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世界が少し広がる日

今回で作中の世界では1年が経過してます。

ここからは初期案に無かった完全新規です。

仲間とか前からいましたみたいな顔してますが、今作の投稿に向けた新規キャラです。初期案には存在しませんw

ノーザ、ニーナ、そして愛馬ラヴズが旅を始めて──一年が経った。


その間、幾多の出会いと戦い、そして数え切れないほどの癒しを経て、ノーザたちは今やCランク冒険者となっていた。


王都を発ってからの日々は、決して平坦ではなかった。

時に盗賊を討ち、時に魔物から村を救い、時に道に迷った旅人を導いた。


かつて村を出た頃のノーザは、

布でできた素朴な村人服に、履き慣れたサンダル。

武器と言えば、木刀一本だけだった。


だが──この1年は、確実に彼を鍛え上げた。


今のノーザはもう、“駆け出しの少年”ではない。

身体にぴったりと馴染んだ 鎖帷子、

その上からは軽量の 鉄製の胴当てと肩当てがしっかり守りを固める。


両腕には盾の代わりにノーザを守り続けたのだろう、傷だらけの ガントレットがはめられ、

背には 旅装束らしいグレーのマント。

足元は、乗馬に適した補強入りのズボンと、

“ラヴズの背に合う”と気に入って買った丈夫な 黒革のブーツを履いていた。


そして腰には──

かつて難破船から見つけた…古びているのに不思議と刃が鈍らない一本の剣。

ノーザが大切に使い続ける相棒、ニルヴァーナ。


その反対側にはずっと変わらないもう一本。

スミが贈ってくれた 木刀がしっかりと並んでいた。


──この1年で、彼は冒険者になった。

装備が、それを何よりも雄弁に語っていた。


その道中で、頼れる仲間たちも加わっていった。


気がつけば、ノーザの腰には剣、傍らには魔導士、そして勇敢な戦士、賢き僧侶、陽気な弓使い。

五人の若き冒険者たちは、ひとつの目標のもとに歩んでいた。


──魔王討伐


それはまだ夢のような話。

けれど、ノーザは確かに感じていた。

自分たちが、少しずつその夢へと近づいているということを。


夜の街に、ランプの光がゆらめいていた。

とある国の宿屋──。

この日も、ノーザたちは狩りと素材集めのクエストを終えて、ようやく腰を落ち着けていた。


「皆、お疲れ様。」

ノーザが湯気の立つスープを手に、仲間たちへ笑みを向ける。


「ノーザの為だよ! 礼は要らないよ!」

そう言って豪快に笑うのは、女戦士、ヴィヴィアン・スカーレット。

旅の途中、魔物の襲撃から救った村の民兵だった。

その時、ノーザの強さと真っ直ぐな心に惹かれ、自ら志願して仲間に加わった。


するとすかさず、隣の席から声が飛ぶ。


「そうやってノーザ様に媚びないで下さいヴィヴィさん。ノーザ様は、礼は素直に受ける人が好きなんですよ。」

にこやかに言いながら、目だけは全く笑っていないニーナ。


「うるさいわ牛女!」

「だ、誰が牛ですかっ!!」


宿の一角が一瞬で騒がしくなる。

──この二人、いつものことだ。

ノーザは苦笑いを浮かべ、

「もう、どっちも落ち着けって……」


「ノーザ殿も……色恋沙汰は控えられよ。」

静かに湯呑を置いたのは、僧兵、リー・シガー。

旅の途中で出会った修行僧であり、実直な性格と高い回復能力を買われてノーザがスカウトした。


「お、俺のせい、なのかな……?」

ノーザが困ったように頭をかく。


「まったく……リーさんは何でも説教に結びつけますね」

ニーナが呆れたようにため息をつくと、


「お堅いのが取り柄なんでしょー?肩の力抜きなよ!」

ヴィヴィが笑う。



「まあまあ喧嘩せんで、飯できたで〜!」

豪快に笑いながら厨房から鍋を運んできたのは、ハンター、サン・グリーン。

「ニーナちゃんもヴィヴィちゃんも、リーちゃんも座りや! 腹が減ったら戦もできへんで!」


独特な口調に、宿の空気がふっと和らぐ。


彼もまた、旅の中でノーザたちと意気投合し、今やパーティの一員となった仲間だ。

狩りや料理を得意とし、時に兄弟分としてノーザを支える。

明るくて、少しお調子者──だが、誰よりも仲間思い。

この1年の旅路で、サンはすっかりノーザの親友となっていた。


「サン、ありがとうな。クエストの後に、食事まで用意してくれて。」


ノーザが感謝を込めて言うと、サンは大げさに手を振った。


「気ぃ使うなや兄弟! ワイだけ仕込みで早う仕事上がってきとるんやから!」

そう言って笑いながら、サンは大皿をドンとテーブルに置いた。

香ばしい肉とハーブの匂いが、宿の空気を一気に満たす。


「ほら早う食えや! 腹が減ったら魔王も倒せんで!」

「はは、分かったよ。……いつも助かる、サン。」


サンが肩を組もうとするのを、ノーザが苦笑しながらかわす。


そして夜も更け、宿の廊下に静けさが降り始めた頃。ノーザが部屋に戻ろうとしたその時だった。


「ノーザ……今日は、あーしと一緒の部屋にしないか……? たまにはいいだろ?」

頬を赤らめながら、ヴィヴィが上目遣いで言う。


「だ、ダメです!」

間髪入れず、ニーナがピシャリと声を上げた。

「貴女はそうやってノーザ様に近づこうとして…、恥ずかしくないのですか!?」


「はぁ!? あんたこそノーザに依存しすぎなんだよ、毎日“ノーザ様ノーザ様”って!」


「私はノーザ様の従者だから良いんです!」

「うるさい牛女!!」

「あ!また牛って言った!!」


ノーザは頭を抱えた。

「……女子は女子部屋にして……頼むから。」


その言葉に、二人の動きがピタリと止まる。

しかし、ニーナは相変わらず内心では――

(ノーザ様に他の女が近くなんて……魔王より許せません!!)


──この夜もまた、宿の明かりが消えるまで小さな戦いが続いた。



朝日が石畳を金色に照らしていた。

街は活気づき、行商の声と馬車の車輪が軽やかに響く。


宿の扉が開き、ノーザたち五人が外へ出た。

ドラグーンラヴズが小さく嘶き、朝の風を感じ取る。


ノーザは軽く背伸びをして、仲間たちを見回した。

「さて……今日も仕事、頑張ろう。」


「おうよ! クエストって聞くだけで血が騒ぐね!」

ヴィヴィが拳を軽く鳴らし、にやりと笑う。


サンが笑いながら軽口を叩き、背の荷物を整える。

「ほな、さっさと行こか兄弟。今日も稼ぐでぇ!」


ノーザは笑みを浮かべ、仲間たちと共に歩き出した。

彼らが向かうのは、いつもの──冒険者ギルへ


その扉の向こうに、

新たな任務と、知られざる戦いが待っていることを、この時、誰もまだ知らなかった。


ギルドの扉を開けた瞬間、

ノーザたちはいつもと違う張り詰めた空気を感じ取った。


ざわめく冒険者たち。

受付前にはボロボロの旅装束の女性が座り込み、肩で息をしている。

服は土にまみれ、片方の靴は失われていた。


「お、お金は……お金は後から必ず払います……!

 どうか……!どうか誰か助けてください!」


声は震え、涙が頬を伝う。

周囲の冒険者たちは、顔を見合わせるだけで誰も動かない。

「群れが出たらしいぞ……」「北方の交易ルートって……あそこ村があったよな……」

小声の噂が飛び交っていた。


ノーザは女性の前に膝をついた。

「落ち着いてください。詳しく聞かせてもらえますか?」


女性はかすれた声で答えた。

「北方の……交易ルート沿いの村が……魔物の群れに……襲われて……!

 旦那も、子供もまだ村に……!」


ニーナが眉を寄せ、震える手で水筒を差し出す。

「これを……少しでも落ち着かれますように。」


ヴィヴィが拳を握った。

「魔物の群れ、か……最近やたら増えてるって話、ホントだったんだね。」


リーは腕を組んで目を閉じる。

「群れ……となると、指揮を執る個体がいる可能性がありますな。厄介です」


「ほな兄弟、どうする?」

サンがノーザの肩を軽く叩いた。

「行くやろ?」


ノーザは迷わなかった。

「もちろんだ。……依頼金なんて関係ない。人を見捨てる理由なんて、ないだろ。」


女性の目に、涙が光った。

「ありがとうございます……! ありがとうございます……!」


ギルド中が静まり返る。

誰も口を挟めないほど、ノーザの声は真っ直ぐだった。


その瞬間──

“Cランク冒険者ノーザ一行”の本格的な戦いが始まった。


受付嬢は、ノーザたちの話を聞きながらも、眉を曇らせていた。

「北方の村ですか……確かに、最近あの辺りの報告が多いんです。でも、群れの規模まではまだわかっていません。下手をすれば……」


彼女の声に、不安が滲んでいた。


「大丈夫です。」

ノーザは静かに言った。

「俺たちは五人なら、どんな群れでも必ず止めてみせます。」


その真っ直ぐな眼差しに、受付嬢は小さく息を呑む。

数ヶ月前まで見習いだった少年が、今は誰かを救う覚悟を持つ冒険者になっていた。


「……分かりました。」

彼女は机の奥から書類を取り出し、依頼書に印を押す。

「この依頼、正式にCランク緊急任務として登録します。ノーザさん、皆さん──どうかお気をつけて」


ニーナが一歩前に出て、優しく頭を下げた。

「ご安心ください、必ず全員で帰還します」


「はっはっは! 帰ってきたら、打ち上げやな!」

サンが笑いながら親指を立て、ヴィヴィが「上等!」と拳を掲げる。

リーも神妙な面持ちで祈りの印を切った。


受付嬢は小さく微笑み、彼らの背を見送る。

「……どうか無事で。あなたたちなら、きっとできるはずです」


ギルドの扉が開き、

朝の光が五人の冒険者を包み込んだ。


こうして──

ノーザ一行、初の“緊急討伐任務”へと旅立つのだった。


──北方の交易村、ベルナ。


そこはかつて旅人や商人で賑わった小さな村だった。

だが今は、家々の屋根から黒煙が上がり、逃げ惑う人々の悲鳴が響いていた。


「逃げろ! もう持たねぇ!!」

「子供を連れて、早く森へ!」


剣を握る自警団員たちは必死に防戦していたが、

その目の前に立ちはだかるのは──

人でも獣でもない、“魔”の眷属たち。


赤黒い肌、鋭い牙、異様なほど冷たい瞳。

人間の叫びにも、祈りにも、一片の情けも感じさせない。

まるで、ただ破壊と殺戮だけを楽しんでいるようだった。


「ぎっ……うわあああッ!!」

若い団員が悲鳴を上げ、地に倒れる。

魔族の剣が振り下ろされ、血煙が舞った。


炎に包まれた村の中、幼い少女が泣きながら叫ぶ。

「お母さん!! お母さぁん!!」

返事はない。かわりに、焦げた木材の軋む音だけが響いた。


──この時代の魔族は、知性を持ちながらも容赦のない冷酷な侵略者。

彼らにとって、人間の命は取るに足らぬ玩具にすぎなかった。


燃え盛る炎の向こう、

獣の咆哮が夜空を震わせる。


その咆哮は、まるで宣告のようだった。

「この地は、我ら魔族のものだ」と…


「うわあああっ!!」「逃げろぉ!!」

燃え盛る家々の間を、村人たちが必死に駆け抜ける。

泣きじゃくる子供を抱えた母親の足元を、魔族の黒い影がすり抜けた。


「もうダメだ……助けが……誰か……」


その時、轟音が空気を裂いた。

炎の中に、紅蓮の光が落ちる。


大火力魔法──プロメテウス


巨大な火球が炸裂し、魔族の群れをまとめて吹き飛ばした。

爆風に砂埃が舞い、焦げた臭いが風に乗る。


炎の向こうから、五つの影がゆっくりと姿を現す。

焦げた大地を踏みしめ、堂々と前に進む青年の姿に、村人たちが息を呑んだ。


「お、おお……ありがたい……!」

「ギルドの……救助隊だ……!!」


ノーザが剣を構え、静かに言う。

「この村は、もう誰も傷つけさせない──!」


ラヴズが嘶き、風が吹き抜ける。

ヴィヴィが前へ出て叫ぶ。

「魔物共! あーし等が相手だ!」

リーが印を結び、

「無益な殺生……貴様らに慈悲は無いぞ……!」

サンが弓を構え、豪快に笑った。

「今のは兄弟の宣戦布告や! 分かったか、ダボが!!」


「ニーナ、援護頼む!」

「はい、ノーザ様!」


ノーザの号令と共に、勇者一行が一斉に駆け出した。──燃え盛る村に、新たな戦いの火蓋が切って落とされた。



燃え上がる炎を背に、ノーザは静かに剣を構えた。

その右手には古くも研ぎ澄まされた鋼の剣──ニルヴァーナ。

左手には、今も変わらず握り続けている木刀。


「行くぞ……!」


低く呟いた瞬間、ノーザの姿が炎の中で掻き消えた。

次の瞬間、魔族の一体の胸から光の線が走る。


「なっ……!?」 「早ぇ……!!」


魔族が驚愕の声を上げるより早く、ノーザは振り抜いていた。

剣と木刀、異なる軌跡が交差し、二閃の残光が夜を裂く。

それはこの一年で編み出した、ノーザの新たな戦技──二刀の型。


ノーザが構え直すと、前方にオークの巨体が迫る。

その目に宿るのは理性ではなく、ただの暴力の衝動。


「来いよ……!」


オークが吠え、巨大な棍棒を振り下ろす。

その瞬間、ノーザの足が地を蹴った。


前蹴りスキル──戦槍脚!!

稲妻のような前蹴りが放たれ、オークの胸にめり込む。

鈍い衝撃音と共に、巨体が吹き飛び、地面を転がる。

その蹴り跡は、まるで槍で貫かれたように深くえぐれていた。


「ふぅ……この一年、無駄じゃなかったな。」

ノーザは小さく息を吐き、仲間たちの背中を見やる。


ノーザン・クレイン

この時すでに、戦場での彼は“ひとりの青年”ではなく、“仲間を導く者”だった。


「見ててくれよ、ノーザ!!」

ヴィヴィが吠えるように叫び、炎の中を駆けた。


赤い髪が揺れ、鋭い一閃が闇を裂く。

彼女の剣が描く軌跡はまるで流星のよう──。

「せぇぇぇっ!!」

魔物の胴体が一瞬で断ち割られ、地面に叩きつけられる。


ノーザが息を呑むほどの、荒々しくも正確な剣筋だった。

それは訓練や理論とは無縁、戦場で磨かれた“生きるための剣”。


「まだまだぁ!!」

ヴィヴィが踏み込む。

左拳が熱を帯び、空気が震え始める。



闘拳スキル──ブレイズナックル!!

轟音と共に、拳が炎を纏って炸裂した。

直撃を受けた魔物をガードごと薙ぎ倒し粉砕される。

炎と衝撃が同時に爆ぜ、敵ごと地面を薙ぎ払った。


「ハァ……ハァ……! どうだい!?」

炎に照らされたヴィヴィの笑顔は、汗と熱で輝いていた。

その背に、ノーザが小さく頷く。

「十分すぎるほど、頼もしいよ。」


ヴィヴィの頬がわずかに赤くなり、

「へ、変なこと言うなよ!」と照れ隠しに剣を振るった。


「お見事です。ノーザ様、ヴィヴィさん。」

ニーナは涼しい声でそう言いながら、指先を軽く払った。


だが──その内心は、燃えるように熱かった。

(いちいちノーザ様に媚びるな……卑しい女め!!)


笑みを浮かべつつ、魔力を集中させる。

空気が一瞬で冷え込み、白い霜が地を這った。


氷降刃魔法──フロストレイン!!


天から無数の氷の刃が降り注ぐ


逃げ惑う魔族たちが次々と凍りつき、動きを止める。

ノーザがその隙を見逃さずに前へ出た。

「ナイス援護だ、ニーナ!」


「ふふ……当然です。ノーザ様の背を守るのは、私の役目ですから。」

そう言って微笑む彼女の頬は紅潮し、瞳は誇らしげに輝いていた。


(でゅふ……ノーザ様……♡)


「なにニヤニヤしてんだい!?」

ヴィヴィが小声で舌打ちする。


──戦場の熱と冷気の狭間で、二人の“もう一つの火花”が確かに散っていた。


ニーナが魔力を練り上げている最中、

横合いから飛び出した魔族が牙を剥いた。


「ニーナ殿、拙僧が守ろう……魔法に集中されよ!」


リーの声が響くと同時に、

彼の身体がまるで風のように滑り込む。


──“僧侶”というには、あまりに無駄のない動きだった。

ローブの裾が翻り、鍛え上げられた脚が閃く。


「ハァッ!」


鋭い蹴りが魔族の顎を打ち上げ、

そのまま掌底が胸元を貫くように突き刺さる。

肉の裂ける音と共に、魔族が吹き飛んだ。


リーは静かに息を吐き、指先で血を払う。

「……南無」


祈りの言葉を残しながらも、目は決して揺らがない。

その戦いぶりはまさに修行僧というより──武僧、モンクそのものだった。


ニーナが呆然と振り返る。

「す、凄い……本当に、僧侶なんですか……?」


リーは淡々と答えた。

「戦場において、命を救うには“祈り”だけでは足りぬ」


その言葉にノーザが頷く。

「頼もしいよ、リー、助かった。」


「……拙僧はただ、正義を貫くのみ」

リーはわずかに笑みを浮かべ、再び構えを取った。


魔物の毒霧と石つぶてが入り乱れる戦場。

サンはその中を、まるで風のように歩いていた。

その中に逃げ遅れた親子を見つける


「ったく……ヘッタクソやな」

その声は、どこか呆れと冷笑が混じっていた。


矢筒から矢を三本、抜く。

弦が鳴る音すら聞こえない──それは音よりも速い。



わずか数瞬。

三体の魔物が同時に崩れ落ちた。

一つは喉を、一つは心臓を、もう一つは額を。


すべて急所、すべて一撃。

その精密さは、もはや狩りではなく“執行”。

即死だった


倒れた魔物の血を見つめながら、サンは低く呟いた。

「一撃でトドメ刺さんちゅうのはな……この世で最も無慈悲なことなんやで。」


背後で、泣きながら母親を揺さぶっていた少年の嗚咽が止む。

サンはしゃがみ込み、静かにその肩を叩いた。


「母ちゃん、気ぃ失っとるだけや……もう大丈夫や」


少年の顔にわずかな光が戻る。

サンは矢を番え直し、また立ち上がった。


その目は、血も涙も無いようでいて──

ほんの一瞬、迷いと哀しみが過ぎった。


その背に、沈黙と風がついていった。



ノーザと仲間達の奮闘で魔族を殲滅しつつあった。

辺りは静まり返っていた。

燃え落ちる家々、立ちこめる黒煙。

だが──それは終わりではなかった。


地鳴りのような低音が響き、

崩れた広場の奥、黒い魔法陣が地に刻まれる。


「な、なんだ……!?」

ヴィヴィが剣を構えると、紫の光と共に何かが浮かび上がった。


それは、瘦せた異形の神官だった。

顔は仮面に覆われ、腕には鎖が巻きついている。

しかし声は傲慢そのものだった。


「愚かな人間共が……貴様ら奴隷風情が、魔王軍に楯突くとは滑稽よ!」


吐き出される言葉は冷たく、だがどこか安っぽい。

背後にはまだ魔族兵の残骸が転がっている。


ノーザが一歩前へ出る。

「奴隷……だと? この世界の誰も、誰の奴隷でもない!」


神官は鼻で笑った。

「小僧、知らぬのか? この大地は魔の血が支配する。人間は余の玩具に過ぎん。」


その言葉にヴィヴィが剣を振り上げる。

「うっざい口してんな! まとめて黙らせてやるよ!」


ニーナは一歩引き、警戒する

「この魔力……全員、気を付けてください!」


神官モンスターは両腕を掲げ、呪文を唱え始める。

「来たれ、我がしもべたちよ──死の霧に沈め!」


黒い瘴気が村の広場を覆い始めた。

その瞬間、ノーザの瞳が鋭く光る。


「……来るぞ!」


神官モンスターが叫ぶ。

「この瘴気に触れたものは──!」


「喝ッ!!」

リーの一喝が、まるで雷鳴のように大地を震わせた。

一瞬にして、黒い瘴気が霧散する。

ノーザが目を見張る。

「……凄い、リー!」


「邪を祓うのは僧の務め…」


さらにいつの間にか神官の背に回り込んでいたサンが、狙いを定めて神官の後頭部を蹴り飛ばす


神官の仮面が砕け、地面に叩きつけられる。


「弱いくせに吠えとるんやないで、ボケが。」


神官が唸り声を上げる。

「き、貴様ら……!」


だがその声をかき消すように、

ニーナが詠唱を終える。


「──ノーザ様!ヴィヴィさん! この力で仕留めてください!」


魔法陣が二人の足元に広がり、眩い光が迸る。

攻撃力超強化魔法―――ヘラクレスソウル


熱と光が二人の身体を包み、空気が震える。

ノーザの剣が赤く輝き、ヴィヴィの拳が炎を噴いた。


「……行くぞ、ヴィヴィ」

「任せな!」


神官モンスターがふらつきながら立ち上がる。

「貴様ら……人間ごときが……!」


ノーザが剣を構える。


ヴィヴィが横に並び剣を掲げた

「んじゃあ、トドメ行くよ、ノーザ!」


二人が同時に地を蹴る。

風が唸り、足元の砂が爆ぜた。


ノーザの二刀流が光を切り裂く。

ヴィヴィの一刀流が炎をまとい、軌跡を描く。

──二つの剣筋が交錯し、嵐のような連撃が繰り出された。


「「はあああああああッ!!!」」


斬撃の雨が降り注ぎ、剣と剣が重なり、連続の閃光が空気を裂く。

まるで竜巻の中で雷が舞うような、凄まじい乱舞だった。


「ぐあああっ!! や、やめ──!」


ノーザが距離を取ると同時に、叫んだ。

「ヴィヴィ、合わせるぞ!」

「任せな!」


二人が同時に踏み込む。

ノーザの右足が地を叩き割るほどの勢いで前へ──

──戦槍脚ッ!!


ヴィヴィの拳が炎を纏って唸りを上げる。

──ブレイズナックル!!


光と炎が交わり、轟音が村を揺るがした。


爆心地に立つ神官は、声にならない悲鳴を上げ、

やがて黒い煙と共に、霧散した。


静寂。

焦げた大地に風が吹き抜け、灰が舞う。


ノーザはレベルが上がった!

ニーナはレベルが上がった!

ヴィヴィはレベルが上がった!

リーはレベルが上がった!

サンはレベルが上がった!


ヴィヴィが肩で息をしながら、ノーザを見る。

「へへっ……決まったじゃん。」

ノーザが微笑んで剣を納めた。

「……ああ、これで村は守れた。」


ニーナが駆け寄り、祈りを捧げる。

「ノーザ様……お見事です!」


サンが矢を拾いながら笑う。

「兄弟、やるやん。……ま、ワイの援護があってのもんやけどな?」


リーが静かに言う。

「勝利に感謝を……しかし、気を抜くのはまだ早い。」


ノーザが頷く。

「……ああ。これで終わりじゃない。

 飽くまで雑兵部隊…魔王軍はこんなものじゃ済まないはずだ。」


──ノーザの旅は、まだ始まったばかりだ。


戦いが終わった村に、ようやく朝日が差し込んだ。

焦げた大地にも、少しずつ風が戻ってくる。


避難していた村人たちが、恐る恐る顔を出した。

誰もが息を呑んで、ノーザたちを見つめる。


そして──

「やったぞ! 魔族がいなくなった!」

少年の叫びを皮切りに、歓声が爆発した。


「救助部隊の皆様が俺たちを救ってくれたんだ!」

「ありがとう! 本当に、ありがとう!!」


老婦人がノーザの手を取った。

「若いのに……あんたたちは立派な英雄だよ……」


その言葉に、ノーザは少し戸惑ったように笑った。

「い、いや……俺たちはただ、出来ることをしただけで……」


ヴィヴィが背中を叩く。

「いいんだよノーザ、こういう時は素直に褒められときな!」


ニーナは目を細めて微笑んだ。

「ノーザ様……やっと、誰かに勇者と呼ばれましたね。」


ノーザは少しだけ空を見上げた。

燃えた屋根の向こうに広がる青空が、妙に眩しかった。


(……誰かの役に立てるって、こんなに嬉しいことなんだな。)


サンが腕を組みながら笑う。

「兄弟、これでワイらの名前、ちょっとは広まるで」


リーは静かに祈りの言葉を捧げた。

「救われた命に感謝を……それが、我らの報酬です」


──その日、ノーザは初めて“英雄”と呼ばれた。

誰かに必要とされ、讃えられる喜びを知った。


それは、後に彼が“伝説の勇者”と呼ばれる原点となる出来事だった。


その夜、村の広場には湯気が立ちこめていた。

サンが鍋をかき混ぜながら、大声で叫ぶ。


「ほら皆! 飯やでぇ!! 今日は豪勢に行くで!」


本日のメニュー──香りキノコと香草のピリ辛鍋。

野山で採ったキノコとハーブ、そしてサン特製のスパイス。

匂いだけで腹が鳴る。


「美味ぇ! 頑張った後の飯はやっぱいいね!」

ヴィヴィが頬を染めて箸を進める。


「ほらリーちゃん! たまには酒もどうや?」

サンが酒瓶を差し出す。


「すまぬ……酒は好きだが、修行中の身ゆえ……」

リーは苦笑いしながらそっと水を持ち上げた。


ノーザは鍋を見つめながら、静かに言った。

「サンの料理は最高だな。」


「ええ、本当に……ノーザ様と、皆さんと食べるご飯……格別です。」

ニーナの笑顔が、炎の明かりに照らされる。


サンがニヤリと笑い、木の杓文字を掲げた。

「ほな! 今日の勝利に、乾杯や!」


「乾杯!」

「か、乾杯っ♡」

「……南無」

「……あはは、なんだそれ。」


夜空に笑い声が響いた。

星々の下で、湯気と笑顔が溶け合う。

それは“英雄”と呼ばれた日の夜──

彼ら五人が、命のやり取りを成し得た、本当の意味で“仲間”になった夜だった

旅が本格化して行きます。

1年経過して成長したノーザとニーナの姿↓是非1年前と比較して見て下さい

伝説の勇者ZERO 

福島ナガト https://www.pixiv.net/users/118222108

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