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立ち上げる町

前回救った町を建て直します。

夜明け前の町は、勝利の空気とはほど遠かった。

瓦礫の間を縫うように、町民たちがゆっくりと運ばれていく。


肩を貸され、背負われ、抱えられ――その一人ひとりの体から、限界まで削られた疲弊が滲み出ていた。 


リーに担がれた老人は、力なく目を閉じている。

ヴィヴィの腕に抱えられた子供は、泣く力すら残っていない。


救護班の待つ場所へ向かう道は短いはずなのに、やけに遠く感じられた。

「……ありがとう……」

誰かが掠れた声でそう言った。

それだけで、精一杯だった。


ノーザは少し離れた場所に立ち、その光景を見つめていた。

剣はまだ血の温もりを残しているが、抜く必要はもうない。


今、守るべきものは別の形をしていた。

(これが……最前線の現実……)


胸の奥に、重たいものが沈む。

奪還した町。救い出した人々。

それでも、この場所はまた戦場になる。


魔族が退いた今も、安らぎは束の間に過ぎない。

通りの端には、武装した町民の姿があった。

棍棒、竹槍、刃こぼれした農具。

まともな防具などない。


それでも、震える手で武器を握りしめている。

「次は……いつ来るんだ……?」

答えを求めるというより、自分に言い聞かせるような声だった。


恐怖が、まだ身体から抜けきっていない。

ノーザは目を伏せ、そして静かに歩き出した。

戦いは終わった。


だが、この町が立ち直るまで――それが、本当の仕事の始まりだった。


夜明けを越えた野営地は、焚き火の残り香だけが漂っていた。


各々が装備を解き、ようやく息を整え始めた頃合いだった。


サンは地面に腰を下ろし、肩を回しながら乾いた笑いを零す。

「いや〜、今日のワイら、ホンマモンの軍隊みたいやったな!」


その向かいで、錫杖を布で拭いていたリーが小さく頷いた。

「戦い方が違えば、結果も変わる……これが戦術というものか。新たな教養となった」


少し離れた場所で地図を畳んでいたノーザは、言葉を探すように視線を落としたまま立っていた。

一拍、深く息を吸う。

「……皆、ちょっと相談がある」


焚き火の音が、やけに大きく聞こえた。

ニーナが顔を上げ、穏やかに首を傾ける。

「どうされました?」


ヴィヴィも手を止め、真っ直ぐに視線を向ける。

「改まってるね。なんでも聞くよ」


ノーザは一度だけ、町の方角を振り返った。

瓦礫、地下壕、震える人々の顔。

それを胸に刻み込むように、ゆっくりと口を開く。

「今回の……ギルドからの報酬なんだけど……全部、俺に使わせて欲しい」


言葉が空気に落ちる。

焚き火が、ぱちりと音を立てた。

「ヴァルケンの町を復興させる為に……投資したい。家、井戸、柵……守れる形を残したい」


視線は上げない。

拒まれる可能性も、当然理解している声音だった。

「……ゴメン。イヤなら断ってくれていい。無理にとは言わない。最悪、俺の金だけでやる」


それは命を懸けて得た報酬を、再び手放すという選択。

戦いの後に、もう一度背負う覚悟だった。

野営地に、短い沈黙が落ちた。


焚き火の向こうで、サンが一度だけ鼻を鳴らした。

その短い音に、ノーザの胸がきゅっと縮む。

「……アホかいな?」


一瞬、ノーザは言葉を失った。

やっぱり無理な話だったか――そう思った、その直後。


サンは立ち上がり、ノーザの肩を軽く叩いた。

力はないが、迷いもない。

「んなモン、聞くなや。兄弟の提案やろ?給料くらい喜んで出したるわ」


焚き火の火が揺れ、その影がサンの背中を大きく映す。

冗談めいた口調なのに、そこに計算は一切なかった。

少し離れた場所で、錫杖を地に立てていたリーが静かに目を伏せる。

そして、いつもより柔らかい声で続けた。

「ノーザ殿ならば……あの町の今後を、己の利益より他人の幸福を優先すると察していた」


錫杖に手を添え、ゆっくりと顔を上げる。

「拙僧も同じだ。救える命があるなら、出し惜しむ理由などない」


その言葉に被せるように、ヴィヴィが焚き火の向こうから身を乗り出した。

腕を組み、いつもの自信満々な笑み。

「当然だよ!なんなら、あーしの武闘大会の賞金、一億だって出すよ!」

冗談のように言い切るが、目は真剣だった。

金額の大きさよりも、迷いのなさが際立つ。

「守れた命を、もう一回見捨てるなんてさ……そんなの、あーしの戦いじゃない」


その横で、ニーナが静かに微笑む。

焚き火の光を受けた瞳は、どこか楽しげですらあった。

「ふふ……では、ノーザ様」

一歩、前に出る。

「なにから準備しましょうか?井戸、壁、住居……必要な物は山ほどあります」


その声音に、迷いはなかった。

“やる前提”で、もう考えている。


ノーザが言葉を探していると、背後の闇がふわりと揺れた。

音もなく降り立つ影。

「……アタシ達も、同じだよ」

夜目の利く瞳が、焚き火の輪を見渡す。

「ノーザが決めた事なら、鳥人部隊も協力する。運搬も偵察も、何でもやる」

少しだけ照れたように、翼をたたむ。


「助けられたのは……町の人だけじゃないから」

その瞬間、ノーザは言葉を失った。

胸の奥に溜まっていた重さが、少しずつ溶けていく。


焚き火の前で、深く頭を下げる。

「……ありがとう」

それだけで精一杯だった。

五人と一人。

誰も条件を出さず、誰も損得を口にしない。

この旅で、ノーザが何度も命を預けてきた理由が、そこにあった。


夜明けを迎えたヴァルケンは、静かだった。

しかしそれは安堵の静けさではなく、張り詰めた疲労が町全体に沈殿しているような静けさだった。

通りには、ギルドの救護班が設けた簡易の炊き出し場が並び、湯気の立つ鍋の前には無言の列ができている。


配られるのは、温かいが簡素な食事。それでも人々は黙って受け取り、両手で器を包み込むようにして口に運んでいた。

負傷者の処置も続いている。

応急手当を受けた者、包帯を巻かれた腕を胸に抱える者、毛布にくるまれて壁にもたれる者。

命は助かった。だが、家も仕事も、そして「次は大丈夫だ」という確信も失ったままだ。


軽傷で済んだ者たちの表情も、晴れない。

視線は地面に落ち、時折、町の外れ――昨夜、魔族がいた方向へと向けられる。

いつかまた来る。


その予感だけが、誰の胸にも重く残っていた。

壊れた家屋の前では、棍棒や竹槍を手にした町民が立っている。


防衛と呼ぶにはあまりにも心許ない装備。

それでも、何もしないよりはましだと、自分に言い聞かせるように握りしめていた。

町は救われた。


だが、まだ「取り戻した」とは言えない。

朝の光が差し込んでも、ヴァルケンの空気は重く、冷たいままだった。


炊き出し場の前で、湯気を見つめていた町民たちの間にノーザが、少しだけ息を整えてから声を張る。


「……あの、動ける人は聞いて下さい」


疲れ切った視線が、一斉にノーザへ向けられる。

救護班の職員も気づき、手を止めて振り返った。

「ノーザさん? どうかされたんですか?」


答えるより早く、別の足音が重なった。

都市部の方角から、ヴィヴィとニーナが戻ってくる。

「ノーザ~!買ってきたよ!」

その背後には荷車――、武器の山だった。


町民たちの間から、戸惑いと驚きの声が漏れる。

「あの……それは?」


ヴィヴィが、荷を示すように顎をしゃくる。

「サーベル、レイピア、スピア、グレイブ、メイス、ロングボウ、クロスボウ、。その他いろいろさ」


静かに並べられていく金属の光。

刃こぼれのない剣、手入れの行き届いた槍、張りの残る弓弦。


どれも“間に合わせ”ではない、本物の装備だった。

一歩遅れて、ニーナが穏やかな声で付け加える。

「町民の皆さんの分です。数は足ります」


その言葉が、じわりと場に染み込む。

誰かが冗談だと思いたげに笑い、しかしすぐに息を呑んだ。


これは施しではない。

防衛線でも、徴兵でもない。

ノーザは町全体を見渡し、静かに続ける。

「戦え、とは言いません。無理に持たなくてもいい。でも……守る選択肢は、持ってほしい」


棍棒や竹槍を握っていた手が、わずかに震える。

その視線の先に、初めて“現実的な武器”があった。

町の空気が、ほんの少しだけ変わった。

不安はまだ消えない。

だが、絶望だけではなくなった。


町の外れから、重い車輪の音が響いてきた。

疲弊した空気の中に、その音だけがやけに現実的に響く。

振り返った町民たちの視線の先――

土煙の向こうから、列をなして荷馬車が現れた。

先頭で手を振るサンの声が飛ぶ。

「おう!戻ったで!」


次々と姿を現す荷馬車。

その数は一台や二台ではない。

縄で連結され、等間隔に並び、明らかに“運用”を前提とした編成だった。


荷を引くのは馬だけではない。

角の太い牛が数頭、ゆっくりと歩を進め、

その後ろには――ラヴズよりも一回り、二回りは大きい巨躯の馬が控えていた。

低く鳴き声を上げ、地面を踏みしめるだけで、土が沈む。


ざわつく町民の中を、リーが静かに進み出る。

「資材、農具、工事用具、鋼材、レンガ、製錬窯、醸造台……」

淡々と告げられる品目は、しかし重い。

「牛耕用の家畜、荷役馬、馬車……当面の再建に必要な物資は、すべて揃えられた」


誰かが、思わず息を呑んだ。

武器よりも先に来たのは、

剣よりも槍よりも、生活そのものだった。

サンが荷台に飛び乗り、木箱を叩く。


「武器だけ揃えても町は強ならん。腹が減ったら人は折れる。家が無かったら逃げるしかない」


その言葉は、戦士のものではない。

生き残ってきた者の、実感だった。

ノーザは荷の列を見渡し、ゆっくりと息を吐いた。

(……戦わせるつもりはない)


視線の先で、瓦礫の隙間から子供が顔を覗かせている。

不安と好奇心が混じった目だった。

(ここを、“戻れる場所”にする)

ノーザが一歩前に出る。

「武器は守るため。資材は、生きる為です」


誰かの肩が、ほんの少し下がった。

張り詰めていた何かが、緩む音がした気がした。

「今日から、この町は“次を考える町”になります」


命令ではない。

宣言でもない。

それは――

未来を前提にした、最初の言葉だった。


ノーザの言葉に、ざわめいていた空気が一度、静まった。

資材の山を前に、目を見開いたままのギルド職員が思わず声を上げる。

「ノーザさん!? こんなに……いったい、どこから……!」


問い詰めるというより、信じられないという声音だった。

ノーザは肩をすくめるようにして答える。

「俺達の自前です。慈善じゃない。この町は――強くならなきゃいけない。そういう場所にあるんです」


“施し”という言葉を、はっきりと否定する言い方だった。

代わりに置かれたのは、“投資”という覚悟。

町民たちは顔を見合わせ、やがて一人、また一人と、疲れた身体を押して立ち上がる。

「ノーザさん……俺達、やるよ」

擦れた声だったが、そこに逃げ腰の響きはなかった。

「もう奪われるだけは嫌だ……使い方、教えてくれ。勇者さん」


“守ってくれ”ではない。

“一緒にやる”という申し出だった。


ノーザは、その言葉を正面から受け取る。

「教えるよ。ただし、戦い方じゃない。生き残り方だ」

ヴィヴィが大きくうなずき、拳を打ち鳴らす。

「力仕事なら任せな! 瓦礫も壁も、まとめて片付けるよ!」


リーは資材の内容を一つずつ確認しながら、落ち着いた声で続けた。

「農具と製錬窯があるなら、循環が作れる。鍛冶と修理を同時に回そう」


サンは荷馬車の横で町民に声を掛ける。

「まず腹ごしらえや。動くにも気力が要る。炊き出しはワイが見るで」


ニーナは静かに全体を見渡し、ギルド職員に目を向けた。

「救護と物資の管理、こちらで帳簿を付けます。無駄が出ないように」

その一つ一つが、町を“立て直す言葉”だった。

誰かが笑った。

泣きそうな顔で、しかし確かに前を向いて。

瓦礫の町に、初めて“明日の段取り”が生まれる。

ノーザは胸の奥で、小さく息を整えた。

(……大丈夫だ)

ここは、ただ救われる町じゃない。

自分達の手で、次へ進む町になる。

朝の光が、資材の角を照らしていた。


ヴァルケンの町に、少しずつだが確かな“音”が戻り始めていた。

壊れかけた広場では、ノーザが木剣を手に立っている。

向かいには、年齢も職もばらばらな町民たち。剣を握る手は慣れていないが、目だけは真剣だった。

「力で振るな。相手を見る。怖くなったら、一歩引いていい」


そう言って、ノーザはゆっくりと構えを示す。

派手さはないが、無理のない動きだった。

「守るための剣だ。倒すためじゃない」

その言葉に、誰かが小さくうなずいた。


少し離れた場所では、ニーナが数人を前に静かに詠唱を教えている。

火でも雷でもない、ごく初歩の魔力制御。

「才能より、集中力です。暴れさせないで、流れを感じて」

指先に淡い光が灯り、それを見た町民が息を呑む。

「……本当に、私にも出来るんですね」

「はい。怖がらずに。魔法も道具と同じです」

瓦礫の山では、低い地鳴りのような音が響いていた。


ヴィヴィが巨石を肩で押し、リーが的確に支えを入れている。

「よし、そのまま! あーしが持つから離れて!」

「無理はなさらず。次は梁を抜く」


二人の連携は迷いがなく、町民たちは自然とその動きに倣っていく。


町の外れでは、サンが牛を引きながら畑を見回していた。

集まった町民に、少し照れたように笑う。

「まずは食えるもんや。腹が満たされんと、何も始まらん」

鍬の持ち方、種の撒き方、家畜の世話。

戦場では役に立たないが、生きるには欠かせない知恵だった。

「こんな時やからこそ、土は裏切らへん」

誰かが笑い、誰かが涙を拭った。

夕方、町を見渡すと、完全ではないが確かに変わっていた。

人が集まり、声が交わされ、手が動いている。

瓦礫の町は、まだ傷だらけだ。

だが――立ち上がろうとしていた。

ヴァルケンは、ゆっくりと息を吹き返し始めていた。


仮設厩舎。

荷馬車が何台も並び、資材や食料を積んだ馬たちが行き交っていた。

その中で、ひときわ落ち着いた足取りの牝馬がいる。

ノーザの愛馬ドラグーンラヴズ

――愛称ラヴズ 牝 490kgは首を軽く振りながら周囲を見渡した。

(おい!歩き出す時はもっとゆっくり歩け!

荷物積んでんだぞ!)


声を掛けられたのは巨大な馬車馬 牡 980kg

筋骨隆々、体重は倍近い。

(あ…すみません!)

慌てて速度を落とし、蹄の運びを小さくする。


その後ろでもう一頭、同じく重装備の

馬車馬 牡 1000kg が耳をぴくりと動かした。

(姐さんみたいに丁寧な仕事出来るよう気を付けます!)


ラヴズは鼻を鳴らし、満足そうに一歩ずつ歩き出す。

(よし。それでいい。力があるなら尚更だ。

 運ぶのは荷物だけじゃない、人の希望だ…あとお前達、怪我はするなよ)


馬たちは無言のまま、しかし確かに呼吸を合わせて進み始めた。

その背に揺れる資材と食料は、町の未来そのものだった。

人が立ち直るのと同じように、

馬たちもまた、この町を支える一員として働いていた。


二週間が経過していた。

ノーザ達はすでにサウスダム首都へ引き上げ、ヴァルケンには自警団と最低限の支援体制だけが残されている。

夜明け前。


町中にミネルの声が響き渡る

「敵襲!数60!!」

霧の残る平原を、魔族の先行小隊が進んでいた。数はおよそ六十。


これまで幾度となく、同じ規模でこの町は踏みにじられてきた。


しかし、町の入口に立ちはだかった影を見て、魔族の足が止まる。

「……なんだコイツら!?」


整列する人影は百二十。

サーベル、レイピア、スピア、グレイブ、メイス。

後列には弓とクロスボウ。盾を構える者、間合いを測る者、呼吸を整える者。


もう、棍棒と竹槍の群れではなかった。

「構えろ……!」


先頭に立つ男の声は震えていたが、逃げ腰ではない。

訓練で叩き込まれた姿勢のまま、刃を前に出す。

「行くぞ!俺達ならやれる!」

その一言に、誰も笑わなかった。

誰も逃げなかった。

魔族が吠え、突進する。


次の瞬間、弓弦が一斉に鳴り、矢とボルトが闇を裂いた。

槍が受け止め、盾が弾き、剣が振るわれる。

恐怖はあった。だが、それだけではなかった。

町を守るという意志が、確かにそこにあった。

遠く、城壁の影。

誰もいないはずの場所に、ふと風が抜ける。

この町は、もう「奪われるだけの場所」ではない。

それを証明する戦いが、今、静かに始まっていた


その日の午後。

急ぎラヴズを走らせ、ノーザ達はヴァルケンへ戻ってきた。

町の外れに立った瞬間、違和感に気付く。

瓦礫は増えていない。血の匂いも、混乱の気配もない。


人影が近付いてきた。

武器を持っているが、表情は怯えではなく――胸を張っている。

「全員……無事ですか?」

駆け寄りながら放たれた声に、町の男が一歩前へ出る。


その顔には、疲労と同時に、はっきりとした達成感があった。

「ええ。軽傷者が数人だけです」

続けて、周囲を見渡しながら言葉を継ぐ。

「魔族は……追い返しました。こちらの勝ちです」


息をのむ一瞬。

それを破るように、別の自警団員が笑った。

「鳥人の方々が上空から警戒してくれて……挟撃も出来ました」

視線の先、空を見上げると、遠くで翼がひとつ、円を描いている。

町に集まった人々の顔は、二週間前とはまるで違っていた。

疲れてはいるが、俯いてはいない。

恐怖に縛られていた目に、確かな光が宿っている。

ノーザは、言葉を失ったまま、その光景を見つめていた。

(……守れた)


それは勝利の歓声でも、劇的な逆転でもない。

だが確かに、この町は一歩前へ進んだ。

ニーナが、そっと微笑む。

ヴィヴィが腕を組み、満足そうに頷く。

サンは町の様子を見回し、何も言わずに笑った。

誰も声高に語らなかった。

それで十分だった。

この町は、もう「助けられるだけの町」ではない。

そう確信できる午後だった。


夕暮れのヴァルケン。

復旧の進む町の広場に、人々が集まっていた。

町民の一人が、包みを抱えて前に出る。

その手は震えていたが、目は真っ直ぐだった。

「ノーザさん……これは、ほんの僅かですが謝礼です。あなた方の投資で、俺達はもう一度前に進めます……どうか、お納め下さい」

周囲の町民達も、黙って深く頭を下げる。

それは金の価値以上に、感謝と決意を込めた行為だった。


ノーザは一瞬、言葉に詰まったあと、静かに首を振った。

「……受け取れませんよ。あれはヴァルケンのためにやったことです。町が強くなって、生き延びるための投資ですから」


しかし、町民達は引かなかった。

包みを差し出したまま、じっと立ち続ける。

その空気を感じ取り、ノーザは小さく息を吐いた。

そして包みを受け取り、中を覗き――少しだけ指を伸ばす。


「じゃあ……これだけ」

取り出したのは、ほんの千ダスト。

「皆のコーヒー代ってことで、貰っていきます」

驚きと戸惑いが広場を巡り、やがて小さな笑いが起きた。


それは次第に広がり、町全体を包み込む。

ノーザは包みを返し、背を向ける。

仲間達もそれに続いた。

振り返ることなく歩き出す背中を、町民達はいつまでも見送っていた。

こうしてヴァルケンは、再び歩き出した。

そしてノーザ達もまた、次の戦場へ向かって進んでいく。

今回買って来た武器はエルデンリングを参照してます。


町民の尊厳の為に武器を寄付したノーザ

金も取った上で私兵にしたワイアット

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