11話
翌朝、リルドは窓辺の「七色苔」の調子を確認してから、軽やかな足取りでギルドへ向かった。
掲示板のいつもの隅っこで、彼は新しい依頼を見つける。
「『毒消しポーションの作成』か。昨日たくさん毒消し草を採ってきたから、ちょうどいいな」
リルドはその依頼札を剥がし、受付へと持っていった。
「おはよう、受付さん。昨日の草があるから、今日はこれを作ってくるよ」
「おはよう、リルドさん。毒消しポーションね。あなたの作る薬はなんだか評判がいいから助かるわ。よろしくね」
リルドは「まかせて」と短く答えると、必要な道具を揃えて、いつもの静かな森の入り口へと向かった。
森の奥、調合に適した場所を探して歩いていると、大きな岩の影で何かがバサバサと暴れる音が聞こえた。
様子を見に行くと、そこには一羽のロック鳥が横たわっていた。空の王者とも呼ばれる魔獣だが、翼を深く負傷しているようで、動くことができないらしい。
「おや、ひどい怪我だね。どうしたんだい?」
リルドが近づくと、ロック鳥は警戒して鋭い嘴を向けたが、リルドの放つ穏やかな気配に、次第に力を抜いた。
怪我の箇所を詳しく見ると、傷口には嫌な色の膿が溜まっている。
「……これは放っておけないな。このまま膿が溜まれば、体内で毒に変わってしまうこともあるし」
リルドは自分の持ち物をチェックし、昨日調合したばかりの『回復ポーション(小)』を取り出した。しかし、今の状態では先に膿を取り除き、消毒する必要がある。
「ちょうどいいところに……」
リルドは岩の隙間に、小さな紫色の花を咲かせた『消し見草』を発見した。これは簡易的な膿とりや毒消しとして非常に優秀な野草だ。
リルドは地面に座り込むと、手早く作業を始めた。
小さな乳鉢を取り出し、消し見草の葉を特定の角度で刻み、魔力を指先から微かに通しながらすり潰していく。その動きはあまりに速く、かつ正確で、ロック鳥は驚いたように丸い目を見開いてリルドの手元を注視していた。
「よし、できたよ。少し染みるかもしれないけど、我慢してね」
リルドは出来上がったばかりの軟膏を傷口に塗り、その上から自作の『回復ポーション(小)』を惜しみなく注いだ。
ポーションが傷口に触れた瞬間、ジュワッという音と共に膿が消え、新しい肉が盛り上がってきた。
ロック鳥は心地よい刺激に、気持ちよさそうに喉を鳴らす。
「うん、これでもう大丈夫。あとはゆっくり休むんだよ」
リルドがロック鳥の頭を優しく撫でると、あんなに警戒していた巨鳥が、甘えるようにリルドの肩に頭を預けた。
リルドはしばらくの間、ロック鳥の羽を整えてやりながら、木漏れ日の中で穏やかな時間を過ごした。
夕暮れ時。
リルドは無事に毒消しポーションを完成させ、ギルドへと戻った。
「リルドさん、お疲れ様。あら、なんだか服に大きな羽根がついているわよ?」
受付嬢が笑いながら指摘する。
「あはは、途中でちょっと大きなお友達のお手伝いをしてね。はい、これがポーションだよ」
リルドは報酬の銅貨を受け取ると、帰り道に市場で一番大きなリンゴを買った。
あのロック鳥が元気になったら、いつかまた空から会いに来るかもしれない。そんなことを考えながら、彼は鼻歌を歌って家路につく。
今夜は、拾った羽根を窓辺に飾って、静かな夜を楽しもう。
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られることなく、優しく輝いていた。




