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物語はいつも静かに始まる

今作は魔王討伐を目指しながら道中の国や地域に所属して仕事もするスタイル

──早朝。

宿屋の薄暗い部屋に、わずかな朝日が差し込む。


ノーザはうっすらと目を開けた。

「……ん……朝……か……?」


布団の中で、なぜか肌にあたたかい感触。

そして……もぞもぞ……。


(……え? なに、この動き……?)


恐る恐る布団をめくると──


ヴィヴィがそこにいた。

布団の中で、頬を赤らめながらも微笑む

「……あ、ノーザ、おはよう……♡」チュチュ


それに並ぶように──


ニーナもいた。

いつも通り見た目は凛として、完璧な寝癖ゼロの髪のまま、ぴったり寄り添って。

「おはようございます……ノーザ様♡」レロレロ


ノーザは完全停止した。

「………………?」


そこには、ノーザを溺愛する女戦士と、

ノーザを崇拝する魔法使い。


ヴィヴィは腕に頬を擦り寄せてくる。

「えへへ……ノーザの寝顔見てたら……あーし我慢できなくてね…♡」チュル♡チュル…♡


ニーナはノーザの胸元に手を添えながら、さらっと爆弾を投下する。

「ノーザ様の寝息……私、永遠に聞いていたくて……♡」ジュプ…ジュプ


ノーザは最後の抵抗

「………………やめろ」


「「やだ!!!!」」


「うっ……」ドックン


──朝からノーザの“覚悟”を掻き乱すのである。


朝の食堂は宿の客で賑わっていた。

ノーザは席に着き、簡素な朝食を静かに口へ運んでいる。


そこへリーが近づく。

「ノーザ殿……今朝は随分と慌ただしかったようだが、ニーナ殿とヴィヴィ殿はどうされた?」


ノーザはため息混じりに答えた。

「反省中。」


「……は?」


ノーザは無言で食堂の端を指差す。


そこには──

布団にぐるぐる巻きで転がされているニーナとヴィヴィがいた。


「ノーザ様の……朴念仁ぃぃぃ!!!」

ニーナがジタバタして叫ぶ。


「ちょっとくらい良いじゃないか!!

あーし達が何かしたかぁ!!?」

ヴィヴィもバタバタ暴れる。


ノーザは淡々と言う。

「言っただろ。

志を果たすまで、酒も、女も、博打もやらないって。俺は魔王倒すまで絶対にブレない。」


「……お、流石はノーザ殿…ストイック……」


「ノーザは真面目過ぎんだよ!!!」


ノーザはパンをかじりながらひと言。

「……そもそも、勝手に俺の部屋に潜り込むな。」


「「ぐぬぬぬぬぬ……!!!」」


──これが、

ノーザの“禁欲誓い”がどれだけ本気かを思い知った朝だった。


布団ぐるぐる巻きのニーナとヴィヴィを横目に、

ノーザが食堂でパンをかじっていると──


サンがニヤ〜ッと笑いながら横に座った。


「兄弟も堅物やなぁ〜。女の子が二人も“好きや好きや”言うてくれてるんや、少しくらい構ってやったらどうやねん? ん〜?」


「……サンまで茶化すなよ……」

顔を赤くしながらパンをちぎる。


サンは肘でノーザの脇腹を小突く。

「いやいや、あんなん普通の男やったらニヤけて倒れるで?」


「……俺は遊びに来たんじゃないって言ってるだろ……」


「そう言うとこがまたモテるんやけどな〜。

困ったもんやで、うちの勇者様は♪」


反対側で布団の中から聞こえる。


「サンさん……もっと言って下さい……!」

「そうだそうだ!!ノーザはちょっとくらい砕けろ!!」


「お前らは黙ってろ!!!」


「……ほら見てみ? 兄弟が冷たくしたら、あーやって余計に燃えとるで?」


「……はぁ……(頭痛)」


──仕事前から、仲間内は平常運転である。


ギルドにて──またしても不穏な知らせ


「おはようございます」


いつものように挨拶しながら受付カウンターへ向かうと、

受付嬢がこちらを見た瞬間、ほっとしたように息をついた。


「あ!ノーザさん!よかった……ちょうどお願いしたかったんです!」


「えっ? どうしたんですか?」


受付嬢は周囲を見回し、小声で続けた。


「……実は、ノーザさん達が救出した村の付近で、

今度は“行方不明事件”が相次いでいて……」


「行方不明……?」


はい。村人が数名、ふっと姿を消してしまうんです。盗賊に襲われた様子もなく、“痕跡が一切無い”というのが余計に不気味で……

今、手の空いてる冒険者に順次、調査依頼をお願いしている所なんです」


ノーザは表情を引き締めた。


「……救ったばかりの村が、また脅かされてるのか」


「許せないね!また行こうよノーザ!」


「ノーザ様……これは見過ごせません。早く真相を突き止めましょう!」


「行方不明とは不吉……。拙僧も真剣に取り組む所存……」


「ほぉ〜……なんやまた一悶着ありそうやな。

兄弟、今回はちょっと厄介な匂いがするで」


「その依頼……俺達も任せてもらえますか」


受付嬢は安堵の微笑みを浮かべる。


「……はい!どうかお願いします!

村の方々も、きっとノーザさん達なら来てくれるって……信じてましたから!」


仲間達はすぐさま準備へ散っていく。


ノーザは剣の鞘を握りしめた。


「……助けた村を、今度こそ“真の平和”にしてみせる」


ギルド主導の広域調査


事件が広まり、周囲の村々にも動揺が走っていた。

ギルドは既に複数の調査隊を派遣しており、街のあちこちで冒険者達が動いていた。


「何かあったらギルドまでお願いします!早急に対応しますので!」


「はい……できれば早めに解決を……うちの息子も、まだ戻ってこないんです……」


女冒険者は表情を引き締め、深くうなずく。


一方その近くでは、別の冒険者パーティが荒事に発展していた。


「言え!!お前達がやったんだろ!?拐った村人達をどこへ連れて行った!?答えろ、魔物ッ!」


捕縛されたゴブリンが、首元に突き付けられた剣を前にしてもニヤリと笑う。


「へっ……言えるかよ、ば〜か!!」


「クッ……!」


仲間の魔法使いが声を荒げる。


「やっぱり魔物共の仕業か!?ギルドに報告だ!」


ギルドの捜査は進んでいる──

だが“決定的な手がかり”は、まだ何も掴めていなかった。


その様子を見たノーザは、手綱を握り直す。


「……よし、行こう。俺達で必ず真相を突き止める」


仲間達がうなずき、次の現場へと向かう。




前回ノーザ達が救った北方の村。

その外れ、草原の端で、ひとりの子供が木の剣を振り回して遊んでいた。


「やーっ! オークを倒したぞー!」


そんな無邪気な声が響く中──

風に紛れるように、すっと“女”が現れた。


白いローブに、フードで素顔を隠した背の高い女。

歩き方はゆらりとしていて、どこか影めいている。


「……ねえ、君……」


子供は警戒もせず振り向く。


「? なあに? お姉さん、だれ?」


女はしゃがみ込み、わざとらしいほど優しい声で語りかける。


「うふふ……実はね、ちょっと困っているの。

お姉さん、どうしても“助けてくれる人”を探していて……」


「え? 困ってるの? ぼくでいいの?」


女は小さく頷くと、そっと手を伸ばした。


「ええ……君で“十分”。

――ちょっとだけ、一緒に来てくれない?」


その笑みは、優しさよりも“得体の知れない気味悪さ”が勝っていた。


「……え、でも……お母さんが村から離れちゃダメって……」


女は唇だけで笑う。


「大丈夫よ……すぐに終わるから。

痛くしないわ……すぐに“終わる”からね……?」


ローブの袖の奥で、何かがぞわり、と蠢いた。


風が止まり、空気が冷たくなる──

次の瞬間、少年の小さな手が女の手に掴まれてしまった。


女が子供の手を引き、草原の奥へと歩き出そうとした瞬間──

風が切れる音が走った。


次の一瞬には、

リーがすでに女の真後ろ。

腕を回し、音もなくチョークスリーパーを極める。


「……動くな。大人しくすれば命までは奪わない……」


「!? な、なにッ……どこから……!」


女は顔を青ざめさせ、完全に身動きを封じられていた。


「えっ……えっ!?ど、どしたの!?お姉さん……!」


そこへヴィヴィが歩み寄る。

女の正面に回り込み、抜き放った短剣を突きつける


「アンタ……人間だよな?

子供をどこに連れてくつもりだい?」


「……ち、違っ……私は……」


ヴィヴィの目が鋭く細まる。


「言っとくけど、犯人じゃなきゃちゃんと謝るよ。

でもね……あーしらは“一秒でも遅れたら終わり”だと分かってんの」


ニーナも駆け寄り、少年をそっと抱き出す。


「大丈夫、もう安全ですよ。怖い思いをしましたね……」


「うん……!」


その背後でノーザが歩み寄り、女をじっと見据えた。

剣には手をかけず、しかし一切の油断もない視線。


「…まずは理由を聞かせてもらおうか。子供を連れ去ろうとしたのは、どうしてだ?」


拘束された女は、喉を鳴らしながら震える。

リーの腕がわずかに締まる。


「……嘘を言えば、わかるぞ?」


──完全に包囲され、

“逃げ場はない”。


拘束され短剣を突きつけられた女は──

次の瞬間、崩れ落ちるように土下座をした。


「ご、ごめんなさい……!

本当に……本当に申し訳ありません……!

仕方なかったんです……!」


「……へぇ? じゃあ何で子供誘った?」


ノーザは剣から手を離し、静かに問いかける。


「まず理由を聞かせてくれ、謝るのはその後でいいから」


女は涙でぐちゃぐちゃの顔を上げた。

震える声が、かすれながら漏れる。


「わ、私の……妹が……

魔族の人質に……なってしまって……!」


「……ほう。やっぱワケありか」


サンは腕を組み、ノーザに視線を送る。


「兄弟、これは聞く価値あるで。

保安庁に突き出すのは、話の後や」


女はさらに深く頭を下げた。

「魔族は……言ったんです……」


そして震える唇で続けた。


「“人間を20人献上すれば、妹を解放してやる”って……!」


ニーナは息を呑む。

ヴィヴィの眉が跳ね上がる。


「……悪鬼外道……。なんと卑劣な……」


ノーザは拳を強く握りしめ、女の言葉に耳を傾けた。


「最初は村の大人に相談しようと思いました……

でも……“誰かに言ったら皆が巻き込まれる”と言われて……私一人で……やるしか……なくて……!」


ボロボロになり、泣き崩れる女。


ノーザはしばらく黙ったままだったが──

やがてゆっくりと膝をつき、女の目の高さにしゃがみ込んだ。


「……あなたは悪くない。

悪いのは“人を脅して人を差し出せと言う方”だ」


「……っ……!」

「妹さんを助ける方法は、必ずある。

俺達も協力するよ」


サンがにやりと笑い、肩をすくめた。


「ほれ見ぃ。兄弟はこういう奴やで。

困っとる人間、ほっとけるタマやあらへん」


ヴィヴィは胸を張って言う。


「あーしらが助けるよ!あんまりノーザを舐めるんじゃないよ!」


ニーナは女の背を優しく擦った。


「一緒に妹さんを取り戻しましょう。

“魔族の悪意”……私達が止めてみせます」


女は涙をぽろぽろと零しながら、深く深く頭を下げた。

「……お願いします……!!」




女に案内され、北方の村から少し離れた森の奥へ。

森を抜けた先に──


まるで“神殿”のような立派な建造物が姿を現した。


白い石造りに大きなアーチ、聖人像まで並んでいる。

どう見ても、魔族の巣には見えない。


「……立派な建物だな。洞窟とか廃墟とか、

そういうのを想像してたんだけど……」


女は苦しそうに唇を噛む。


「元々は……教会だったんです。

でも……ある時、教祖が“魔族に救いを求める”ようになって……やがて……魔族を支援しはじめ……

信者を“人身供物”として差し出すようになりました」


「ま、まさか……首謀者は人間だというのか!?」


リーは拳を震わせながら、低く呟く。


「信仰を利用して……誘拐と献上……

これほどの外道が……人間だったとは……!」


サンは頭を抱え、思わず叫んだ。


「なんやねんそれ!?

アホどころちゃうやろ!!

魔族に尻尾振って、民を差し出す教祖って……

頭どうなっとんねん!?」


ノーザは建物を睨みつける。

瞳の奥に、怒りがじわりと灯る。


「……許せない。

人を守るべき場所で、人が奪われてるなんて……

こんな理不尽、俺達が正すしかないだろ」


ニーナは強く頷く。


「ノーザ様……一緒に行きましょう。

このような悪行……決して放置出来ません」


ヴィヴィは剣を抜き、笑う。


「行こうぜ、ノーザ。

あーしらで、全部ぶっ壊してやる!」


サンは矢を番え、口角を上げる。


「兄弟、派手にいったろか。

教会だろうが魔族の巣だろうが……悪党の溜まり場に変わりないで!」


リーは静かに手を合わせ、祈る。


「……導き給え……

闇に堕ちた愚者を、成敗する時が来た……」


ノーザ達はゆっくりと、

“人間の悪意と魔族の結託”が巣食う教会へ足を踏み入れた。



教会内部──狂信者の警備を突破せよ


教会の入口を進むと、

薄暗い廊下の奥に数人の狂信者が立ち塞がっていた。


白い法衣に、魔族の紋章を胸に刻んだ異様な姿。

瞳は焦点が合わず、狂気に濁っている。


「……侵入者……教祖様の邪魔は……させぬ……」


「くっ……人間同士で戦うのは、気が重いけど……!」


「優しさだけじゃ、生き残れないよノーザ!」


その瞬間──

背後からリーが音もなく近づく。


「……南無。来世は道を外さぬよう……」


バキッ


乾いた音と共に、

リーの両腕が狂信者の首を掴み、ネックツイストを決めた。

力が抜け、狂信者はその場に崩れ落ちる。


「……あんた、ほんとに僧侶なのか?」


「僧兵とは、悪しきを屠るもの」


(……武闘派すぎません?)


廊下の奥から別の狂信者が飛び出す。


「異教徒どもぉぉぉ!!」


サンが弓を引き絞り、目を細める。


「リーちゃんは優しいのぉ……

魔族に加担する下衆……ワイは弔わへんでぇ……」


放たれた矢は、

迷いなく狂信者の急所を貫いた。

男は声一つあげずに倒れ込む。


「サン……殺さなくても……!」


「兄弟、ええか。

“救える命と救えん命”は違うんやで?

こいつらはもう帰ってこん。

ワイがやらんでも、いずれ魔族に殺されるわ」


その言葉にノーザは拳を握る。

本当は、誰一人死んでほしくない。

でも──現実はそんなに甘くなかった。


ニーナがそっとノーザの肩に手を置く。


「ノーザ様……迷う気持ちは分かります。

でも今は、“助けられる人”を最優先にしましょう」


「……ああ。行こう、みんな」


警備を排除した一行は、

奥へ続く礼拝堂の扉へ向かった。


リーとサンが狂信者を倒したその奥。

廊下の影に、まだ三人の狂信者が潜んでいた。


「教祖様に……近づかせぬ……!」


ノーザは一瞬、足を止めた。

“人間相手に剣を振るう”重さが胸に刺さる。


だが──

その迷いは、サンの言葉で断ち切られた。


『兄弟、ええか。救える命と救えん命は違うんやで』


ノーザはゆっくりと剣を構えた。

片手にスミから貰った木刀。

もう片手に愛剣──ニルヴァーナ。


その目に、迷いはもう残っていなかった。


「……分かったよ、サン。

俺も惑ってるようじゃ……“勇者”になれない」


「異教徒め!!」


狂信者が突進してくる前に、ノーザの体が先に動いた。


ドンッ!


木刀が狂信者の腕を叩き折る。

続けざまにニルヴァーナが横一線に走り──


ザンッ


狂信者が崩れ落ちる。


残った二人も叫ぶ暇すらなかった。


「……どけ。俺達は人を助けに来たんだ」


二刀の連撃は一瞬。

狂信者達は次々と倒れ、静寂だけが残った。


ニーナが息を呑む。


「ノーザ様……その……」


ヴィヴィは拳を握り、少しだけ震えていた。


「……強い……。

でもノーザ……本当に、覚悟決めたんだな……」


サンは口元を緩める。


「──よう言うたで兄弟。

綺麗事だけじゃ、守れん命もある。

今のお前なら……“ほんまの勇者”になれるわ」


ノーザは血のついた木刀を見つめ、

静かに、それでも確かに頷いた。


その覚悟は、確かに“勇者の片鱗”だった。


一行はついに──

礼拝堂の奥、教祖の待つ最深部へと足を踏み入れる。


その先に──

“教祖”と“囚われた妹”が待っている。


礼拝堂の扉を開いた瞬間、

中から異様な熱気と瘴気が吹き出してきた。


天井の高い堂内。

祭壇の前に刻まれた魔法陣が赤黒く脈動している。


その中央には──

女の妹が両手両足を拘束され、引きずられるように祭壇の前へ。


「いやっ……! やだ!!たすけ……てっ……!」


響く惨叫。

しかし、その声をかき消すほどに狂騒が続いていた。


祭壇の上で腕を広げる男──元・教祖。


白い法衣は血と油で汚れ、

瞳は人間のものではないほど濁っている。


「魔王様ァァァ!!

どうか……どうか更なる慈悲を……!

人間の捧げ物を、どうぞ召し上がりくださいませええ!!」


その前には、魔族の幹部がにやりと笑う。

肌は灰色、角を持つ男。


「よいぞ、教祖。

その娘は若く、生命力も高い……

“魔王様への供物”としては申し分ない」


魔族幹部は、ゆっくりと少女の頬に手を這わせた。


「やっ……触らないで……っ!!」


「ふふ……恐怖は甘美だ。

さあ……魔力よ満ちろ……

魔王様に更なる力を、贄を、絶望を捧げよ……!」


教祖の狂った絶叫に呼応するように、

周囲の狂信者達が一斉に両手を掲げて叫び出す。


「魔王様に栄光を!!人間は贄となれ!!

贄となれええええ!!!」


礼拝堂全体が、

狂気と死の気配で満ちていた。


「たすけ……て……誰か……!!」


ノーザ達が礼拝堂へ飛び込んだ瞬間──

魔族幹部が振り向き、不快そうに眉をひそめた。


「……誰だ貴様ら。儀式の邪魔を──」


その言葉が終わるより早く。


「リー!! 受け止めろ!!」


ヴィヴィは短剣を素早く抜いた。

一歩踏み込み、腕を振り抜く。



投げ放たれた短剣が、

少女を縛る結び目を正確に切り裂いた。


「なにッ──!?」


拘束が消えた瞬間、少女は祭壇の上から落ちる。


「きゃあッ!!」


その落下先に──

もうリーが動いていた。


「──行意!!」


リーの体が霞のように跳んで少女の真下へ。

受け止める際の衝撃を完全に殺すように、

そっと腕で包み込む。


「大丈夫だ……もう怖くない」


「……っ、う……(涙)」


サンが矢を番え、後衛から叫ぶ。


「兄弟!救出完了や!! あとは派手にやったりぃ!!」


教祖が狂ったように叫ぶ。


「貴様らぁぁぁ!!

儀式を邪魔するなど万死に値する!!!」


魔族幹部は怒りに歪んだ顔でノーザ達を睨んだ。


「……よかろう。

その命、魔王様への“追加の贄”にしてやる!」


ノーザは前へ踏み出し、木刀とニルヴァーナを構える。


「相手になる

その子に触れた罪……ここで償わせる!」


ニーナがノーザの横に立つ。


ヴィヴィも剣を正眼に構え、笑う。

「さぁ、一気に終わらせるよ、ノーザ!!」


リーは少女をそっと後ろへ下げ、戦闘態勢。


サンは矢を引き絞り、魔族幹部を狙い撃つ。


「ほな、儀式の続きといこうか──

“悪党退治”の、な」


礼拝堂は最高潮に張り詰めた


「貴様ら……人間風情が儀式を邪魔するかァ!!」


魔族が腕を広げ、瘴気が渦を巻く。

その瞬間──ノーザとニーナは目を合わせた。


「……行くぞ、ニーナ!」


「はいッ、ノーザ様!!」



空気にビリッと電気が走る。


二人は雷魔法を唱えた!


大雷魔法──ゼウス

雷撃魔法イクスパルション・サンダー──追放の雷


礼拝堂を揺らす轟音とともに、

二つの雷が一直線に重なった。


ズガァァァァァァァン!!!


重なった魔力は互いを引き寄せ合い、

まるで巨大な雷槍のように魔族へ突き刺さる!


「ぐあッ!!? な、なんだこの威力は──!」


電撃が魔族の全身を貫き、

床を焦がしながら周囲の祭壇まで吹き飛ばす。


ヴィヴィが称賛

「おおっ!? なにそれカッケェ!!」


「兄弟とニーナちゃんの合体魔法かいな!?

開幕から全力とか、敵が泣くでほんま!!」


魔族幹部は煙を上げながら、怒りで顔を歪ませる。


「貴様らァァ!!

人間が……この我に傷を付けるとは……ッ!!」


ノーザは木刀とニルヴァーナを構え直す。

ニーナも杖を両手で握り、胸を張る。


「まだまだ……これからですからね!」


雷の残響がまだ空気を震わせていた。

戦いはここから本番──!!


ノーザが指揮を執る

「リー! 被害者を逃がすんだ!」


リーは静かに一礼し、すぐに動いた。


「──行意」


人混みをすり抜けるように瞬時に少女の前へ。

生贄にされかけていた被害者たちを、両腕で庇って下がらせる。


「拙僧が守る。

今のうちに逃げられよ──!!」


回復魔法──バイシャジヤグル


淡い光が走り、少女の傷がふっと塞がる。

回復魔法の温もりに、少女は泣きながら頷いた。


「……ありがとう、お坊さん……!」


「振り返るな。前へ進め」


その背後から狂信者が襲い掛かる。


「戻れぇ!!贄ども!!」


リーは振り向かず、呟く。


「幸福とは……」


ドガッ!!


蹴り一撃で狂信者を吹き飛ばす。


さらに別の襲撃者が突進してくる。


「自ら悟り……至るもの……」


バキィッ!


リーの腕が狂信者の首に回り、

ネックツイストが決まる。

相手はぐったりと崩れ落ちた。


まだ別の狂信者が叫びながら斬りかかる。


リーは足を開き、天を仰ぐように構えた。


「戦をする為の言い訳ではない!!」


ドッッゴォォン!!


跳び上がり、落下しながら狂信者の胴を掴む。

そのまま礼拝堂の床へ──


轟音とともに“バックドロップ”が炸裂した。


「……がっ……!!」


床がひび割れる。

リーの背後では被害者たちが必死に出口へ走っていく。


リーは息一つ乱さず立ち上がる。


「……罪なき者を守るのが、僧の役目。

拙僧がこの身を修羅に落とそうと……救えるなら、構わぬ」


その凜とした姿は、

まるで“武の聖職者”。




祭壇の前で震える教祖。

その前に、緋色の髪を揺らしながらヴィヴィがずかずかと歩み寄る。


「……あ〜……もう無理。馬鹿過ぎるよ、お前……!」


「ひっ……ひぃっ……! 近寄るな!!

わ、私は神に選ばれた──」


「うるさいッ!!」


バシィッ!!


ヴィヴィの平手一撃が教祖の顔面を捉えた。

教祖の体が横に吹っ飛び、祭壇の柱に叩きつけられる。


それでもヴィヴィは止まらない。

片手で教祖のローブをつかむと──


「魔族に協力? 人間差し出す?

はぁ〜〜〜!? どんな思考回路してんのさ!?」


軽々と片手で持ち上げ、そのまま床へ投げつける。


ドガアアアン!!


床石が砕け、教祖が悲鳴を上げる。


「ぎゃあ!! ま、待──やめ──!」


ヴィヴィは眉一つ動かさず、

片手で教祖の足首を掴むと、まるでボロ雑巾のように振り回し始めた。


ブンッ! ブンッ! ブンッ!


「あーし、こういう外道だけはマジで救えねぇんだよ!!」


礼拝堂の壁に叩きつけるたび、

教祖の悲鳴が上がり、壁がひび割れていく。


ニーナが思わず引きつった声を漏らす。


「ヴィヴィさん……す、凄まじい……です……」


サンは苦笑しながら矢を構える。


「やり過ぎたら死ぬで?

……まあ、死んでもええ外道やけどな」


リーは静かに目を閉じて呟いた。


「南無……だがこれは因果応報」


最後にヴィヴィは、教祖を片手で天井へ放り上げるように持ち上げ──


「──あーしらの邪魔してんじゃねぇよ!!」


地面へ叩きつけた。


「がはっ……っ!!」


もう戦闘不能。

その姿は、惨めで、哀れで、

「魔族に魂を売った末路」そのものだった。


ヴィヴィは剣を構え直し、

今度は魔族幹部へ向き直る。


「次はアンタがこうなるよ、覚悟は出来てんだろ?」


魔族幹部はニヤリと歯を剥いた。


「ほぉ……人間にしては、随分と獰猛ではないか……!」


そう言い放った魔族幹部の背後から、

なおも狂信者の一人が飛び出してきた。


「魔王様こそ……!

魔王様こそ我ら人類を正しく導いてくださるお方なのだ!!愚かな人間のままでは救われぬのだァ!!」


サンは溜め息をつき、

手に持つ弓をゆっくり下げた。


「……あのなぁ」


「なんだ貴様!」


サンは腰の革帯から、

トマホークをゆっくり抜き取った。


「馬鹿は救えんねん……」


「な、何を──」


「教えだけやなくてな……

“自分の考え”持てや」


サンの腕が風を裂き、

振り下ろされたトマホークが狂信者の肩口へ深々と叩き込まれた。


「がっ……!!」


膝から崩れ落ちる男。


サンは刃を一度、礼拝堂の床にトンと当てて血を落とし、静かに呟いた。


「教祖の言葉を鵜呑みにして人生捧げるとか……

それ、なにも考えずに生きとるんと同じちゃうわ。

……悪いけど、目ぇ覚ますには遅すぎたな」


ニーナは息を呑む。


「……やっぱアンタも容赦ねぇな……」


リーは目を閉じて呟く。


「無明を断つには……刃もまた慈悲」


サンは肩をすくめ、矢筒に戻りながら笑った。


「ほな、次は本命相手に……続けよか?」


その笑みは明るいようで、

その奥に“狩人としての冷たさ”を潜ませていた——。


教祖と狂信者が倒れ、

礼拝堂に残ったのは──

ノーザ達と、ただ一体の魔族幹部。


魔族幹部はゆっくりとフードを外し、

不気味な笑みを浮かべた。


「……まったく。贄の儀式を邪魔し、

部下も供物も台無しにしてくれたな、人間ども」


その体が──

ぶく、ぶくぶく……と膨れ上がる。


「なっ!? ちょ、何これ!?」


「魔力の……暴発!? いえ……これは“変身”です!」


サンが即座に飛び退く。


「兄弟、下って様子見や!アレはヤバい!!」


皮膚が裂け、黒い肌が覗き、

筋肉が倍々に膨張していく。


小柄だったローブ姿の男は、

見る見るうちに 巨体の怪物へと姿を変えた。


腕は太い丸太のよう、

背丈は人間の2倍、

口からは獣のような牙が覗く。


「フハハハハ!!

これぞ我が“戦闘形態”!!

弱き人間ども、ひれ伏すがいい!!」


地響きのような咆哮。

床石が震え、瓦礫が落ちた。


ノーザは一歩前へ踏み出し、二刀の構え。


「……逃げないよ。

俺達が……ここで止めるから!」


魔族幹部が拳を握りしめ、

空気が振動するほどの魔力を放つ。


「征くぞ!! 弱き人間よッ!!」


ノーザの両目が鋭く細まり──

呼吸が静かに整う。


「……来い」


「ヌハハハハ!! まずは試してやろう……人間の“肉体”とやらを!!」


巨体に似合わぬ速さで、

幹部の拳が振り抜かれた。


ノーザは二刀を交差させて受けたが──

そのまま数メートル後ろまで吹き飛ばされる!


「ぐっ……! くっ……!」


礼拝堂の床を滑りながら体勢を立て直す。

だが、その目はまだ折れていない。


「ノーザ!! 大丈夫かい!?」


「……ああ、まだまだ余裕だよ」


幹部は口元を歪め笑う。


「人間の割には耐える……だが! 次は──」


言い終わる前に、ノーザが地を蹴った。


「そっちこそ……覚悟しろ!」


巨体の懐に潜り込むと、

ノーザは右足を大きく振り上げ──


蹴技スキル──大鎌蹴り


鋭い回し蹴りの軌道、

振り抜きの鋭さと重さはまさに“大鎌”。



巨体の側頭部にクリーンヒット。

幹部の身体が横方向へ“巨岩のように”吹っ飛び、

石壁に叩きつけられた!


「ぐおおおッ!? 人間が……この我を蹴り飛ばすだと……!?」


ノーザは構えを崩さず、

蹴り足を軽く振って位置を整える。


「おおっ! ノーザやるじゃん!!」


「ノーザ様っ……素敵です!!」


「ほぉ〜……あの巨体を吹っ飛ばすとか、兄弟ほんま化け物やな」


リーは静かに手を合わせていた。


「……肉体すら磨きし者……その一撃、まさに修羅道」


魔族幹部は壁から起き上がり、

怒りで全身が震えていた。


「貴様ァァァァ!!小癪な人間がァァァァァ!!」


ノーザは二刀を握り直し、

次の衝突へ備える。


巨体が激震し、

魔族幹部の全身が禍々しい紫のオーラに包まれた。


一歩踏み出すごとに床石が砕け、

壁に触れるだけで柱が弾け飛ぶ。


魔族幹部は怒号とともに拳を振り下ろした。

その一撃は床をえぐり、

石と木片の瓦礫が手榴弾のように四方へ飛散する!


「全員! 回避!!」


「──承知!!」


雷のような瞬発力でリーが走り出し、

ニーナとヴィヴィの腰を抱えて一気に跳躍!


瓦礫の直撃をかわし、

礼拝堂の柱の陰へ着地する。


「ひ、ひゃあ……っ!

あ、ありがとうございますリーさん!」


「助かった……マジで潰れるとこだった……!」


サンは逆方向へ転がりながら物陰に滑り込む。


「敵さん暴走しとるで!!

建物壊してどうする気や!!?」


魔族幹部は理性を完全に失い、

ただの暴走戦車と化していた。


「破壊だァ! 貪りだァ!!

全部……全部砕け散れェェ!!」


床を殴る。

壁を殴る。

天井を殴る──!


礼拝堂全体が不規則に揺れ、

砂埃が雨のように降ってくる。


ノーザは二刀を構え直し、

再び前へ出る。


「……このままだと、建物が崩れる!

ここは俺が止める!!」


「兄弟、暴走しとる分……隙もいっぱいや。

……今がチャンスやで」


幹部はまだ吠え続ける。


「破壊ァァァァァ!!!」


礼拝堂は限界間近。


しかしサンの言う通り、“隙”はあった

魔族幹部は破壊に夢中で、

床を砕き、壁を壊し、

天井を殴り続けていたが──


やがてその巨体がガクッと沈む。


「……はぁ……はぁ……まだ……だ……!」


肩が大きく上下し、

呼吸が荒い。

全身の筋肉が痙攣し始めていた。


サンはニヤリと口角を上げる。


「アホやなぁ……

デカい奴ほど、息上がんの早いんやで?

考え無しに暴れすぎや」


「黙れ……人間風情が……!まだ……終わらん……!」


ぐらつきながら拳を構える魔族幹部。

しかしその動きはさっきまでの迫力とは比べ物にならない。


その瞬間──ヴィヴィが一気に距離を詰める!


剣に赤い炎が灯る。

火属性スキル──火炎斬り


燃える斬撃、魔族幹部の右腕が床に落ちる


「ぐあああぁぁぁぁッ!!?

熱ッ……が……!!」


ヴィヴィはその勢いのまま剣先をぐいと突きつける。


「オラァ!!次は左腕切り落とすぞコラ!!

覚悟しなバケモン!!」


魔族幹部は後ずさりし、

巨体でありながら恐怖を露わにする。


「や……やめ……近寄るなァ!!」


ヴィヴィの火炎斬りで大きく怯んだ魔族幹部。

その隙を見逃さず、ニーナが前へと進み出る。


ニーナ

「──次は私が!」


両手を胸の前で組み、

そのまま空気を凍りつかせるように広げた。



氷魔法──アイス・シャックル《氷の拘束具》


青白い魔法陣が展開し

瞬時に地面から氷柱が伸びる。


「ぐっ……!? ぬ……抜けぬ……!」


氷は敵の四肢を凍りつかせ、

巨漢を床に完全に固定した。



「ノーザ様!今です!!」


ノーザは深く息を吸い、

ニルヴァーナと木刀──二刀を構える。


「終わりだ──!」


跳躍。


そして真上から

雷鳴のような気合いと共に

二刀を振り下ろす。



斬撃が巨大な魔族幹部の身体を叩き割り、

氷に阻まれた動きは完全に止まった。


そして、ノーザの剣に気づいたように目を見開く。


「き……貴様……

その剣……《ニルヴァ……》──」


言い終える前に、

黒い霧のようにその身体は崩れ落ちた。


魔族幹部、討伐完了。


ノーザは剣を収め、

仲間たちを振り返って微笑む。


ノーザはレベルが上がった!

ニーナはレベルが上がった!

ヴィヴィはレベルが上がった!

リーはレベルが上がった!

サンはレベルが上がった!


「──よし。

これで、村も、人質も、助かったな」


宿屋の食堂。

湯気の立つ大鍋から、スパイスの香りが部屋中に広がる。


サンが鍋を持ってやってくる


「ほら皆、座りや!今日は豪勢やで!

ギルドからの追加報酬でええ肉買えたんや!」


ノーザもご蔓延


「サン、ありがとな」


◆本日のメニュー


『贅沢!狩人の肉大量カレー』

トロッと煮込まれた肉が存在感を主張している。


妹が震える声で

「……お、おいしい……

こんなに……あったかいご飯……ひさしぶり……」


「でも……私たち……これから……どうすれば……。村の人にも……顔向けできません……」



「まずは食って落ち着きや。

未来のことは腹膨れてから考えるんや。な?」


ノーザは姉妹に語りかける

「貴女は“脅されて仕方なく協力してしまった側”、

裁判でも説明すれば必ず無罪になる。

……だから自分を責めすぎないでください」



「……そ、そんな……

私なんかのために……そこまで……」


「魔族が蔓延ってる時代…皆苦しいんだ、道を間違えるのは…仕方ない」


その言葉にニーナは静かに尊敬の念と凛として静かな笑顔を浮かべた。

(うへぇ〜♡優しい……本当に優しいノーザ様……♡

しゅき♡こんなん惚れちゃう

……いやもう惚れてる……♡)

「ノーザ様のお言葉、胸に染みました……」


夕食が終わり、宿屋の食堂には食器のカチャカチャという音だけが響く。


「ニーナ、皿片付け手伝うよ。ほら、持つから」


「え、あ……ありがとうございます、ノーザ様」

(お皿どころか私の心も全部持っていかれてますぅ〜♡)


ノーザは洗い場まで皿を運ぶ途中、

ニーナの指がほんの少し触れた。


「……あ、大丈夫?」


「だ、大丈夫です……♡」

(ひゃあああ♡指が触れただけで心臓が死ぬうう♡)


「ニーナが居てくれて助かるよ。

魔法だけじゃなくて…色々、支えてもらってるし」


「……っ、はい……!

ノーザ様のお役に立てるなら、私は……!」


二人の間に、ほのかな温かい空気が流れる。


少し離れたテーブルでは

ヴィヴィがスプーンを噛みしめている。


皿洗いを終えたノーザとニーナが並んで戻っていた


「ノーザ様、明日も頑張りましょうね」


「ああ、もちろん!」

ノーザの魔法ですが、

プロメテウス→メラゾーマ

ゼウス→ライデイン

みたいな感じです。


女戦士ヴィヴィのキャラデザ公開します。

赤髪キャラが好きな人は是非

福島ナガト https://www.pixiv.net/users/118222108


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