110話
朝、カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ました。窓の外では、小鳥たちが賑やかに歌い、その横の塀の上で三毛猫が「ふわぁ〜」と大きな欠伸をしている。囀りと欠伸の音が混ざり合い、なんとも可愛らしいハーモニーを奏でていた。
「(ふふ、平和な朝だね……。さて、今日もお散歩に行こうかな)」
リルドは軽く身支度を整え、穏やかな足取りでギルドへと向かった。
ギルド内は、数日間にわたるリルドの「受付代理」期間が終わり、どこか平穏(あるいはリルド・ロスによる脱力感)を取り戻していた。リルドは掲示板から、『薬草採取』と『ポーション小の納品』の二枚を剥がし、カウンターへ持っていく。
「おはよう、受付さん。今日からまた冒険者に戻るよ」
「あ、リルドさん! おはようございます。……なんだかリルドさんがカウンターの中にいないと、少し寂しいですね。はい、受理しました。気をつけて行ってきてくださいね!」
リルドはいつもの草原へ向かい、まずは依頼の分と、ポーションの材料となる薬草を丁寧に採取した。
「(さて、ここでお散歩がてら作っちゃおうか)」
リルドはリュックから愛用の乳鉢と、透き通った「濾過石」を取り出した。
普通、ポーション作りには大掛かりな設備が必要だが、リルドは全盛期に培った精密な技術を使い、野外で最高品質の調合を行う。
まずは乳鉢で薬草の繊維を潰し、最も有効な成分だけを抽出する。そこに「濾過石」を通すと、石の魔力が微細な不純物を吸着し、驚くほど澄んだ液体へと変わっていく。
「(……うん、不純物はほぼゼロだね。これなら効き目もいいはずだよ)」
かつて「万能の作り手」でもあった彼にとって、ポーション小を作るのは、まるでお茶を淹れるような気軽な作業だった。
夕刻、リルドは摘みたての薬草と、宝石のように澄んだ『ポーション小』を手にギルドに戻った。
「ただいま、受付さん。納品物を持ってきたよ」
「おかえりなさい! ……ええっ、このポーション、なんですか!? 普通の『小』はもっと濁っているはずなのに、まるで高級な香水みたいに綺麗……」
受付嬢が瓶を光にかざして驚愕している。リルドは「あはは、不純物をちょっと丁寧に取り除いただけだよ」と、いつものように謙遜して笑った。
「これなら怪我をした人も、すぐに元気になると思います。ありがとうございます、リルドさん!」
報酬の銅貨を受け取ると、リルドは夕暮れ時の涼しい風を感じながらギルドを後にした。
「さて、僕も今夜は、薬草の清々しい香りを思い出しながら、温かいスープを飲んでゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、ポーションの一滴にさえ慈しみを込めながら、穏やかに更けていく。




