まだ名前のない冒険
今回で序章は終了します。大分前に書いた初期案がベースになってるのが今回までになります。次回からは新規で書いた脚本です。
ダンジョンの中、光の差さぬ薄暗い空間を進むノーザとニーナ。
二人は冒険者組合からの依頼を受け、この国で最も初歩的な依頼——「スライムの核石回収」に挑んでいた。
---
「前方に……いた。スライム三体。いくぞ、ニーナ」
「はいっ、後方支援に入ります!」
ノーザが抜刀し、正面から斬りかかる。その後ろでニーナが呪文を詠唱。
氷刃魔法―――フロスト・エッジ
鋭く尖った氷の刃がスライムの表面を凍らせ、ノーザの一撃が核石を弾き出す。
「よしっ、息ぴったりだな、ニーナ!」
「当然です。私はノーザ様の従者ですから」
(ノーザ様、素敵です……ああ、戦ってる姿も……好き♡)
依頼されたスライムの核石も十分に回収し、ダンジョンからの帰り道。
「よし、今日はこれくらいで十分だな。これで宿代も浮くしな」
「ノーザ様の戦いぶり、惚れ惚れいたしました…! これが“未来の勇者”の片鱗なのですね……!」
「いやいや、まだまだ駆け出しさ。Eランクだぞ、俺たち」
(Eランクだろうが……私の中ではSランクです♡)
クエスト報告を終えたノーザとニーナは、
受付カウンターの前に並んで立っていた。
受付嬢が笑顔で封筒を差し出す。
「お疲れ様でした!
スライム核石の回収、確認しました。報酬は3万ダストになります!」
ノーザはうなずき、財布に手を伸ばした。
「ありがとうございます。じゃあ……俺とニーナで1万ずつ。残りの1万は旅の資金としてギルド預かりで貯金でお願いします」
受付嬢は少し驚いたように目を丸くしたが、
すぐに柔らかく微笑んだ。
「了解しました。律儀ですね、クレインさん」
ノーザは照れくさそうに頭をかく。
「旅は長いですから、貯めておかないとすぐ無くなっちゃいますからね」
封筒から銀貨を取り出し、
ノーザはニーナに手渡した。
「はい、ニーナ。1万ダスト。お疲れ様」
「!?」
ニーナは目を瞬かせたまま固まった。
「の、ノーザ様!? そ、それはパーティのお金なのですから、全てノーザ様が管理されるべきでは……!」
「何言ってんだよ」
ノーザは穏やかに笑って首を振る。
「ニーナも頑張ったんだから、これはニーナへの正当な報酬だよ。俺一人じゃ、ここまでスムーズに行かなかった。ちゃんと“二人の成果”なんだからさ」
ニーナの手の中で、銀貨がかすかに光る。
それはただの報酬以上の重みを持っていた。
「……ノーザ様……」
胸の奥がじんわり熱くなる。
言葉にできない嬉しさが、
静かに溶けていくようだった。
(だから好きなんです……あなたの、そういうところが……)
「どうした? 顔赤いけど大丈夫か?」
「な、なんでもありませんっ!!」
受付嬢が思わずくすりと笑い、
ラヴズの嘶きが外から響いた。
温かく、少し照れくさい、
それでも確かに“仲間”としての一歩が刻まれていた。
宿屋・夜
窓の外では風鈴の音が小さく鳴っていた。
旅の疲れもあり、ニーナは早めにベッドへ潜り込む。
(……今日も、ノーザ様のおかげで無事に終わりました……)
そう思いながら目を閉じると、
やがてまぶたの向こうにやさしい笑顔が浮かんでくる。
――夢の中、ノーザが手を差し伸べていた。
夕陽の中、ラヴズを背に、どこまでも真っ直ぐな瞳で。
「大丈夫、ニーナ。俺が守るから」
(ノーザ様……♡)
胸がじんわりと温かくなる。
夢の中で見つめ合うだけで、世界が溶けてしまいそうだった。
---
翌朝
鳥の声で目を覚ますニーナ。
寝ぼけまなこで天井を見上げながら、
頬にそっと手を当てて小さく呟いた。
「あ……♡ ノーザ様……♡」
一拍遅れて、現実に戻る。
「……っ!? ち、違います違います!夢です夢!」
顔を真っ赤にして枕に突っ伏す。
(だ、だめですニーナ!朝から浮かれてどうするんですか!でも……あの笑顔……本物みたいだった……♡)
窓の外では、ノーザの声が聞こえた。
「ニーナー、朝食もうすぐできるぞー!」
「は、はいっ!!すぐ行きますっ!!」
立ち上がるニーナの頬は、まだほんのりと赤かった。
昼下がりの街道。
木々の合間から陽が差し込み、二人とラヴズの影が長く伸びていた。
「特例で遠征免許は貰ったけど……今の俺たち、まだEランク冒険者なんだよな」
「ええ。正式な階級では下から二番目ですね。
Eランクは新人枠。受けられる依頼も限られていて、危険度の高いクエストは申請しても通りません」
「そっか……やっぱり地道に積み上げていくしかないな」
「はい。依頼の成功率と信用度、どちらも評価対象です。特にギルドは“無事に帰る冒険者”を重んじますから」
「うん……派手に戦うだけが勇者じゃないってことか」
ラヴズのたてがみを撫でながら、ノーザは小さく笑う。
「でも、焦らなくていいさ。楽な道を選んだら、きっと後で後悔する。一歩ずつ、自分の力で上に行こう」
「……はい!流石はノーザ様です!」
(あ〜♡ やっぱり素敵すぎます♡ この真っ直ぐなところ……っ)
風が吹き抜け、二人の笑い声が道の向こうに流れていく。
旅はまだ始まったばかり。
けれど、その歩みは確かに“勇者の道”を踏み出していた。
昼下がりのギルドは活気に満ちていた。
冒険者たちの話し声、金属音、そして依頼書の紙をめくる音。
ノーザとニーナがカウンターに近づくと、受付嬢が笑顔で出迎えた。
「お疲れ様です、クレインさん、ピサロさん!
今日も精が出ますね。こちらなど如何でしょう?」
差し出された依頼書をノーザが手に取る。
> 依頼内容:難破船の内部調査
先週の嵐で岩場に座礁した海賊船の内部を調査せよ。
盗品・犯罪性のある物資はすべてギルドに提出すること。
※備考:乗組員は保安庁に出頭済み。転倒・崩落などに注意。
ノーザが眉を上げる。
「難破船か……なかなか変わった依頼だな」
受付嬢は頷く。
「ええ、直接の危険は少ないですが、内部の損傷が酷く足場が不安定との報告もあります。
報酬は通常のEランクより少し高めですよ」
ニーナが目を輝かせた。
「海賊船……なんだか浪漫を感じますね!
きっと歴史的な価値のあるものも眠っているのでは?」
ノーザは笑って肩をすくめる。
「お宝は全部提出だぞ?」
「分かっていますっ! でも少しくらい夢を見てもいいではありませんか」
「……まぁ、それもそうだな」
受付嬢が苦笑しながら依頼書に印を押す。
「ではこの依頼、クレイン・パーティにて正式受諾ですね。
調査地点は西の海岸、岬の突端“白岩の入り江”です。お気をつけて!」
ノーザとニーナは軽く頭を下げ、
依頼書を受け取ってギルドを後にした。
外では潮風が吹き、カモメの声が遠く響いていた。
「……いよいよ海か。初めてだな、ニーナ」
「はい!ノーザ様と見る海……最高です♡」
「今は仕事の話してるんだけど!?」
ラヴズが嘶き、海の香りを乗せた風が二人の間を抜けていった。
波が穏やかに打ち寄せ、潮の香りが風に混じる。
水平線の向こうでは、太陽がゆっくりと傾きはじめていた。
「……綺麗な景色ですね」
ニーナが静かに呟く。
その横顔は、海の光を反射してほんのり金色に染まっていた。
「うん。村の川しか知らなかったからな……海って、すごい」
ノーザは目を細め、潮風を吸い込む。
どこまでも広がる青が、心の中の何かを解き放つようだった。
気づけば、ニーナがそっとノーザの腕に手を回していた。
「えっ……ニーナ!?」
「だって……波が強いですし、怖いですから……」
言葉とは裏腹に、その頬はほんのり赤い。
ノーザの顔が一瞬で真っ赤になる。
「ニ、ニーナ、あの……当たってる……! 離して……っ!」
「え? あっ……! す、すみませんっ!」
慌てて飛び退くニーナ。
顔を真っ赤にして、杖の先で砂をつつく。
沈黙。
その間、ラヴズが横から「フゴォ」と大きく息を吐いた。
ラヴズ(……お前らイチャイチャすんな。仕事中だろ)
「……あー……行くか」
「は、はいっ!」
二人は目を合わせて、同時にぷいっと視線を逸らす。
けれど、その耳の先は二人とも真っ赤だった。
――なお、このときの二人、
まだ付き合ってはいない。
だが“後の夫婦”である。
入り江には、砕けた波と白い岩肌が続いていた。
岩場の間に、黒く巨大な影――座礁した海賊船が半ば傾いたまま沈黙している。
破れた帆が風を受け、ギシギシと軋む音が響いた。
潮の香りに鉄と木の匂いが混じり、
かつてここで繰り広げられた激しい戦いの名残を感じさせた。
ラヴズが鼻を鳴らし、警戒するように足元の砂を蹴る。
「ラヴズはこの辺で待機だ。船は狭いし危ない」
ノーザが手綱を軽く叩いて言う。
ラヴズは「了解」と言わんばかりに嘶いた。
ノーザは一歩前へ出て、
「じゃあ行こう! 飛び移るよ!」と言い、
軽やかに岩から岩へと跳んで、船の甲板へ飛び移った。
「っと……思ったより丈夫だな」
船体が軋み、古い木が沈んだ音を立てる。
ノーザは振り返り、まだ岩場に立つニーナに手を差し出した。
「ニーナ、来れる?」
ニーナは自信あり気に笑う
「大丈夫です!私、少しだけなら空飛べるので」
「おお、そうなんだ。じゃあ大丈――」
それを聞いたノーザは腕を引っ込めようとした、
だが
「……嘘です! 飛べません! 手を貸してくださいっ!」
「はぁ!? おい、何言ってんの!?」
ノーザが慌てて身を乗り出し、
ニーナの手を掴んで引き上げた。
「っ……っとと、危ない!」
ニーナはノーザの胸に勢いよく倒れ込み、
二人の距離が一瞬でゼロになる。
「大丈夫か?」
「す、すみません!重かったですよね!?」
「いや、そっちじゃなくて……!」
ラヴズ(……早よ行け)
海風が吹き抜け、
沈黙した船の中からは、かすかに木が軋む音が返ってきた。
新米冒険者たちの“初の本格調査”が、いま始まる。
座礁船 内部
木の軋む音が、沈黙の中に低く響く。
波が船腹を叩くたび、船体がわずかに揺れた。
甲板の板は割れ、ロープは潮に濡れて腐りかけている。
朽ちた木の香りと、錆びた鉄の臭気が鼻を突いた。
「……ひどい有様だな」
ノーザが足元を確かめながら呟く。
薄暗い甲板に差し込む光が、斜めに埃を照らした。
「座礁してから日が浅いのに……もう何年も経過したようです……」
ニーナが慎重に杖を構え、魔法灯をともす。
青白い光がぼんやりと壁を照らし、腐食した鉄具が鈍く光った。
二人はゆっくりと進みながら、船内を調べていく。
「ここが船倉か……?」
ノーザが扉を押すと、軋む音とともに空気がひやりと動いた。
中は湿っており、波の音がかすかに響く。
木箱がいくつも積まれているが、中身はほとんど空。
壊れた樽からは酒の匂いが漂い、床には古いコインが数枚転がっていた。
ニーナが辺りを見回し、眉を寄せる。
「本当に……誰もいないんですよね? 海賊たちは全員保安庁に……」
「そのはずだ」
ノーザが答えながら、耳を澄ませた。
……コツン。
どこか遠くで、何かが床を叩いた。
二人は同時に顔を上げる。
「今の……聞こえた?」
「え、ええ……風の音……ですかね……?」
風の音にしては妙に規則的だ。
三拍のリズムで「コツ、コツ、コツ」と続く。
ノーザが剣の柄に手を添える。
「……ニーナ、油断するな。念のため魔力感知を」
ニーナが杖を掲げ、小さく詠唱する。
青い光が空中に拡散し、微かにゆらめいた。
「……反応、なし……のはずです。
けど、変なんです……風も無いのに、何かが動いている気配が……」
ノーザは静かに頷いた。
そして、少し笑って言った。
「ま、何かいたらそれはそれで報酬アップだな」
「ノーザ様、今のは冗談ですよね!?ねっ!?」
――波の音が止まった。
二人の背後で、何かが「ギィ……」と、ゆっくり扉を押し開ける音がした。
船倉から続く細い廊下は、まるで地下牢のように湿っていた。
木の壁には黒ずんだ潮跡が残り、
足元では、冷たい海水がじわりと染み出している。
ノーザとニーナは、灯を頼りに慎重に進んでいた。
通路の奥は闇が濃く、音もなく、まるで息を呑んだように静まり返っている。
「……ここ、嫌な感じがしますね……」
ニーナが小声で言う。
「気のせいだといいけどな」
ノーザが笑おうとした、そのときだった。
――ギシッ……ギシ、ギシ……
何かが歩く音。
それも、明らかに“人間の足音”。
通路の角の向こうを、黒い影がゆっくり横切った。
「きゃっ!?」
ニーナが思わず悲鳴を上げる。
「ニーナ、下がって!」
ノーザが前に出た。
体に力を込める。
踏み込みと同時に――
蹴技 新スキル――《戦槍脚》!!
ノーザの直線的な蹴りが
轟音と共に木の壁を槍の如く貫いた。
木片が弾け飛び、埃と潮風が吹き抜ける。
……しかし。
そこには、誰もいなかった。
「……嘘だろ。確かに“何か”がいたはずだ」
ノーザが眉をひそめる。
壁の向こうには崩れた船室。
人影はもちろん、動物の姿すら無い。
ニーナが震える声で呟く。
「ノーザ様……この船、誰も乗っていないのに……どうして足音が……」
ノーザは息を整え、壁を見つめたまま剣の柄を握りしめた。
「分からない。でも……」
波が静まり返る。
風も止んだ。
――代わりに、船全体に低く響くような音を立てた。
「……ノーザ様、今、船が……動きました……?」
「潮じゃない……これは……“何かが中にいる”」
湿った空気が肌にまとわりつく。
波の音すら届かない、静寂の底。
ニーナの魔法灯が揺らめき、青白い光が空間を照らした。
そのとき――
「……聞こえますか? ノーザ様」
ニーナが囁く。
ノーザも頷く。
確かに、足音のような、いや――“水を踏む音”がする。
――ピチャ……ピチャ……
水面が揺れ、青い光が床を照らす。
だがその“揺れ”の中心に、誰もいない。
「……ニーナ、後ろに下がって」
ノーザが剣に手をかける。
空気が冷たく変わった。
灯が一瞬、チリッと音を立てて消えかける。
そして――
舟幽霊が現れた!
半透明の女の姿。
水滴を滴らせ、目は虚ろ。
裾からは海水が滴り落ち、足元には泡が広がっていく。
「……沈め……沈め……」
その声は人のものではなかった。
怨念と波のざわめきが混じった、深い響き。
ニーナが息を呑む。
「こ、これは……! 霊体……!? 魔物の気配じゃない!」
ノーザが剣を構える。
「コイツは……魔物じゃない! “死んだ人間”の怨霊だ!」
「どおりで生命探知に引っかからない訳ですね……!」
舟幽霊がゆっくりと、しかし確実に近づく。
足音は無い。
ただ、足元から海水がじわりと広がっていく。
「……沈め…………沈め……」
ノーザが一歩前に出る。
「悪いけど、成仏してもらう!」
霊気が爆ぜ、船内の灯が一斉に揺れた。
ノーザとニーナの初の“死者との戦い”が始まった――!
薄暗い船倉に、寒気が走る。
舟幽霊が両手を掲げると、
周囲の海水が逆流し、霊気の波が爆ぜた。
舟幽霊は怨霊を放った!
無数の手のような黒い靄が床から這い出し、
ノーザたちの足元を掴もうと伸びてくる。
「くっ、なんだこいつら!」
ノーザが剣を抜き、蹴りを放ちながら飛び退く。
「喰らえッ!」
木刀が勢いよく霊体の胴を貫いた――が。
ズブッ。
木の刃はそのまま通り抜け、
霊体の身体はまるで霧のように形を戻した。
「なっ……効いてない!?」
舟幽霊の虚ろな瞳がノーザを見下ろす。
「……生者よ……沈め……沈め……」
「やばい、距離を取って!」
ニーナが杖を掲げ、光の結界を展開する。
霊の波が壁に弾かれ、波紋のように広がった。
「ノーザ様! 物理攻撃は無効です!
あれは“実体のない霊”です、普通の武器では傷つけられません!」
「よし! 魔法だな……!」
左手を掲げ、魔力が瞬時に収束する。
高速炎魔法――アグニ
ノーザの編み出したオリジナル魔法
高速の火球が放たれ、怨霊の群れを一瞬で焼き払う
「私も……行きます!」
ニーナが杖を構え、詠唱を終える。
氷刃魔法――― フロスト・エッジ
氷の刃が走り、怨霊を正確に貫いた。
霊気が霧散し、白い蒸気が立ち上る。
「……アツイ……ツメタイ……」
「効いてる……! この調子だ!」
「はいっ! 連携を続けましょう、ノーザ様!」
舟幽霊の姿が一瞬ぶれた。
次の瞬間、周囲の風が逆流し、
冷たい霊気が爆発のように広がる。
「沈メ……沈メ……!」
船体が悲鳴を上げたように揺れ、
床の海水が急激に上昇する。
まるで船ごと引きずり込もうとしているかのようだった。
「くそっ!早くトドメを刺さないと……!」
怨霊の腕が無数に伸び、ノーザの体を捕らえようとする。
木刀で弾くが、霊の触手は霧となって再び絡みつく。
「ノーザ様、下がって!」
ニーナが氷壁を張るが、霊気の圧力で一瞬で砕かれた。
「きゃあっ!」
吹き飛ばされ、背中を打つニーナ。
ノーザがすぐさま駆け寄る。
「ニーナ!無事か!?」
「は、はい……でも、魔力が……」
舟幽霊の瞳が赤く輝く。
船全体が傾き、
壁の隙間から黒い瘴気が噴き出し始めた。
「……っ、な、なんだあれは……!」
ニーナが目を凝らす。
霊の足元――そこだけ、異様に黒い靄が渦を巻いている。
「……ノーザ様……! あの瘴気……あれが元凶です!」
「瘴気……?」
「はい! 舟幽霊をこの世に繋ぎ止めている“核”のようなものです!あれを断てば、霊体は形を保てません!」
「なるほど……!つまり、あそこを叩けばいいんだな!」
「……クルナ……ワレラヲ……」
怨霊が再び波を巻き起こす。
船が大きく軋み、
ニーナの灯が揺れた。
ノーザは体勢を立て直し構える
「よし、狙いは瘴気の源だ! ニーナ、援護頼む!」
「了解です、ノーザ様!」
二人の視線が交わった瞬間、
空気が一変した。
舟幽霊が霊気を纏い、
海水の渦を巻き上げる。
黒い瘴気が床から噴き出し、
二人を呑み込まんと迫る。
「今だ、ニーナ!援護を!」
「はいっ!」
フロスト・エッジ
氷の刃が次々と飛び、瘴気の流れを凍らせる。
一瞬、舟幽霊の動きが止まった。
ノーザが地を蹴る。
――戦槍脚
強烈な一撃が床を貫き、
霊の足元から瘴気の柱が吹き上がる。
床板が爆ぜ、黒煙が散った。
「アァァァァァ――ッ!!」
霊体が大きくのけ反る。
光が乱反射し、船内全体が震えた。
ノーザは一歩踏み込み、
右手を高く掲げる。
雷の魔力が指先に集中し、空気が唸った。
「これで終わりだ――!!」
召雷魔法―――トール
ノーザの手を伝わり、木刀から雷撃が放たれる
船体が閃光に染まり、
残されたのは焦げた木の匂いと、静寂だけだった。
舟幽霊を倒した!
ノーザはレベルが上がった!
ニーナはレベルが上がった!
ニーナが目を開く。
「……消えました……舟幽霊の気配が、完全に……!」
ノーザは肩で息をしながら笑った。
「ふぅ……やったな」
ニーナは微笑み、胸に手を当てた。
「流石はノーザ様……雷の一撃、まるで神の裁きのようでした……」
「お、おい……それは褒めすぎ……///」
二人は顔を見合わせて笑い合う。
そして、静かな海風が船内を抜けていった。
舟幽霊が消え、船内には静寂だけが残った。
漂っていた冷気も次第に薄れ、
海の音がゆっくりと戻ってくる。
ノーザは深く息をつき、剣を納めた。
「……終わった、か」
ニーナが頷き、杖を下ろす。
「はい。霊気の反応も完全に消滅しています」
ふと、ノーザの視線が床に向いた。
戦槍脚で破壊した床板の下――
わずかな隙間から、金属の光が覗いている。
「……この下に、何かあるな」
ノーザが木片をどかし、
慎重に覗き込む。
中には古びた木箱がひとつ、
丁寧に布で包まれて埋められていた。
「……なんだこれ?」
箱を引き上げ、埃を払う。
蓋を開けると、中には一本の剣。
古いが、奇妙なほど錆びついていない。
装飾は少なく、それでいて重厚な存在感を放っていた。
ノーザは息を呑みながら鞘を抜く。
――鈍い銀の刃が、わずかな光を反射した。
「……すげぇ……」
ニーナがそっと覗き込み、
鍔の部分を指差した。
「ノーザ様、ここに刻印があります……
“Nirvana”……ニルヴァーナ……?」
「ニルヴァーナ……?涅槃?」
聞いたこともない名。
しかし、見ているだけで胸の奥が熱くなる。
まるで剣そのものが、
何かを“託して”きているような――。
ノーザはゆっくりと握り直した。
「……この剣、何かしっくりくるな」
波が船体を叩き、
海風が吹き抜ける。
難破船を抜け出す二人
ラヴズ(大丈夫だったか?)
愛馬が歩み寄ってくる
ギルドの扉をくぐると、昼下がりの喧騒が迎えてくれた。
依頼書を手にした冒険者たちの声が響く中、
ノーザとニーナはカウンターへと歩み寄る。
受付嬢がぱっと顔を上げた。
「お帰りなさい、クレインさん、ピサロさん!
難破船の件、報告受けました。……本当に、お疲れ様でした!」
「船内の怨霊を退治した、という報告が上がっていますね。恐らくその怨霊が座礁と沈没の原因だったのでしょう。想定外の戦闘だったとのことで……報酬も上乗せしてあります!」
「助かります!」
ノーザは笑い、受領書にサインをした。
受付嬢が銀貨の入った袋を差し出す。
「合計で8万ダストです。お二人でどうぞ!」
ニーナが目を丸くした。
「えっ……Eランクで、こんなに!?」
「特別報酬ですよ。悪霊退治は想定外の功績ですから」
ノーザは袋を受け取り、ふと思い出したように言った。
「そうだ、あと……古い剣がひとつ見つかったんですけど、これ、貰ってもいいですか?最近は装備が高くて……」
受付嬢が目を瞬かせる。
「剣……? あ、こちらですね」
帳簿を確認し、書類に目を通す。
「未申告の盗品リストにも該当なし、危険物認定も該当なし。……はい、多分大丈夫だと思います!」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「よかったですね、ノーザ様」
受付嬢が微笑む。
「その剣、ずいぶん古いみたいですけど……
まるで、あなたを待っていたみたいに見えますね」
ノーザは少し照れながら、背中の剣を見やった。
鞘に刻まれた名――Nirvana。
あの海の底で見つけた“導きの剣”。
こうして、ニルヴァーナは正式にノーザの所有物として登録され、
彼の新たな冒険の相棒となった。
数日後・リンウス王都
ギルドの掲示板に、新しい認定証が貼り出された。
そこには、
冒険者ランク:D(正式遠征級)
ノーザン・クレイン/ニーナ・ピサロ
と記されている。
短期間での功績、怨霊討伐、未発見宝の報告。
全てが評価され、二人は晴れて昇格となった。
ノーザは認定証を受け取り、少し照れくさそうに笑う。
「……Dランクか。早かったな」
ニーナは誇らしげに微笑んだ。
「当然です、ノーザ様。短期間でここまで来た冒険者など、そうはいません」
ノーザは窓の外、遠くの青空を見上げる。
「この国もいよいよお別れだな……。
もっと強くなって、魔王討伐隊を作れるくらいの冒険者にならなきゃ」
ニーナはその言葉に静かに頷く。
「ノーザ様なら、きっと出来ますよ」
その瞳は、憧れと信頼で輝いていた。
---
翌朝・王都の外れ
柔らかな朝日が差し込む街道。
ラヴズが蹄を鳴らし、二人を乗せてゆっくりと走り出す。
「行こう、ニーナ。次の国へ」
「はい、ノーザ様。新しい冒険の始まりですね」
風が頬を撫で、
遠くの鐘の音が微かに響く。
こうして、若き冒険者ノーザとその従者ニーナの
旅は、伝説の始まりへと動き出した。
その後二人は、人々が最低限不自由無く、犯罪に手を染めなければ生きられない世の中を無くす為、旅を続けた。仲間を集め魔王を倒す為……
それから暫くの旅の様子
どこかの草原の午後
果てしなく続く青空。
風が柔らかく草を撫で、鳥の声が遠くで響く。
旅の途中、ノーザとニーナは一本の大樹の下で休憩を取っていた。
ラヴズは木陰で草を食み、時折気持ちよさそうに鼻を鳴らす。
「ふぅ……今日はよく歩いたな」
ノーザが体を預けるように座り込むと、
ニーナが微笑んで言った。
「お疲れ様です、ノーザ様。少し休んでください」
そして、そっとノーザの頭を自分の膝の上に乗せた。
「に、ニーナ!? な、何して……」
「旅にも癒やしが必要です。お気になさらず♡」
ノーザは顔を赤くしながらも、
拒むことができず、ゆっくりと目を閉じた。
木漏れ日が頬を照らし、
風が二人の髪を揺らす。
ニーナはその横顔を見つめながら、静かに呟いた。
「……ノーザ様。いつかこの旅が、誰かを救う日が来るはずです」
ノーザは目を閉じたまま微笑む。
「そうだな……。誰もが安心して笑える世界を……俺が、必ず作る」
草原を渡る風が、二人の言葉を遠くへ運んでいった。
秘湯の郷・星見の湯
旅の途中、ノーザとニーナは偶然たどり着いた。
山間の谷に湧く天然の温泉。湯けむりの向こうでは、満天の星が空を飾っている。
「ふぅ……。いやぁ、いい湯だ……」
ノーザが肩まで湯に浸かり、思わずため息を漏らす。
そこへ――
「ノーザ様……♡」
聞き慣れた声が背後から。
「……え? ニーナ!?」
振り向いたノーザの顔が、一瞬で真っ赤になる。
湯けむりの向こうに、小さいタオル1枚のニーナ。
混浴で入る時間が被っていた。
「ごめん!今出るから…ゆっくりして…」
しかしノーザの手を握り、後ろから抱きつくニーナ
「ニーナ…当たってる…離して…」
「私は……ノーザ様と一緒に………♡」
さらに強く抱きつくニーナ……その大きな胸が
ノーザの背中に直に押し当てられる
「分かったから…せめて前くらい隠して…死んじゃう……」
湯けむりの向こうで、星がきらめいた。
夜風が心地よく吹き抜け、
二人の顔は、火よりも赤く染まっていた――。
翌朝・秘湯の郷を後にして
朝霧が薄く立ちこめる山の谷。
温泉の湯けむりがまだ名残を残す中、
ノーザとニーナは出発の準備を整えていた。
「ふぅ……いい湯だったな」
「はい、心も身体も癒やされましたね、ノーザ様」
ノーザが笑って背伸びをする。
「よし! すっかり回復したし、行くぞ、ニーナ!」
「はいっ、ノーザ様!」
ラヴズが軽く蹄を鳴らし、
二人を乗せて朝日へと駆け出していく。
空気は澄み、風が心地よく吹き抜けた。
――こうして、ノーザとニーナの新たな旅は始まった。
魔王を討つ力を求めて。
人々が自由に笑える世界を目指して。
……そして、しつこいようだが。
この二人、後の夫婦である。
初期はここまで書いて、お蔵入りして過去作書き始めたんですね
ニーナの風呂覗きたい人はこちら↓
https://www.pixiv.net/users/118222108




