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ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


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1話

王都の喧騒から少し離れた、緑豊かな街道沿い。そこには、朝露に濡れた薬草を丁寧に摘み取る一人の青年の姿があった。

彼の名はリルド。

冒険者ギルドに登録して数年、一度も昇級試験を受けようとしない「万年Fランク」として、ある意味ではギルドの名物となっている。

「よし、今日の『風見草』はこれで全部かな。あとは河原で綺麗な石でも探して帰ろう」

リルドは籠を背負い、鼻歌まじりに川辺へと歩を進める。彼の生活は至ってシンプルだ。午前中に依頼の薬草を摘み、午後は川で涼んだり、趣味の石拾いをしたりして過ごす。急ぐことも、名声を求めることもない。この穏やかな時間が、彼にとっての「冒険」だった。

陽光が川面をキラキラと照らす昼下がり。リルドが平たい小石を積み上げて遊んでいると、背後の森から激しい草擦れの音と、荒い息遣いが聞こえてきた。

「はぁ、はぁ……っ! 逃げろ、君! ここは危険だ!」

声を上げたのは、装備を血と泥で汚したDランクの冒険者パーティーだった。彼らの背後からは、本来この浅い森には生息しないはずの、二足歩行の凶暴な魔獣「フォレストベア」が姿を現す。イレギュラーな出現だ。

「おい、聞いてるのか! 早く逃げないと食われるぞ!」

必死に叫ぶ冒険者を横目に、リルドはよっこらしょと重い腰を上げた。せっかく積み上げた石の塔が、魔獣の咆哮による微振動で崩れてしまったからだ。

「……仕方ないなぁ。せっかく上手く積めてたのに」

「おい、何をして――」

冒険者が制止する間もなかった。

リルドがふらりと魔獣の懐に歩み寄ったかと思うと、腰に下げたなまくら同然の短剣の鞘で、魔獣の眉間を軽く小突いた。

ゴン、という乾いた音が響く。

それだけで、巨体を誇るフォレストベアは白目を剥き、地面を揺らして卒倒した。急所を的確に突き、意識だけを刈り取る神業。しかし、リルドの表情には凄みなど微塵もない。

「あ、死んでないから大丈夫だよ。一時間くらいすれば起きると思うから、今のうちにギルドに連絡してきなよ」

呆然と立ち尽くす冒険者たちを置き去りにして、リルドは再び地面にしゃがみ込んだ。

「さて、石積みの続きをしなきゃ。今日は風が気持ちいいから、夕暮れまでここにいようかな」

夕刻、ギルドの窓口。

リルドはいつも通り、土のついた薬草の籠を差し出した。

「リルドさん、お疲れ様。またDランクの人たちが騒いでたわよ? 『凄いFランクがいた』って」

受付嬢が苦笑しながら報酬の銅貨を並べる。奥のギルドマスター室の扉が少しだけ開き、強面のギルドマスターが「やれやれ」といった様子でリルドを見守っていたが、彼はそれに気づく様子もない。

「あはは、人違いじゃないかな。それより見てよ、この石。夕陽に透かすと綺麗なんだ」

懐から取り出したのは、どこにでもあるただの河原の石。

けれど、それを愛おしそうに眺めるリルドの横顔は、どの金貨よりも輝く満足感に満ちていた。

最強の力を持ちながら、彼は今日もFランクとして、世界で一番贅沢な足踏みを楽しんでいる。

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