103話
翌朝、ギルドの扉を開けると、そこにはまた新しい風が吹いていた。
冒険者たちがテーブルを囲み、真剣な表情で小皿をつついている。
「……いや、こっちの方がガツンとくるな」
「いやいや、後味のキレなら断然こっちだぜ」
今日の話題は【味比べ】。街の複数の精肉店が新しく出した干し肉や、酒場の自家製ソースの味を、冒険者たちが独自の感性で評価し合っていた。
リルドはそんな平和な光景に目を細めながら掲示板へ向かい、一枚の依頼札を剥がした。
「今日は……『軽石の納品』にしようかな」
リルドが札を受付に持っていくと、受付嬢は少し表情を引き締めて言った。
「おはようございます、リルドさん。軽石の納品ですね! 軽石は、いわゆる火山石の一種ですから。採取場所は活火山の麓になります。最近は火山活動も活発だという話ですし、熱中症や足元には非常に気をつけてくださいね」
「わかったよ、気をつけて行ってくるね。お散歩がてら、火山のお顔を見てくるよ」
リルドは「嗅覚向上」を使い、硫黄の匂いを避けるようにして、火山へと続く緩やかな上り坂を歩き始めた。標高が上がるにつれ、周囲の緑がまばらになり、黒い岩肌が目立ち始める。
道中、火山の入り口付近で休憩している数人の冒険者パーティを見かけた。
「やあ、こんにちは。休憩かい?」
リルドが穏やかに声をかけると、屈強な男たちが振り返った。
「おう、お前……こんな軽装で火山か? 無理すんなよ、上の方は地面が焼けるように熱いぞ」
「あはは、ありがとう。僕は下のほうで軽石を少し拾うだけだからね」
リルドは彼らに「あっちの岩陰の方が、涼しい風が抜けて気持ちいいよ」と、「聴覚向上」で聞き分けた風の通り道を教えてあげてから、再び歩き出した。
実際には、リルドの足元には無意識に「断熱」の魔力が働いており、どんなに熱い溶岩地帯でも彼にとっては春の陽だまりのようなものなのだが、彼はそれを「運良く涼しい場所を歩いているだけ」だと思っている。
夕刻、リルドは籠いっぱいの、軽くて良質な火山石(軽石)を抱えてギルドに戻った。
「ただいま、受付さん。軽石、持ってきたよ」
「おかえりなさい! ……えっ、もう戻られたんですか!? それに、あんなに熱い場所に行ってきたはずなのに、汗一つかいていないなんて……」
「あはは、運良く雲が日差しを遮ってくれたからね。道中で会った人たちも、みんな元気に休憩していたよ」
受付嬢が「リルドさんの運の良さは、やっぱりギルド一番ですね」と感心しながら、報酬の銅貨を手渡してくれた。
「さて、僕も今夜は、火山の熱を思い出しながら、温かいお風呂にでも入ってゆっくりしようかな」
万年Fランク冒険者の日常は、大地の鼓動を肌で感じながらも、どこまでも涼やかに更けていく。




