけど、繊細な飾り付けを任せられる人がいなくて困っていたんです」
「あはは、いいよ。お祭りの準備って、なんだかワクワクするしね」
会場となる中央広場へ向かうと、そこでは大勢の職人や冒険者が汗を流していた。
俺に与えられた仕事は、広場を横断するように張り巡らされたロープに、色とりどりの布や花を飾り付けていく作業だ。
「視野拡大」で全体のバランスを確認し、「聴覚向上」で風の流れを読み、飾り同士がぶつかって騒がしくならない位置を探る。
高い場所の作業では、かつての身のこなしを活かして、梯子を軽々と登り降りした。
「おい、あいつ見ろよ。あんなに細いのに、足場の悪いところでも平気な顔して作業してやがる」
「しかも、あいつが飾った場所だけ、風に揺れると一番綺麗に見えるな……」
周囲の職人たちが手を止めて見惚れていることにも気づかず、俺は丁寧に、一つずつ花を編み込んでいった。
本来なら魔法や道具を願って出せば一瞬かもしれないが、今はこうして、自分の指先で形を作っていく時間が、何よりも贅沢に感じられる。
作業を終えて地上に降り立つと、広場は見違えるほど華やかに、春の訪れを祝う色に染まっていた。
ギルドに戻り、完了報告を済ませる。
「ただいま、受付さん。飾り付け、全部終わったよ」
「おかえりなさい! 今、広場を見てきた同僚が『天国の庭みたいだった』って感動して戻ってきましたよ。本当にお疲れ様でした!」
報酬の銅貨を受け取ると、夕陽が広場の飾りを優しく照らしているのが見えた。
「さて、今夜は祭りの前夜祭気分で、少しだけ贅沢な夕飯を食べてゆっくりしようかな」
万年Fランク冒険者の日常は、誰かの笑顔のために街を彩りながら、穏やかに更けていく。




