表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/37

影の行方

異色過ぎる新キャラ!

目の前に広がる異様過ぎる光景。

床に折り重なる魔族の死骸。壁に残る爪痕と血痕。

だが――そこに恐怖や混乱の気配はなかった。



ただ一人、

奇妙な服装の少女が、その中心に立っている。

微笑んでいた。


震える民間人の一人が、喉を引きつらせる。

「あ……あの人が……」

その視線に気づいたのか、少女はゆっくりと振り返った。


視線が、ノーザたちを正確に捉える。

「あ、救助隊の方ですか?」


声は落ち着いていた。

戦闘直後とは思えないほど、穏やかで、柔らかい。

「もう大丈夫です……ここにいた魔族は、片付きましたから」


ノーザは一瞬、言葉を失った。

(……片付いた?)


視線を巡らせれば、

確かに、敵の気配は一切ない。


だが、その“結果”に至る過程が、まるで見えない。

ニーナが一歩、前に出かけて、すぐに止まった。

直感が、何かを告げている。

「……あなたが、これを?」


問いかけは慎重だった。

少女は少し首を傾げる。

考える、というより、言葉を選んでいるような間。

「えっと……はい」


悪びれる様子も、誇る様子もない。

「得体の知れない相手でしたけど……

倒すだけなら、特に問題はなかったので」

その言葉に、場の空気が僅かに軋んだ。

サンが、低く息を吸う。


「……なあ、兄弟。

“問題なかった”言うには、ちょいと派手過ぎやせんか」

少女は床の魔族の死体を一瞥した。

「あ……怖がらせてしまいましたか?」


その声音に、困惑が混じる。

「でも……この人たち、危険でしたし。

皆さんを解放するには……そうするしかなかったので」


民間人たちは、感謝よりも先に、距離を取っていた。

救われたはずなのに、

彼女を直視できない。


それを見て、少女は少しだけ視線を落とした。

「……ごめんなさい」

その一言は、

取り繕いでも、演技でもなかった。


リーが静かに歩み出る。

床に残る痕跡、傷、破壊の方向――

すべてを見て、短く息を吐いた。

「……単独で、成し遂げたとは思えぬ」


その声に、少女は小さく笑った。

「そう……見えますか?」


そして、何でもないことのように続ける。

「でも、本当に一人です。

影も……今は大人しいですし」


ノーザは、その言葉に引っかかった。

(……影?)


だが、今は踏み込まない。

代わりに、真っ直ぐに少女を見る。

「君は……ここで、何をしていた?」

少しだけ間があった。


ほんの一瞬、少女の表情が曇る。

「……捕まっていた人たちを、逃がしていました」


淡々とした答え。

「それから……帰る方法を、探していました」

ノーザは、はっきりと確信した。


この少女は――

敵ではない。

だが、

ただの被害者でもない。

(……一体、何者なんだ)

少女は、こちらを見て、静かに言った。

「……あの。

ここ、もう安全ですか?」


その問いに、ノーザは頷いた。

「ああ。もう大丈夫だ」


少女は、ほっとしたように、肩の力を抜いた。

「良かった……」

そして、ぽつりと、呟く。


「……はぁ。

早く帰って、おはぎとか……おしるこ食べたい……」


場違いな一言。

だが、その瞬間、

ノーザは確信した。

――この少女は、

恐れていない。

魔族も、死も、

この世界そのものさえも。


ノーザは一歩、前に出た。

剣は下げているが、いつでも動ける距離だ。

「君は……何を言ってるんだ?」


視線は、床に転がる魔族の死骸から、少女へ戻る。

「その服装……見たことがない。

それに――どうやって、これだけの数の魔族を?」


言葉は抑えているが、内心の困惑は隠しきれない。

理解の枠の外にいる存在を前にした反応だった。


少女は、少しだけ考える素振りを見せた。

「……そうですよね」

否定もしない。

肯定もしない。

「それは……言っても、きっと伝わりませんから」


視線を逸らし、穏やかに続ける。

「今は、伏せておきます」

拒絶ではない。

だが、線は引いている。


ニーナが、静かに口を開く。

「……では、あなたは何者ですか?」

問いは率直だった。

少女は一瞬、言葉に詰まったように見えた。

それから、ほんの少しだけ困ったように微笑む。

「それも……今は、答えにくいです」


ヴィヴィが、低く鼻で笑う。

「随分と都合がいいね。

信用しろって言われても、材料が足りないよ」


その言葉に、少女は頷いた。

「はい。警戒されて当然だと思います」


その返答は、驚くほど冷静だった。

「……でも」

少女は、民間人たちの方を一瞥する。


怯えながらも、確かに生きている人々。

「私は、この人たちを解放しました。

それだけは、事実です」


リーが、床に残る血痕を見つめたまま言う。

「……魔族の殺し方が、異様だ。

憎悪も、享楽も感じぬ」


少女は、少しだけ首を傾げる。

「……仕事だったので」

その一言が、場の空気をわずかに冷やした。


ノーザは、深く息を吸い、吐く。

「……君は、俺たちをどうするつもりだ?」

問いは核心だった。


少女は、ゆっくりとノーザを見る。

その目には、敵意も、恐怖もない。

「何もしません」

即答。

「あなたたちが救助に来たなら、私は邪魔をしません。……むしろ、助かりました」

少し間を置いて、付け加える。


「一人で全部やるのは、正直……面倒なので」


サンが小さく呟く。

「……なんやこの子」

少女はその声を聞き取ったのか、ちらりと視線を向ける。


「すみません。

こういう言い方しかできなくて」

謝罪は、形式的ではなかった。

ノーザは、しばらく沈黙した後、言った。

「……分かった」

全員が、ノーザを見る。

「今は、敵じゃない。それで十分だ」


少女は、少しだけ目を見開き――

それから、安堵したように息を吐いた。

「……ありがとうございます」

その瞬間、この場にいる誰もが理解した。

この少女は、味方にも、敵にもなり得る存在だ。


そして――

今はまだ、

そのどちらにも、踏み込ませていない。


ノーザたちが民間人を連れ、施設の外へと動き出す。

指示が飛び、救助の流れが整っていく。

「とにかく、民間人を助けてくれたのは感謝する。ありがとう」

短く、真っ直ぐな礼。


「救助部隊が来るまでに、皆さんを安全な場所へ誘導しましょう…」

その声を最後に、視線はもうこちらに向いていない。


全員が“やるべき仕事”へ戻っていく。

――残された。

瓦礫と血痕の残る部屋。

そして、魔族の残骸の前に立つ、制服姿の少女が一人。


しばらく、誰もいない事を確認してから。

「……ふぅ……」

小さく息を吐く。

肩の力が、すとんと抜けた。

「男の人と話すの……やっぱり、苦手……」

ぽつりと零れた声は、驚くほど弱々しい。


視線を落とし、制服の袖をきゅっと握る。

「……怖くは、ないんですけど……」

少し間を置いて、付け足す。

「……緊張、するだけで……」

誰に聞かせるでもない独り言。

先ほどまでの異様な光景を作り出した存在とは思えない、


ごく普通の、内向的な少女の仕草。

そして、はっとしたように顔を上げる。

「……あ」

小さく首を振る。

「……今のは、忘れてください……」


瓦礫の向こうで、民間人の誘導が進んでいく。

声が重なり、足音が増え、救助の流れが形になっていく。


その少し手前。

ノーザは、振り返るつもりはなかった。

ただ、歩き出す直前――

微かに聞こえた声に、足が止まった。

(今の……)

確かに、聞こえた。

小さく、弱音のような――独り言。

(……いや)

視線を向けた先には、少女が一人立っているだけ。

周囲には誰もいない。

物陰も、瓦礫の裏も、何もない。

(そもそも……誰に言ってたんだ?)

少女は、誰もいないはずの“隣”を見ていた。


正確には――見ている、というより、そこに誰かがいる前提で。

「……そうだね。“私達”も手伝おう……」

柔らかい声。


先ほどの張り詰めた空気とは違う、静かな調子。

一瞬だけ、空気が揺れた気がした。


何かが“そこにある”ような、ないような。

ノーザは、それ以上何も言わなかった。

問いただすことも、声をかけることもせず、ただ向きを変える。

「……よし」


短く息を整える。

「誘導を続けよう。全員、急がず確実にだ」

それだけを告げ、救助の輪に戻っていく。

少女は、少し遅れて歩き出した。

誰の隣でもなく、しかし一人でもないような距離で。


こうして、

ノーザ達は避難誘導に取り掛かる。

そしてこの時点では、まだ誰も知らない。

あの“独り言”が、

この世界の理から、静かに逸脱していることを。


クレインパーティと謎の少女に導かれ、民間人たちは強制労働施設の広間へ集められた。

瓦礫は片付き、出口は確保され、外には連合軍の救助隊が向かっている。

ひとまずの安全。


張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。

「……よし」

ノーザが周囲を見渡す。

「あとは、救助隊が来るまで交代でこの人達を護衛しよう。無理はしない、座れる人は座っていい」

民間人たちの間に、小さなどよめきと安堵の息が広がった。


その少し離れた場所で、少女が壁に背を預ける。

肩の力が抜けたのか、ふう、と小さく息を吐いた。

「……ちょっと疲れました」

場違いなほど静かな声。

「あ、すみません」

何かを思い出したように顔を上げる。

「この世界って……小豆はありますか?」

一瞬、沈黙。

「……は?」


サンが目を瞬かせる。

「小豆? あるにはあるけども……なんでや急に」

ノーザも思わず視線を向けた。

「君は……さっきから“この世界”って……何を言ってるんだ?」


少女は一拍、言葉を選ぶように黙り込む。

そして、困ったように視線を逸らした。

その様子を見ていたヴィヴィが、肩をすくめる。

「……てかさ」

一歩近づいて、気負いのない調子で。

「あんた、名前は?」


少女は一瞬だけ目を見開き、

それから、観念したように小さく頷いた。

「……ショウコ」

胸元に手を添え、はっきりと告げる。

「ニシカワ・ショウコです」

その名は、この場にいる誰のものとも似ていなかった。


響きも、区切りも、この世界のどの国とも合致しない。

ノーザは、その違和感を否定せず、ただ受け止める。

「ショウコ……か」

短く、噛みしめるように繰り返した。

その時、ショウコの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。

警戒でも敵意でもない、

“名乗ったあとの、わずかな安堵”。


その後、連合軍基地――かつて不浄王ウォーカーの居城だった場所から救助隊が到着した。

負傷者は担架に乗せられ、衰弱した民間人には毛布と水が配られる。


泣き崩れる者。

肩を叩き合う者。

言葉もなく、ただ空を見上げる者。

確かに、生き延びたという現実が、そこにあった。

少し離れた施設の中庭。


焚き火が起こされ、夜の冷えを和らげている。

羽音とともに、見慣れた影が降り立った。

荷袋を抱えたまま、軽い調子で声が飛ぶ。

「ノーザ〜、小豆買って来たよー」


その後ろでは、火の前に腰を下ろしたサンが鍋を覗き込み、腕を組んで唸っていた。

「聞いた通りにやってみたんやが……これでエエんか?」

鍋の中では、黒い粒が静かに煮えている。

パンを手渡され、恐る恐るそれを受け取った少女は、

上にのせられた甘い餡を見て、少しだけ目を丸くした。

一口。

もぐもぐと噛みしめる。

「……うん」

小さく、でもはっきりと。

「凄く美味しい……」

焚き火の光に照らされて、表情がふっと緩む。

「こっちの世界じゃ……もう諦めてたから……良かった」


その言葉に、サンが胸を張る。

「そうか! なら成功やな!」

周囲から、くすりと笑いが漏れた。

ほんの短い、穏やかな時間。

その様子を少し離れて見ていたノーザは、

戦場では見せなかった少女の顔を、黙って胸に刻む。

――魔族を皆殺しにした存在。

――得体の知れない力を持つ異邦人。

それでも今は、

小豆を頬張って、少しだけ安心している。

その事実が、なぜか重く、そして不思議と温かかった。

焚き火の影が、地面に揺れる。

その影が、ほんの一瞬だけ――二つに見えた気がして。


ノーザは目を瞬かせ、何も言わなかった。

この夜、

彼女はまだ“謎の少女”のままだ。

けれど、もう――

同じ火を囲む存在には、なっていた。


焚き火の爆ぜる音が、小さく夜気を裂いた。

腕を組んで少女を眺めていたヴィヴィが、率直に口を開く。

「こうして見ると……普通の人間だね」

その言葉に、少女は小さく首を傾けた。

「……そうですか?」

焚き火の向こう側で、ニーナが一歩踏み出す。


柔らかい声だったが、その眼差しは真剣だった。

「ショウコさん……教えて下さい。

 貴女は、何者なんですか?」

一瞬だけ、沈黙。


炎に照らされた少女の横顔は、どこか遠くを見ていた。

「……そうですね」

ゆっくりと、言葉を選ぶように息を吐く。

「貴方達には……話すべきですよね」

視線が、ノーザへ向く。


逃げも誤魔化しもない、まっすぐな目だった。

「私は……この世界の住人ではありません」

焚き火の音が、やけに大きく聞こえる。

「恐らくは……別の世界の、違う時代から来た人間です」


誰も、遮らない。

「ある日……異形の者の能力で、この世界に転移させられました」


言葉は淡々としている。

けれど、その裏に積もった時間の重さは、はっきり伝わった。

「元の場所に戻る方法は……まだ分かりません」

小さく肩をすくめる。


「……信じられますか?」

焚き火を挟んで、沈黙が落ちる。


先に口を開いたのは、ノーザだった。

「……正直に言うと、突拍子もない話だ」

一拍置いて、続ける。


「でも……ここで起きていた事を見た以上、

 君が嘘をついているとは思えない」


少女は、ほんのわずかに目を見開いた。

ニーナが静かに頷く。

「私もです。

 理屈は分からなくても……現象は、確かにありました」


ヴィヴィが頭をかく。

「ま、細かい理屈は後でいいさ。

 少なくとも、あんたが人を助けたのは本当だ」


サンも焚き火をいじりながら、笑った。

「魔族を皆殺しにしとる時点で、只者やないけどな」


その言葉に、少女は少しだけ困ったように視線を逸らす。

「……必要だっただけです」

誰かを誇るでも、責めるでもない声。

「私は……帰る方法を探しています。

 それだけが、ここに居る理由です」


焚き火の火が、静かに揺れていた。

少女は一度だけ視線を落とし、そしてはっきりと顔を上げる。

「あなた達の言う……魔王」



言葉を選ぶように、慎重に続ける。

「確証はありません。

でも……私をこの世界に飛ばした“異形”は、

魔王の異世界への侵出だと……そう語っていました」


空気が、わずかに張り詰める。


「魔王に辿り着けば……帰る方法が見つかる可能性が高い」

一歩、前に出る。

「だから……私も同行させて下さい」

それは懇願でも、命令でもなかった。

事実を述べた上での、静かな提案だった。

一瞬の沈黙。



そして、ノーザは迷いなく頷いた。

「勿論だ」

即答だった。

「こっちからも、是非協力して欲しい」

言葉に、力がこもる。

「君の力は……見せてもらった。

 それに、目的が同じなら――一緒に進む理由は一つしかない」


少女の目が、わずかに見開かれる。


ニーナが微笑む。

「魔族領は……危険な場所です。

 でも、独りより仲間がいた方が、きっと進めます」


ヴィヴィが腕を組んで笑った。

「ま、よろしくね。ショウコ!」


サンは焚き火越しに親指を立てる。

「歓迎や!これでまた一段と、心強なったな」


リーは静かに合掌する。

「縁とは……不思議なものだ」


少女は少しだけ戸惑い、

それから――ほんのわずか、柔らかく笑った。

「……ありがとうございます」


焚き火の影が揺れ、

その横に、少女の影がもう一つ、ほんの一瞬だけ重なった気がした。

こうして――

クレインパーティは、新たな仲間を迎えた。

異質で、謎に満ち、

しかし確かに――強大な力を秘めた存在を。

魔族領の奥へ。

人類の希望と、異世界の少女。

二つの物語は、ここで静かに交差し始める。

このショウコですが、過去作よりも更に前に「怪異探偵」て言うダンダダンをパクったような話書いてたんですが、そのヒロインだったキャラです。セルフゲストみたいな感じで出したかったんです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ