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9/24

数十年先に

ワンピースで雪走や秋水が登場した時、拵の説明する台詞凄い好きです。

魔物の谷・古代遺跡内部。

転移装置の怒号のような機械音が消え、

静寂が落ちた直後——


焦りと困惑が、残された者たちを一気に飲み込んだ。


谷底に反響するヴィヴィの叫びが遺跡を揺らす。


「どうすんだい!?ノーザとニーナがどっかに!!

 突然光に巻き込まれて……消えたよ!?」


石壁に跳ね返る声は震えていて、

“強気な女戦士”の余裕は微塵もなかった。


リーが肩を掴んで落ち着かせる。


「ヴィヴィ殿!落ち着かれよ!

 無闇に動けば、拙僧達も巻き込まれかねぬ!」


しかしヴィヴィは涙目で首を振る。


「だって……ノーザがいないとかヤなんだよ!!

 ニーナも……この状況で何を信じればいいんだい……」


リーはほんの一瞬だけ、その弱音を受け止めて頷いた。


「信じるのみ。彼の強さと、彼女の賢さを」


そんな中、

サンはすでに決断していた。


「ワイがギルドに行ってくるわ!!

 こらあかん事態や!一刻も早く応援呼ばんと!!」


二人の肩を叩き、鋭く言う。


「ヴィヴィちゃん、リーちゃん!

 あんたらはこの装置見張っとき!

——戻ってきた時、誰もおらんとか洒落にならへんで?」


焦りではなく、仲間を信じる強い声音だった。


そしてサンの視線が、心配そうに装置を見つめる一頭の馬に向く。


「ラヴちゃん!悪いが乗せてくれ!」


「ヒヒーン!」

(——任せて!掴まれ!!)


ラヴズはサンが跨るより先に地面を蹴り、ニーナが残した浮遊魔法で岩棚へと跳ね上がる。


筋肉が爆ぜるような蹄の音。

まるで“ノーザを助ける”と言わんばかりの勢いだった。


サンがしがみつきながら叫ぶ。


「うおぉ!?ちょ、速いってラヴちゃん!!

 兄弟の馬、無茶苦茶やなぁぁあぁ!!」


蹄音は谷を越え、瞬く間に遠ざかっていった。


遺跡には、

ヴィヴィとリーと…

静かに転移装置を見つめ続ける寂しげな光だけが残された。


眩しい光が引き、

足元の感触が渓谷の岩から“土と草”へ変わっていた。


「……ここは……?」


ノーザが目を開けると、開けた土地にいた…しかし見慣れた王国の風景ではなかった。


ニーナも辺りを見回す。


「遺跡でも……渓谷でもありませんね……

 これは……完全に“別の地域”です……」


二人がいたのは、大きな杉の木の下だった。

枝は青々として、まだ若い葉をつけている。


しかし、視界に広がる光景はさらに異質だった。


まったく異なる文化の匂い


目の前に広がるのは、

王国とはまったく異なる建築様式の村。


茅葺屋根の家が整然と並び、

壁は白く、木の柱が格子のように組まれている。


道には丸石を敷いた坂道が通り、

その脇には紙の灯籠が吊られていた。


風に乗って聞こえてきたのは

祭囃子のような太鼓の音。


ノーザは口を開けたまま固まった。


「……なんだ、この国……?

 家の形も、道具も……全部違う……」


ニーナは周囲を注意深く観察しながら静かに言う。


「服装も……私たちの国とは違いますね。

 あの人が持っているの……“竹の籠”でしょうか?

 農具も……形状が独特です」


川沿いでは農民が「笠」をかぶり、

稲が植わった水田で作業をしている。


田の水面は空を映し、

どこか懐かしい郷愁を呼び起こす、美しい風景だった。


木の下に、古びた道標が立っていた。


『→ 會桜かいおう


ノーザは息を呑む。


「……會桜……

 この名前…この文字……確か、日ノ本の地名だって聞いた事がある……でも日ノ本は鎖国中だろ……?」


ニーナは道標を指先でなぞり、首を振る。


「逆に、鎖国中であるからこそ……

 私たちが知らない文化が、こうして目の前に広がっているのです」


「つまり……俺たち……日ノ本に来たってことか……」


「はい……“転移魔法で、別大陸に飛ばされた”と考えるのが妥当です。

 同じ世界の中でも…遥か遠い国……」


吹き抜ける風が、桜の葉を揺らす。


ノーザは額の汗を拭いながら、

緊張と好奇心の入り混じった声を漏らした。


「……俺たち、とんでもなく遠い所に来ちまったな……どうするんだ、これ……」


ニーナは不安そうにノーザを見つめながらも、そっと言う。


「まずは……情報収集をしましょう。

 この國のこと、何もわかりませんから……」


二人はゆっくりと歩き出した。


ここは、

2人の孫が訪れる48年前の日ノ本…


ノーザとニーナは、

右も左もわからないまま集落へ向かった。


水田の匂いと木材の香りが漂う、

どこか懐かしい風景。


ノーザは村人の一人に近づき、小さく会釈する。


「すみません、俺たち……道に迷ってしまって……

 この村について教えて欲しいんですが──」


しかし、その瞬間。


作業中の中年男性がピタリと動きを止め、

ノーザの腰の剣と、ニーナの異国のローブに目を剥く。


「……ッッ!?」


次の瞬間、

男は農具を放り出して全力で離れていった。


「ひ、人斬りじゃあああああ!!!

 お侍でもないのに刃物なんて持ち歩きおってぇぇ!!」


「えっ!?!?ま、待って!違う!俺は──」


「助けてくれぇ!!異国のお化けがおる!!」


「お、お化け!? ノーザ様はお化けじゃありません!その……イケメンで背は高いですが!」


「フォローが雑!!」


逃げた村人は振り返りもせずに叫んだ。


「お奉行さまぁぁ!!不審者だぁぁ!!

 剣持った西の国の人間がぁぁ!!」


村の奥からも

「なにごとだ!?」「異人!?」「不法入国か!?」「剣を持ってるのか!?」「役人呼べ!」

と騒ぐ声が次々と上がる。


完全に不審者扱いの二人


ニーナは焦ってノーザの袖を掴む。


「ノーザ様!!この国、私たちが思っている以上に……閉鎖的です!!明らかに“外の者”が珍しいというレベルではありません!」


ノーザは慌てて剣に布を巻いて隠す。


「え、ええ!?これ隠せば大丈夫かな……?」


だが隠しても、今度はニーナの格好が注目を浴びる。


「なにあの服……巫女でも僧侶でもない……」


「肌白過ぎ……乳デカ!?」


「西の魔女が里に来ただと!?」


「な、なぜ私まで魔女扱いなんですか!?」


「ニーナ!落ち着け!そ、それより逃げよう!」


草むらをかき分け、二人は山側へ走る。

背後からは村人の怒号。


「逃がすなー!!」

「捕まえろ!!」


「どこか隠れられる場所……!」


「ノーザ様!あれ……建物です!」


木々に挟まれた石段があり、

その上には門のような造りと左右に守護神の様な像

その向こうに静かな寺の門があった。


「よし、行くぞ!!」


二人は石段を駆け上がり、

寺の境内に飛び込む。



しかしその先には白い着物に藤色の袴。

髪を高く結い、

涼やかな眼差しで二人を見つめている。


その姿は、

この穏やかな寺の空気そのもののような、凛とした気配だった。


ノーザは息を整えながら、

必死に説明しようとした。


「あの……すみません!俺たち、村の人に誤解されて……敵意はありません、ただの旅の者で——」


少女はそっと手を上げて遮った。


「大丈夫です。

 あなた方が危害を加える者ではないと、見ればわかります」


その声音は穏やかで、

しかし芯の強さが宿っていた。


少女は二人の背後を見る。

石段の下では村人たちがこちらを睨み、追いかけてきている。


少女は静かに言った。


「こちらへ。お二人を匿います。

 ここは寺、俗世の喧騒は持ち込ませません」


そう言うと、

本堂の脇へと二人を案内した。


ニーナが戸惑いながら尋ねる。


「よろしいのですか……? 私たちは見ず知らずの──」


少女は微笑んで答えた。


「旅に迷う者を助けるのは当然の務めです。

 どうか、ご安心を」


その穏やかな顔を見て、

ノーザの緊張がふっと解けた。


本堂の奥へ案内されると、

線香の香りが静かに漂っていた。

柱や梁は深い色をした古木で組まれており、

どこか厳かで、しかし温かな空気が流れている。


やがて畳の間から、ゆったりとした足取りで一人の老人が現れた。


落ち着いた灰色の袈裟をまとい、

白髪の髪をきちんと後ろで束ねた老僧。


その眼差しは、

まるで人の心の奥を見透かすような深い静けさを持っていた。


少女が頭を下げる。


「お師匠さま。旅のお方をお連れしました」


老人は穏やかに頷き、二人に近づいた。


「ようこそ……啓龍寺へ。

 わしはこの寺の住職、恵元けいげんと申します」


ノーザとニーナも慌てて姿勢を正す。


「すみません!突然押しかけた形になって……

 俺たち、敵意はなくて……」


「本当に困っていて……助けていただきありがとうございます」


恵元は二人を見て、ふむと頷いた。


「ほう……それで“異国の地から飛ばされて来た”と」


「はい……気づいたらここにいて……」


ニーナが恐る恐る問いかける。


「ここは……どこなのですか?

 私たちが来た国とはまるで異なり……この建築も風習も、見たことがなくて……」


恵元はゆっくり手を組み、語り始めた。


「ここは東洋にあります“日ノ本”の會桜地方、

山あいの塔坂という郷でございます。

そしてここが——啓龍寺けいりゅうじ

この地で長く学問と祈りを司っておる寺でございます」


「日ノ本……!やっぱり……」


「ええ。西の大陸とは建物も言葉も違いましょう。

 しかし、恐れることはありません。

 旅人を匿うのも寺の務めです」


その声は優しく、

張り詰めていたノーザの肩の力がゆっくり抜けていった。


老人が横に立つ少女に視線をやる。


「そしてこちらが……この寺で預かっております娘」


少女は二人に向き直り、小さく会釈した。


「——紫織しおりです。

 どうぞよろしくお願いいたします」


紫織は少し恥ずかしそうに笑った。


「村の人たちは……異国の方を見る機会がほとんどありませんから、驚いてしまったんです。

 怖い思いをさせてしまって、ごめんなさい」


「いや、紫織さんが謝ることじゃないよ……助かったよ」


ニーナも胸に手を当てる。


「本当に……ありがとうございます」


恵元が静かに本堂の奥へと歩き、

色褪せた垂幕へ手を添えた。


「帰る術が見つかるまでは……どうぞ、ゆっくりしていて下され、せっかくですので——この寺の守護本尊をお見せいたしましょう」


垂幕がゆっくりと引かれた瞬間。


空気が変わった。


木組みの堂内に無数の影が揺れ、

線香の香りすら一瞬止まったように思えるほどの圧。


そこに姿を現したのは——

本堂いっぱいに聳え立つ、巨大な像。


光を吸い込むような黒檀の身体。

何十という腕が空間を埋め尽くし、

その中心には慈悲と怒りが混ざり合った神秘の眼差し。


さらにその頭上には、

また別の“顔”が静かに世界を見つめていた。


十一面千手観音——。


恵元の声が響く。


「こちらが啓龍寺の守護本尊……

 十一面千手観音菩薩様でございます。


お顔の上にさらにお顔がございまして、

高さは二丈八尺——

“千”という数字は仏の世界で無限を意味します

、その御手は……千の世界を慈しみ、千の苦しみを救うためのもの」


ノーザとニーナは完全に呑まれた。


ノーザは思わず息を飲む。


「……これ……スゲェ……

 なんだ……この、圧……

 いや、でも……怖いとかじゃない……

 胸が……熱くなる……」


ニーナは震える声で囁いた。


「……なんて……美しい……

でも……怖いほど……尊い……

ノーザ様……まるで世界に自分達だけになったみたいです……」


二人とも、言葉にならないほどの存在感に圧倒され、

ただ見上げるしかなかった。


像の前を抜ける風が、

まるで観音が息をしているかのように感じられた。


異国から迷い込んだ二人にとって、

この壮大な像は——

旅の中で出会ったどの魔物よりも、

どの聖剣よりも、神秘的で、圧倒的な力を持つ存在として心に刻まれた。


本堂の厳かな空気から解放され、

寺の庭へ出ると、空気は一気に柔らいだ。


苔むした石畳。

風に揺れる竹林。

静かな池に、鯉がゆっくりと波紋を作っていく。


そんな庭の片隅で、

箒を持った紫織が掃き掃除をしていた。


着物姿にどこか凛とした空気を纏った少女。


——紫織。


彼女はノーザ達を見ても驚きもせず、

ただほんのりと微笑んだだけだった。


ノーザは思わず呟く。


「しかし……紫織さんは俺達を見ても

 顔色ひとつ変えなかったな。

 肝が据わってるというか……

 異国の者が突然現れたら普通、驚くだろ?」


紫織は手を止め、静かに笑った。


「驚きましたよ?

 でも……こうして噂では聞いていましたから。

 この世には“不思議”がたくさんあるって」


ノーザは照れて頭をかく。


「いや、それでも普通は逃げるだろ……」


ニーナが一歩踏み出し、柔らかく尋ねた。


「紫織さんは……親元を離れて

 こちらで暮らしているのですか?」


紫織は視線を少しだけ伏せる。


「私は……」


言いかけたそのとき。


本堂の方から、恵元の呼ぶ声が響いた。


「紫織やー。庫裏くりまで来ておくれー、ノーザさんとニーナさんも」


紫織はハッと顔を上げた。


「あ、はい!すぐ行きます!」


軽やかに駆けていく紫織。


去り際の黒髪が揺れ、

ほんの一瞬だけ——

何かを抱えているような影が、その横顔に差した。


ノーザはその背中を見つめながら呟く。


「……なんだろう。

 強いけど……寂しいような……そんな感じがしたな」


ニーナも同意したように目を細めた。


「はい……あの子、何か抱えているように思えます。

 でも、それを悟らせない強さも……ありますね」


恵元に案内され、

寺の奥深くにある宝物庫へと足を踏み入れた。


湿度の管理された静かな空気。

灯籠の淡い光に照らされ、

整然と並べられた古文書や什器が影を落とす。


その中央に——


一本だけ、特別に飾られた長い箱。


恵元は両手を合わせるようにその箱に膝をつき、

ゆっくりと蓋を開いた。


「ノーザさん。こちらは……

 この啓龍寺に古来より伝わる、特別な宝です」


箱の内部、そこにあったのは——


黒い鞘が静かに光を吸い込むような一本の刀。


ノーザは息を飲む。


「……これが……刀……」


ニーナも、初めて目にする東洋の武器に

言葉を失ったように見入る。


すると、後ろから静かに紫織が進み出た。


その声音は、さきほどよりずっと厳かだった。


「こちら、

黒漆金装白鮫皮打刀拵《くろうるしきんそう・しろさめがわうちがたなこしらえ》

そして刃は——

黒鋼乱れ湾れ刃 黒刀《六道》(りくどう)と申します」


ノーザはごくりと喉を鳴らす。


紫織は手元の柄にそっと触れながら、説明を続けた。


「外装は黒漆塗りの鞘に金具。

 柄巻には白い鮫皮……

 こしらえだけでも相当な技が使われています。


 ですが本当に特別なのは——

 この刀身です」


恵元が小さくうなずき、

「では少しだけ」と刀を持ち上げる。


刀身がわずかに抜かれると——


宝物庫の灯りが吸い込まれ、

返すように鈍い“黒の輝き”が奔った。


「……黒い……!?」


「ええ。

この刀は“黒鋼”と呼ばれる特種鋼で鍛えられています。そして、刀匠が研ぎ上げた乱れ、湾れ(のたれ)を描く刃紋。

刀工の技術が到達し得た、ひとつの極致とも言われています」


ノーザは刀に吸い寄せられるように見つめる。


「……こんな……美しい武器……

 俺、こんなの見たことない……」


恵元は優しい眼差しで言った。


「本来、客分にお見せするものではありません。

 ですが……あなたの目を見て、

 この刀も“応じて”いるように感じました」


刀身が、わずかに鳴った気がした。


まるで呼吸しているかのように——。


宝物庫の淡い灯りの中。

恵元の手により再び静かに刀身が収められ、

黒漆の鞘がわずかに金具を鳴らした。


そんな厳かな空気の中で——


紫織が一歩、前へ出る。


その表情は先ほどまでの少女のものではない。

寺を背負う者としての、

凛とした“何か”が宿っていた。


「……お師匠様。本当に、よろしいのですか?」


恵元は深く目を閉じ、静かにうなずいた。


「うむ。この刀も、そろそろ外の空気を吸いとうあったろう」


紫織は刀を両手で持ち、ノーザの前へ。


「ノーザさん。

 この黒刀《六道》を、あなたに託します。」


「え、ええ!? お、俺にですか!?」


ニーナも慌てて前に出る。


「ま、待って下さい紫織さん!

これほどの宝物……日ノ本の国宝級ではありませんか!?そんな大事な物を、私達のような——」


紫織は首を振る。


「いえ。この刀は……貴方がたにこそ必要な物……

今日この時の為にこの寺に眠っていたのです…」


 紫織は小さく息を整える。

「……ノーザさん。

 ここからは……私個人の話なのですが……」


「紫織。無理に言わずともよいぞ」


「いえ……いずれ、知っていただくべきことですから」


ノーザとニーナが見守る中、

少女はゆっくりと口を開こうとする


「先程……言いそびれました。

 私が、この寺に預けられている本当の理由を……」


ノーザとニーナが耳を傾ける。


紫織は胸の前で手を重ね、言葉を紡いだ。


「私は……“時々”、ぼんやりとですが……

 未来が見える のです」


「……未来を……?」


「はい。それはいつも夢のようで、どれも断片的ですが……いくつかの光景だけ、はっきりと見ました」


彼女の瞳には、恐れと覚悟が入り混じっていた。


「今、人類は魔の脅威に晒され、土地は奪われ、

 飢え、疫病、絶望……終わりのない闇に沈む未来 を、私は見てきました」


ニーナは思わず息を呑む。


「でも……ある日だけ、違いました。

 まるで神託のような光景が、私の前に現れたのです。深い闇を切り裂く、眩い閃光。そしてそこに——」


言葉が震えた。


「異国の旅人たちが、立っていた。

彼らは迷いなく、恐怖なく、ただ“人を救うため”に歩んでいて……その中心にあったのが——」


紫織の瞳が、ノーザの手の黒刀へ向く。


「“涅槃ねはん”の名を冠する剣。

 世界に希望をもたらす、黒き刃。」


「……それが……ニルヴァーナ……六道」


「はい。

 だから私は、今日ここに現れたあなた方を見て、

 ああ、あの夢の旅人は……この人たちなんだ と……

 心の底から確信したのです…」


静寂が落ちた。


紫織は深く頭を下げる。


「ノーザさん。

あなたはきっと、この荒れ果てた未来を切り開く剣となる。だから……この刀《六道》は、あなたに持っていただくべきなのです」


ノーザは刀を両腕で抱え直し、まっすぐに頷いた。


「……ありがとう。

紫織さん、その想い……必ず報いる。

俺は、魔王を倒す勇者になる」


静かな誓いの声が、宝物庫に響いた。


そして別れはやってくる

外気は冷たく澄んでいた。

境内に出た瞬間——


サンの声が風に乗って届いた。


《兄弟……兄弟、聞こえるかいな!?

 転送装置の修復が完了したで!!

 早よ帰ってきや!!》


ノーザとニーナは顔を見合わせる。


「……では恵元さん、紫織さん。

 本当に……お世話になりました……」


恵元は静かに合掌した。


「迷いし者に道を示すのが寺の役目……

 お二人に出会えたこともまた、仏の縁でしょう。

 どうか——世界を救って下さい」


ノーザは背に負った黒刀六道をそっと撫でた。


「黒刀六道……必ず魔王を倒します。

 人が、人らしく生きて笑えるように——

 絶対に、世界を変えてみせます」


紫織が数歩近づき、胸の前で手を重ねた。


「……見えています。

今までよりも、ずっとはっきりと。

少し先の未来——

貴方がたが、真の泰平の世へ導く姿が。

その刃は迷いを断ち、人を救う光となるでしょう」


ノーザとニーナは深く頭を下げた。


「道中、仏の御加護がありますよう……」


「恵元さん……紫織さん……ありがとう!」


「必ず……必ずまた……!」


光柱が二人を包み込む。


転送の光が強まり、ノーザとニーナの姿が淡く揺らぎ始めた。

その瞬間、紫織がふいに口を開く。


「……もう一つだけ。お伝えしたいことがあります」


「え?」


紫織は微笑んだ。

どこか懐かしさを含む、柔らかな微笑みだった。


「泰平の世が訪れ……人が争いを忘れた、数年後。

 ——私たち、また逢える気がします。

 その時を……楽しみにしていますね」


ノーザも、ニーナも、一瞬だけ言葉を失う。

「……!」


「どうか……道を、間違えないで」


光が爆ぜるように広がり、

ノーザとニーナの姿は白い閃光の中へ溶けていった。


寺の庭に残った紫織は、

静かにその場に座り、両手を合わせた。


(また……いつか)


——眩い閃光。

——感覚がふっと浮く。


そしてふたりは、

元いた遺跡へと転送されていった。


白い光が霧のように消えていく。

気がつけば、そこは再びあの渓谷遺跡の内部だった。


「……戻ってきた……!」


「成功……したんですね……!」


次の瞬間——


「ノォーーザァーーー!!!」

勢いよく飛びついてくる。


「うわっ!?お、おいヴィヴィ——」


「こら離れなさい!!ノーザ様が困ってるでしょう!!」


サンは胸に手を当てて深々と息をついた。

「はぁ〜〜……生きて帰って来てくれて良かったで、兄弟!」


リーも珍しく声を荒げる。

「本当に……心臓に悪い……!何事かと……!」


ラヴズ(ヒヒーン!)

(良かった!!よかったぁぁ!!)


転送装置の修復に来ていたギルド職員たちも駆け寄る。


「よかった……!本当に……!

なにがどうなっていたのか説明は後で構いません、とにかくご無事で……!」


ノーザは照れくさそうに頭を掻きながら笑う。


「心配かけて、すまない。

……でも、何とかなったよ。少し特別な経験をしてきた」


「兄弟はいつも特別やなぁ……!」


「では、装置は封鎖します。

今回の件はギルドでも慎重に扱いますので……ひとまず本当に、お疲れ様でした!」


「ありがとう」


仲間全員が円になって囲み、しみじみと笑いあう。


「もうあーしを置いてくんじゃないよ!ノーザ!」


「ほな、今日は酒と飯で祝いやな!」


「……ああ。帰ろう、みんな」


澄んだ渓谷の風が、遠くから彼らを祝福するように吹き抜けた。


——こうして、ノーザたちの旅は再び動き出す。






所で、一旦だが未来の世界へ

──時は流れ、あの日から幾十年。


300年続いた侍の時代が終わり、日ノ本は新たな時代を進んでいた。

春。数年前の内戦から復興を果たし、今はゆるやかな風と、山と川の境目が白い靄に溶ける會桜の片田舎


古い茅葺屋根の啓龍寺に、二人の若者が静かに歩みを進めていた。


「ご祖母様、ご無沙汰しております」


「おじゃまします……」


境内の掃き掃除をしていた一人の老婦人が顔を上げた。

白髪は上品にまとめられ、細い体・・けれど背筋は真っすぐ。

瞳に柔らかい聡さと気品を宿した——

紫織・カンナギ、齢70


「紫苑……! そして……婿殿!

よく来てくれましたねぇ……」


孫娘・紫苑は昔の紫織の面影をそのまま写したように美しく凛とし、その隣には、ややぎこちないながらも真っ直ぐな眼差しの青年が立つ。


現県知事秘書

紫苑・スメラギ


クレイン王国第三王弟

アクア・スメラギ(旧姓:アクア・クレイン)


「あの……。ご祖母様に

曾孫の顔を見せに来ました」


「……俺たちの子です。

やっと、落ち着いてきたので……」


アクアの腕の中に抱かれているのは、

まだ言葉も話せないほど幼い赤子。

けれどその瞳には、不思議な強さと静けさが光っていた。


紫織は、一歩、また一歩と近づき、

震える指先でそっとその小さな頬に触れた。


「……ええ……ええ、本当に……」


瞳に涙が浮かぶ。

その声は震えながらも、あたたかかった。


「ようやく……

あの二人に、また逢えたような気がします……」


彼女の脳裏をよぎるのは——

あの日、突然現れて、突然去っていった異国の若き勇者とその従者。

迷いの世を救う剣を手にした旅人たち。


その血筋が——こうしてまた、自分の前に立っている。


「……繋がってたんだな。

爺ちゃん婆ちゃんたちの旅と……俺たちの今が…」


「ご祖母様。

また……何度でも会いにきますね」


紫織は微笑んだまま、小さく頷いた。


「……ええ。未来は必ず、良くなっていきますよ……」


啓龍寺の桜が、ひとひら舞った。


——あの日、ノーザが訪れた地で

——その旅の“証”は、こうして確かに生き続けている。


前作で紫苑が旅に出た理由が祖母の予言でした。※後付けですが


載せるの忘れてまさした。紫織の見た目

オリジナルヒロイン4 紫織・カンナギ | 福島ナガト #pixiv https://www.pixiv.net/artworks/138996515

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