109話
翌朝、雨上がり特有の清々しい空気が漂う中、リルドは再びギルドの扉を叩いた。
「おはよう、受付さん。今日もまだ人員不足かな? 僕でよければお手伝いするよ」
「リルドさん! ありがとうございます……っ。まだ数人が寝込んでいて、本当に助かります!」
こうして、リルドの受付代理二日目がスタートした。
昨日の「毒舌スマイル」の噂を聞きつけた冒険者たちで、ギルド内は朝から妙な緊張感と期待感に包まれている。
「リルド! 今日はこれをお願いするぜ!」
「はい、受理しましたよ。足元に気をつけて、いってらっしゃい」
「おう、行ってくる!」
リルドが一人一人の目を見て送り出すたびに、屈強な男たちが顔を赤らめて飛び出していく。もはやギルドの回転率は過去最高を記録していた。
そんな中、一人のベテラン冒険者が、照れくさそうに包みを差し出してきた。
「リルド! これ、お前にあげるよ」
「え? 僕に? いいの?」
「ああ。いつも世話になってるし、昨日のお前の『働け』って一喝で目が覚めたんだよ。受け取ってくれ」
中身を見た受付嬢が、隣で悲鳴のような声を上げた。
「リルドさん、いいんですか!? それ、魔獣の希少な素材で作られた高価なアミュレットですよ! ランクB以上の冒険者が喉から手が出るほど欲しがる代物です!」
リルドは困ったように眉を下げ、包みをじっと見つめた。
「うーん……。くれると言われると、つい受け取ってしまうんだよな……。でも、やっぱり悪いから、あとでこっそりお返ししておこうかな」
「がーん!! せっかくの貢ぎ物が……!」
遠くで見ていた冒険者たちが一斉に崩れ落ちたが、リルドはどこ吹く風で業務を続ける。
「リルド……これ、さっきの依頼の報告な。魔石も持ってきたぞ」
「はい。確認したよ、お疲れ様。これが今回の報酬ね。はい、どうぞ」
リルドの手から直接報酬を受け取れるという「特権」のために、普段は報告を翌日に回すようなズボラな連中までが、その日のうちに息を切らして戻ってくる始末だった。
夕刻、ようやく全ての受付業務を終えたリルドは、心地よい達成感と共にカウンターを整理した。
「ふう、今日もお疲れ様。昨日よりはみんな、テキパキ動いてくれた気がするよ」
「お疲れ様でした、リルドさん! ……テキパキというか、みんなリルドさんに良いところを見せようと必死でしたね。おかげで溜まっていた依頼が全部片付きました!」
受付嬢が感心してギルド内を見渡すと、そこには精根尽き果てた、しかしどこか満足げな顔をした冒険者たちが転がっていた。
「あはは、みんな元気で何よりだね。それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」
リルドはギルドマスターからも「明日から正式に受付にならないか?」と熱烈にスカウトされたが、それを笑顔でかわしてギルドを後にした。
「さて、僕も今夜は、いただいたお返しをどうするか考えながら、温かいカモミールティーでも淹れてゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、カウンター越しにギルドの士気を(無自覚に)爆上げしながら、穏やかに更けていく。




