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光と影の二重奏

ノーザと翔子の本格的共闘回です

魔族領に湧いた天然の湯は、

僅かな時間ながらも確かにノーザ達の疲労を洗い流していた。


張り詰め続けた心と身体を一度緩めたことで、

歩みは再び、迷いなく前へと向けられる。

目指すは魔王城。

その距離はまだ遠い。

だが、ここまでの十日間で彼らが成し遂げたことは、決して小さくはなかった。


道中で発見した魔族の拠点は既に一つ陥落。

囚われていた民間人は数百名に及び、

全員を無事に後方へと送り届けることに成功している。


そして――

ノーザ達が通った後には、必ず人類連合軍の旗が立った。


彼らが切り開いた安全圏を、

後続の部隊が着実に掌握していく。


補給路が繋がり、

避難民の流れが整備され、

拠点は人類側の前線基地へと変わっていく。


ノーザは戦場を駆け抜けるだけの勇者ではない。

踏みしめた場所を、

確実に「人の領域」へと変える者。


――ノーザの後には、道が出来ていた。

その積み重ねの先に、

魔王城への一本道が静かに延びている。

だが当然、

魔族がそれを黙って見過ごすはずもなかった。


前方に広がる丘陵地帯の向こうから、

不穏な魔力の気配が幾つも立ち上がる。

休息は終わり。


ここからが、魔族領に入って最初の本格戦闘となる。

ノーザは静かにニルヴァーナへ手を伸ばした。


この日、ノーザ達はさらに魔王城へと前進し、

新たな魔族拠点の攻略へと踏み込んだ。


丘陵の裂け目に築かれたその拠点は、

先日制圧したものよりも明らかに規模が大きい。

岩肌に穿たれた坑道。

煙を上げる炉。


そして、外周を巡回する武装魔族の数も多い。

上空から様子を探っていたミネルが、

緊張を含んだ声で降り立つ。

「この前より大規模な拠点だよ……ここも民間人が捕らわれてて、生産や採掘の労働をさせられてるみたい……人数は分からないけど」


それを聞いたノーザの表情が僅かに曇る。

「ニーナ、この辺りが魔族に強制併合されたのって……どのくらい前だった?」


地図と記憶を照らし合わせながら、

ニーナがすぐに答えた。

「えーと……二年前ですね。

 人類連合が一時的に兵士不足に陥っていた時期です」


二年。

それは、単なる占領では済まない年月だ。

住民は既に資源として扱われ、

労働力として完全に組み込まれている可能性が高い。


――放置されていた時間が長すぎる。

ノーザは短く息を吐き、視線を上げた。

「……マズイな。行こう」

迷いはなかった。


魔族拠点を遠目に望める岩陰。

灯りは最小限、声は自然と潜められていた。

目の前に広がるのは、以前の施設とは比べ物にならない規模の強制労働要塞。

高い城壁、見張り台、魔力反応の濃さ。

ここが本当の魔族領の拠点だと誰の目にも明らかだった。


地面に簡易の地図を描いたノーザが低く呟く。

「戦力差を考えると……正面は無理だ。俺、ニーナ、サンで内部突破。市民の確保と主要部屋の制圧を優先する」


腕を組んだヴィヴィがあっさりと頷く。

「ならあーしは単独で外周の見張りを潰しておくよ。中で暴れたら援護に回る」


静かに座していたリーが数珠を握り締める。

「拙僧はショウコ殿と共に裏から潜入し、捕虜の位置を探知、回復と脱出経路の確保に当たろう」

闇に溶けるように立つショウコが小さく会釈する。

「了解です……拘束と隠密で内部の混乱を広げます」


風が吹き抜ける。

遠くで魔族の警笛、鎖の音、重い扉の開閉音。

この拠点にどれほどの人間が囚われているのか想像するだけで胸が重くなる。

地図を消したノーザが立ち上がる。


「目標は殲滅じゃない。解放だ。……行くぞ」

誰も軽口を叩かない。

ただ、それぞれが武器を握り直した。

夜の底へ、勇者達は散開した。


拠点から少し離れた上空。

夜の風を裂きながら、巨大な翼が静かに羽ばたく。

その脚に掴まれたままでも揺れは少なく、視界は驚くほど安定していた。


「にしてもオウギワシって凄いね……こんな軽々と運ばれるとは思わなかったよ」


真下に広がる闇を気にする余裕すらある様子で見下ろすヴィヴィ。


それに誇らしげに胸を張るアイリーン。

「飛べる仲間じゃアタシが一番よ。地元じゃ猿とかナマケモノ攫って食べてるからね!」


一瞬、風より冷たいものが背筋を撫でる。

ぎこちなく顔を引きつらせるヴィヴィ。


「……あれ?今なんか怖いこと言わなかったか?」

「気のせいよ♪」


笑顔のまま高度を落とし、魔族拠点の外郭へと滑空していく。

軽口はここまで。

空気はすぐに戦場のそれへと戻っていった。


兵舎の裏手、影の濃い位置に足音ひとつ立てず降り立つ。


大きな翼はすでに遠ざかり、夜気だけが残された。

「じゃあ気を付けてね〜!アタシは救助隊と応援呼んで来る!」


軽やかな声とともに空へ舞い戻る影。

深く息を吸い、拳を固める。

足元の土が、僅かに沈んだ。


「よし……やるか!」


掌に集う紅蓮の光。

拳を包んだそれは、触れた瞬間すべてを焼き尽くす灼熱。


煌火属性――インフェルノナックル。

振り抜いた一撃が兵舎の壁面を粉砕した。


爆ぜる木片と同時に内部へ流れ込んだ炎が瞬く間に燃え広がる。

乾いた音。

次いで、兵舎の一角が崩落する。


「敵襲だー!!!」


火柱が夜空を焦がした。

逃げ惑う魔族兵の悲鳴が連なる。

燃え上がる建物を背に、口角を上げる。

「さあ……暴れるか!」

炎の中へ自ら踏み込んだ。


瓦礫と煙が立ちのぼる夜。遠くで炎が揺れ、兵舎の崩落音が遅れて届く。


その方向へ一瞬だけ視線を向け、静かに息を吐く。

「始まりましたね」

衣の裾を整えたまま小さく頷く。

「流石がヴィヴィ殿……容赦がない……」


別区画から駆け寄る足音。重い鎧が擦れ、怒号が混ざる。

「敵襲だ!恐らくこの前施設を潰した連中だ!」

「人間共め……魔獣の餌にして――」


言葉が最後まで続く前に、闇から跳躍した影が胸元へ突き刺さった。


錫杖を抱えたまま、蹴り抜く。

吹き飛ばされた魔族が石畳に転がる。

「ほう……やってみろ……」


伸びた影が地を這うように広がり、走り出した増援の脚に絡みつく。

「合流はさせません」


振り払おうとした魔族の動きが止まる。

その隙へ踏み込み、錫杖が唸った。

鈍い衝突音。


もう一体を横薙ぎに払い倒し、道を塞ぐ。

狭い通路に倒れた身体が障害物となり、後続の列が乱れる。


影はさらに分かれ、壁面から壁面へと渡りながら逃げ道を縫う。

「こちら側へは通しません」

短く告げ、再び影が跳ね上がる。

魔族たちの進路は、完全に断たれていた。


黒い影が足元からせり上がり、少女の背中へ溶ける。

腕が四本へ分かれた瞬間、空気が一変した。

「……殲滅重視で行きます……」

低く呟いた声に、ぞくりとした色が混じる。


開いた瞳はさきほどまでと違い、

獲物を見つけた肉食獣のそれだった。

「嗚呼……解体したい……!!」


地を蹴った瞬間、残像すら置き去りにする速度。

四本の腕が別々の軌道で振るわれ、魔族の身体を紙のように裂き飛ばしていく。


「ショウコ殿!」

僧の声と同時、地面へ錫杖が打ち込まれる。

――猿田彦跳躍術。

淡い霊光が少女の脚へ絡みついた。


「……凄い……!」

さらに跳躍。屋根を越え、空中で一回転。


上から叩き潰し、踏み台にして再跳躍。

「凄い……凄い……凄い!!」

止まらない。


四肢と影が連動し、まるで八方から同時に喰らい付く獣。

「う、うわぁぁぁ!!」

逃げようとした魔族の背後に影が回り込み、引き倒される。


落下と同時に振り下ろされる四連の打撃――地面が陥没する。


土煙の中、誰一人として立っていなかった。

静寂だけが残る。


瓦礫と血の臭いの残る通路。

四本腕の姿のまま、肩で小さく息を整えながら笑っていた。

「あ〜……楽しい……」


壊れた魔族の残骸を見下ろす視線は、冷静なのにどこか異常だった。


背後で錫杖を下ろした僧が静かに問う。

「……貴女は、誰なんだ?」



少女はゆっくりと振り返る。

影と重なった顔で、首をかしげた。


「私も……あの子も……ショウコですよ?」


足元の影が僅かに揺れ、笑ったように歪んだ。



「ただ……少しだけ、お腹が空いてるだけです……」


重く軋む扉を押し開けた瞬間、空気が変わった。

濃い血の匂いと、押し殺された呻き声。


中央に立つ魔族の将がゆっくりと振り返る。

「好き勝手……暴れてくれたな」

その腕の中で、力なく拘束されている人影。


喉元に刃が当てられていた。

ノーザの瞳が見開かれる。

「……っ!」

嘲るように魔族が笑う。

「少し、遅かったな」


怯えた民間人の震えが床越しに伝わる。

剣を握る手に、力がこもった。


ニーナが息を呑む。

「人質を……!」

サンが歯噛みする。

「最悪や……」


魔族の将は一歩も動かず、勝ち誇った視線を向けた。

「勇者気取りが何人来ようと……この命一つで詰む」



静まり返った部屋。

踏み込めば終わり、引けば救えない。


魔族の将は人質の首筋に刃を押し当てたまま、ゆっくりと嗤った。


「この人間共を救いたくば――貴様の仲間の首をはねろ」

凍り付いたように時間が止まる。

ノーザの喉が鳴った。

「……クソ……!」

一歩も踏み出せない。


刃が僅かに食い込むだけで終わる距離。

将は更に言葉を重ねた。

「勇者を名乗るなら選べ。

 民か、仲間か。どちらを斬る?」


沈黙が重くのしかかる。

横で、静かに目を伏せたサンが前に出る。

「……兄弟……ワイにしとけ……」

冗談ではない声音。



いつもの軽さは欠片も無かった。

「人質を見捨てる勇者より……仲間一人犠牲にした勇者の方が、まだマシや……」


ニーナが息を呑む。

「サン……!」

魔族の将は満足げに笑った。

「ほう……美しい覚悟だ。

 さあ勇者よ、剣を振るえ」


ノーザの拳が震え、歯が軋む。

視線の先には怯える民間人。

背後には命を預けた仲間。

完全な八方塞がりだった。


人質を前に、動けないはずだった勇者が――

高く、ニルヴァーナを掲げた。

魔族の将が勝ち誇ったように笑う。

「フハハハ!貴様が軽率に乗り込んだせいでこうなったのだ!」

だがノーザの瞳は既に将を見ていなかった。


静かに、低く呼ぶ。

「……ショウコ!」

その瞬間。


人質たちの背後に落ちていた影が、ぬるりと立ち上がった。

――シャドウダイブ。


闇を裂くように、黒い影から少女が飛び出す。

鋭い蹴撃が魔族の将の側頭部を貫いた。

「な――!?」

体勢が崩れ、人質から刃が離れる。

高台から状況を見ていたサンが叫ぶ。


「マヌケが!足音にショウコちゃんの影が混じっとったのに気付かんかったんか!!」

ノーザは一瞬も迷わず人質を引き寄せ、将との間に割って入る。


「……助かったよ、ショウコ!」

崩れた均衡が、今――完全に逆転した。


人質を奪還した瞬間、ノーザは迷いなく前へ踏み込んだ。


ニルヴァーナを最上段に掲げる。

静まり返った一瞬――

「セラフィックモーゼ」

振り下ろされた神剣から放たれたのは、光そのものの斬撃。


ニルヴァーナ固有の新たな神聖剣技。


床を裂いた光が一直線に走り、白く輝く一本の道となって広間を貫いた。

それはただの斬撃ではない。


触れた魔族を弾き、寄せ付けない神域の結界。

押し返されるように吹き飛ぶ魔族達。

「なっ……近寄れん!?」

「光が壁になってやがる……!」

その隙に、ノーザは叫ぶ。

「ニーナ!」

背後で即座に反応した声。


「皆さん!今のうちに光の道へ!早く逃げて下さい!」

民間人達が震えながらも光の道へ駆け込む。

魔族は追えない。

ノーザが作り出した“退路”は、人間だけを守る聖なる境界だった。


光の道の向こうへ民間人が消えた瞬間、空気が変わった。


振り返ったノーザの視線の先――

四本腕の影と融合した少女が、静かに嗤っていた。

「ショウコ!」

揺らぎの中から返ってきた低い声。

「喰らいつくします」

次の瞬間、影が爆ぜた。


床を蹴った四本の腕と脚が獣のように広間を駆ける。



逃げ場を失った魔族達へ一直線。

裂く。砕く。叩き潰す。

悲鳴が連なる。


「あははははは!!!」


それは楽しんでいる笑い。

しかし暴走ではない――確かに敵だけを狩っている。


ノーザは迷わずその背を追った。

ニルヴァーナが閃く。

光の剣が魔族の首を正確に断ち、ショウコの暴力が残骸を蹴散らす。

暴力と神聖。


正反対の力が、奇妙なほど噛み合っていた。

やがて広間の雑兵は全て沈黙した。

四本腕の影がすっと床へ溶ける。

「……シャドウダイブ」

闇に潜るショウコ。


ノーザも同時に踏み込む。


「征くぞ!」


セラフィックバースト――瞬間転移。

敵将の左右、影と光が同時に現れた。

挟撃。


膝を突いた敵将の口から血が溢れた。

「ぐあっ……!!!」

まだ倒れない。

光と影に挟まれながらも、その身体は崩れ落ちない。


「まだ立つか……!」

呆れ半分の吐息。

「無駄に頑丈ですね……」

四本腕の影が唸る。


その時――


背後から魔力の奔流。

「ノーザ様!これを!」


解き放たれたのは幻惑の高位魔法。

分身魔法――トライミラージュ。

視界が歪み、ノーザの姿が三つに分かれた。



「うわっ!?なんだこれ!?」

「兄弟が三人になったで!?」


三体のノーザが同時にニルヴァーナを構える。

敵将が息を呑む。


どれが本物か見極められない。

三つの光が同時に駆けた。


残像ではない――すべて本物の殺意。

一体が跳んだ。


「セラフィックバースト!」

光と共に消失し、敵将の背後へ瞬間移動。


正面からもう一体が突撃する。

「馬頭牙衝!」

大地を砕く踏み込みから放たれる最強の刺突。


残る一体の掌に灼熱の魔力が凝縮する。

「プロメテウス!」

聖炎の火球が至近距離から直撃した。


「ぐああああああああ!!」

逃げ場は無い。

三方向からの破壊。

さらに間髪入れず追撃。


宙を裂いて蹴りが叩き込まれる。

「降三世蹴り!」

跳躍から叩き落とすような蹴撃が胸部を砕く。


落下した身体へ、もう一体が地獄の連撃を刻んだ。

「六道斬り 六ノ型――地獄八景阿鼻落とし!!」

斬って、踏み、跳ね、また斬る。

八連の獄撃が血を散らす。


最後のノーザが天へ剣を掲げた。

「ゼウス!」

雷光が降り注ぎ、敵将を大地へ縫い止める。


光が収束し、爆発。

そして――静寂。

焼け焦げた地面に、敵将の身体が崩れ落ちた。

完全なる殲滅だった。


三つに分かれていたノーザの姿が淡い光となって消えていく。

同時に、四本腕のショウコの影も静かに本体へと戻った。


静まり返ったボス部屋。


倒れ伏した魔族の将の焦げた臭いだけが残っている。


駆け寄ってくるサン。

「兄弟!!」

安堵と興奮が混ざった声。


ニーナは胸に手を当て、小さく微笑んだ。

「お見事です、ノーザ様」


息を吐きながら剣を下ろすノーザ。

「ニーナ……これ強いけど滅茶苦茶使いにくいぞ……」


ショウコが一気に顔を伏せた。

「あ……また中二病が……」

耳まで真っ赤。



外で戦っていた二人も遅れて部屋へ。

「皆ご無事か?」

血を払いながら戻るリー。

「早っ……もう終わってたのかよ……」

肩を回しながら呆れたように笑うヴィヴィ。


激戦の直後とは思えないほど、部屋には少しだけ穏やかな空気が戻っていた。

ちなみにシャドウダイブとは、ギラティナです

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