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仲間と新たに

ノーザの心のケア回です。

これ書いててノーザはいい人にし過ぎたと思います。

ワイアットなら裏切り者の悲鳴を肴に酒飲むくらいはしそうなのに

※タイトル忘れたので直しました

ノーザは夜中に目が覚めた。

薄暗い宿の天井が、ぼんやりと視界に映る。

喉が焼けるように痛い。

胸の奥も、まだ締め付けられている。

あの後――



叫び疲れ、膝から崩れ落ちた自分を、仲間たちが黙って担ぎ上げ、この宿まで運んだことだけは、断片的に覚えていた。

身体を起こそうとして、やめる。

少し動いただけで、全身が鈍く悲鳴を上げた。

(……生きてる)


その事実が、安堵より先に、重くのしかかる。

脳裏に蘇るのは、血の感触でも、骨の砕ける音でもない。


自分の腕が、迷いなく振るわれた感覚だった。

六道斬り――六ノ型。

地獄道。


人に使う技じゃない。

分かっていた。

分かっていたのに、止まらなかった。


(俺は……)


短期間とはいえ、同じ釜の飯を食い、同じ道を歩いた相手だった。

裏切られた。

仲間を傷つけられた。

それでも――


(殺す必要が、あったのか……?)


答えは出ない。

出ないまま、胸の奥がひりつく。

感情に任せて剣を振るったこと。

怒りを制御できなかったこと。

勇者として以前に、人として越えてはいけない一線を、自分は踏み越えたのではないか。

六道を握った感触が、まだ左手に残っている気がした。


血の重さも、落下の勢いも、八度跳ねた感覚も。


ノーザは顔を覆った。

(……魔王を倒す覚悟、だなんて)


そんな綺麗な言葉で、今日のことを塗り替えてはいけない。

塗り替えられるほど、軽いことじゃない。

部屋は静かだった。

仲間たちの寝息も聞こえない。


――だが。

軋む音が、微かにした。

扉が、静かに開く。

ノーザは顔を上げなかった。

誰が来たのか、分かっていたからだ。

足音が、近づく。

ベッドの脇で止まる。

しばらく、何も言わない気配。

そして、柔らかく、しかしはっきりとした声が落ちてきた。

「……起きてますね、ノーザ様」


ニーナだった。

ノーザは、しばらく黙ってから、低く答えた。


「……ごめん」

それは、何に対しての謝罪か、自分でも分からなかった。


ニーナは答えない。

代わりに、椅子を引く音がして、静かに腰掛けた。

「……謝る必要は、ありません」


そう言いながらも、声は少し震えていた。

「ですが……後悔している顔は、してます」


図星だった。

ノーザは、ようやく顔を上げた。

暗闇の中でも分かるほど、ニーナの表情は真剣だった。

「俺は……」

言葉が、途中で詰まる。

「仲間を……殺した」


ニーナは、即座に否定しなかった。

その沈黙が、むしろ優しかった。

「……ええ」

短く、認める。


「でも同時に、私たちは助かりました」


ノーザは歯を食いしばった。

「それでも……俺は、あんな技を……」


「使いましたね」

ニーナは、真っ直ぐに言った。

「怖かったです。

正直に言えば……あの時のノーザ様は」


一瞬、言葉を選び。


「――勇者ではありませんでした」


ノーザの胸が、きしむ。

だが、次の言葉は、想像していたものとは違った。

「でも」


ニーナは、静かに続けた。

「逃げませんでした。

責任からも、結果からも」

立ち上がり、そっとノーザの手を取る。

「泣いて、苦しんで、後悔している。

それが出来る人は……もう、化け物ではありません」


ノーザの喉が、鳴った。

「……許されると、思うか?」


ニーナは、少し困ったように笑った。

「それは……分かりません。

でも」


彼女は、はっきりと言った。

「私たちは、ノーザ様と一緒に歩きます。

今日のあなたごと、です」


その言葉が、堰を切った。

ノーザは、静かに、だが確かに震え始めた。

歯を食いしばり、声を殺して。

ニーナは、何も言わず、ただ隣に座り続けた。

夜は、まだ長い。

だが――

ノーザは、この夜を一人ではなかった。


扉が、また小さく軋んだ。

ノーザが顔を上げる前に、分かってしまう。

この足音は、忍ぶようで、でも隠しきれない。


「……ノーザ……」


低く、少し掠れた声。

ニーナが振り向く。

「ヴィヴィさん……」


ヴィヴィは一瞬、立ち止まった。

いつものように豪快に踏み込むでもなく、腕を組むでもない。

少し迷ってから、ノーザの反対側に腰を下ろした。

しばらく、誰も話さない。

沈黙に耐えきれなくなったのは、ヴィヴィの方だった。


「ノーザ……」

名前を呼ぶだけで、喉が鳴る。

「そもそもさ……リコを仲間に入れようなんて言い出したのは、あーしだよ」


ノーザの肩が、僅かに揺れた。

「だから……ノーザが辛い目に遭ってるのは、あーしにも責任がある」


ヴィヴィは視線を落とした。

拳を握りしめているのが、はっきり分かる。


「リコが怪しいかも、って思った時もあった。

でもさ……ノーザが優しくするの見て、“大丈夫なんだ”って、勝手に思い込んだ」


声が、少し震える。

「それで……結果がこれだ」


ヴィヴィは、ぎこちなく笑った。

「笑えないよね」

ノーザは、何も言えなかった。

代わりに、ニーナが静かに口を開く。

「……ヴィヴィさんだけの責任ではありません。

私も……見抜けなかった」


ヴィヴィは首を振った。

「違うよ。

あーしは……ノーザに全部背負わせてた」


そこで、ようやくノーザを見る。

「ノーザはさ、いつも“俺がやる”って言うだろ。

あーし達が傷つく前に、自分が前に出る」

少し間を置いて。

「……それが、あーしは好きだった」

ノーザの喉が、詰まる。


「でもさ」

ヴィヴィは、無理に明るく言おうとして、失敗した。


「今日のは……重すぎた。

あーし、初めて見たよ。ノーザが“壊れそう”になるとこ」


ノーザは、俯いたまま、かすれた声を絞り出した。

「……俺は、止まれなかった」

ヴィヴィは、即答しなかった。

代わりに、ゆっくりと手を伸ばし、ノーザの腕に触れる。


力は込めない。ただ、そこに居ると伝えるように。

「止まれなかったんじゃない」


ヴィヴィは言った。

「止めなきゃ、皆が死んでた」


ノーザが、僅かに顔を上げる。

「だから……あーしは、あれを“間違い”とは言わない」


言い切るように。

「正解でもない。でも……必要だった」


ニーナも、小さく頷いた。

「私も同じです」

ヴィヴィは、ノーザを真っ直ぐに見た。

「ノーザ、あーしはね……

あんたが“何でも出来る勇者”で居続けるより」


少し照れたように、視線を逸らし。

「……こうやって、悩んで、後悔して、泣きそうになる方が、ずっと信じられる」

一瞬、静寂。

次の瞬間、ノーザの肩が大きく震えた。

声を殺そうとしたが、堪えきれなかった。

「……ごめん……」

短い嗚咽。

「……俺は、皆を守りたいだけなのに……」

ヴィヴィは、乱暴ではないが、はっきりとノーザの背中を叩いた。


「それでいいんだよ」

少し強めに、もう一度。


「守りたいって言える奴が、間違える事もある。

でも、守ろうとした事まで否定すんな」


ニーナも、そっとノーザの手を握る。

「ノーザ様が壊れてしまったら……

私たちは、もっと困ります」


ノーザは、二人の手を感じながら、深く息を吐いた。

夜は、まだ終わらない。

だが、胸を締め付けていた重さは、ほんの少しだけ、和らいだ。

――一人じゃない。

その事実が、今は何よりも、救いだった


ノーザは、しばらく俯いたまま動かなかった。

肩に乗った重さが、消えない。

胸の奥に沈んだものが、言葉にならない。


ノーザは強い。

剣を握れば迷わず前に出るし、誰かが傷つくなら自分を差し出せる。

知恵も、覚悟も、志もある。

――だが。

ノーザは、勇者である前に、人間だった。

唇が震えた。

「……俺は……」

声が、途切れる。

「……あんな……あんな技……」

喉の奥が詰まり、言葉が崩れた。

「……人に、使うつもりじゃ……なかった……!」

その瞬間だった。


ヴィヴィが、ぐいっとノーザの肩を引き寄せた。

「ほら……!」

強引だけど、乱暴じゃない。

逃げ場を塞ぐみたいに、胸を差し出す。

「胸、貸してやるからさ。気が済むまで泣けよ」

ノーザの額が、ヴィヴィの胸元に当たる。


「我慢すんな」

ヴィヴィの声は、震えていなかった。

怒りでも、叱責でもない。

「……あーしが好きなノーザはね」

少しだけ、声を落として。

「優しくて、仲間の事ばっか考えてて、

それでも……ちゃんと笑ってる男だよ」

その一言が、最後の堤防を壊した。

ノーザの肩が、大きく跳ねた。

「……っ、……ぅ……!」

歯を食いしばっても、止まらない。

「……ごめ……ごめん……!」

声が、子供みたいに裏返る。

「……俺……俺……!」

言葉にならない後悔と恐怖が、一気に溢れ出した。

「……あいつを……斬った……!」


喉が裂けるような声。

「……仲間だったかもしれない奴を……

俺の手で……!」


ヴィヴィは、何も言わず、ノーザの背中を抱きしめた。

逃がさない。

突き放さない。

ただ、受け止める。

ノーザは、完全に崩れた。

声を殺す事もせず、嗚咽を隠す事もなく、

子供のように、みっともなく、大泣きした。

その背に、もう一つ温もりが加わる。


ニーナだった。

ニーナは、そっとノーザの腕に触れ、指を絡める。

「……ノーザ様」

静かで、優しい声。

「立ち直れるまで……いいえ」

少し、強く握る。

「立ち直れなくても……私は、お側にいます」


ノーザの涙が、止まらない。

「……俺……怖い……!」

吐き出すような本音。

「……また……誰かを……!」

ヴィヴィが、はっきりと言った。

「それでも、前に立つんだろ?」

ノーザは、答えられない。

ヴィヴィは続ける。

「だったらさ……泣く時くらい、全部出しちまえ」


ニーナも、小さく頷く。

「壊れたまま戦うより……

泣いて、戻ってきてください」


ノーザは、二人に支えられたまま、

夜が明けるまで、泣き続けた。

勇者としてではなく。

英雄としてでもなく。

――ただの、人間として。

そしてそれは、

ノーザが“勇者であり続けるために必要な夜”だった。


翌朝、薄い朝霧が宿の外に漂っていた。

ノーザは一人、軒先に腰を下ろしていた。

夜は越えたが、眠りは浅く、胸の奥はまだ重い。

そこに、足音がひとつ。

リーが、僧衣の袖を揺らしながら近づいてきた。

「ノーザ殿……」

ノーザは顔を上げる。

「リー……」

短い呼びかけだけで、続きを言えなかった。

リーは隣に立ち、同じ空を見上げる。

説法の前の、僧の沈黙。

やがて、低く穏やかな声が落ちた。

「お気持ちは察する……」

責めるでも、慰めるでもない声。

「ノーザ殿は……一人の人間として……優し過ぎるのだ」


ノーザの指が、ぎゅっと握られる。

リーは続ける。

「仲間の為なら……その身を修羅にも、獄卒にも落とす事すら厭わぬ……」


一拍。


「それは、勇気ではある」

しかし、と静かに言葉を区切る。

「……同時に、業でもある」

ノーザは俯いた。

リーは、責めない。

ただ、事実を語る。

「仏門ではな……“地獄に堕ちる覚悟がある者ほど、地獄を恐れる”と説く」


ノーザは、わずかに息を呑む。

「ノーザ殿は、地獄を恐れている」

リーは、はっきりと言った。

「それは……まだ、心が人である証だ」

ノーザは、震える声で問いかける。

「……それでも……俺は……」

言葉が続かない。

リーは、ノーザの方を向いた。

「迷い、悔い、嘆く事を……罪だと思ってはならぬ」

そして、ゆっくりと。


「もし、何も感じず斬れる者であれば……

拙僧は、ノーザ殿を“勇者”とは呼ばぬ」

ノーザの目が、わずかに見開かれる。


「苦しみを知り……

それでもなお、剣を取る者を……人は勇者と呼ぶ」

朝霧が、少しずつ晴れていく。

リーは、最後にこう告げた。


「地獄道を斬った事を……忘れるな」

ノーザは、息を詰める。

「だが……囚われるな」

リーの声は、穏やかで、確かだった。

「ノーザ殿は……まだ、こちら側にいる」

そう言って、僧は軽く一礼する。

「……拙僧は…上手な救いの言葉は持たぬ」

少しだけ、柔らかく微笑む。


「だが……共に歩く事は出来る」

ノーザは、しばらく黙っていた。

そして、深く、頭を下げた。


「……ありがとう、リー」

リーは何も言わず、朝の空に向き直る。

鐘の音は鳴らない。

経も唱えない。

それでも――

確かに、ノーザの胸の奥に、一本の支えが打ち込まれた朝だった。


朝の空気は、まだ少し冷たかった。

ノーザは宿の外、木の柵にもたれて空を見ていた。

昨夜よりは呼吸が落ち着いているが、目の奥の疲れは消えていない。


少し離れた場所で、サンがその様子を見ていた。

胸の内では、言葉が何度も渦を巻いていた。

(勇者がいつまでもくよくよしてるんやないで!!)


(前向いて歩けや!!)


――そんな言葉が、喉まで来て、引っ込む。


(……言える状況や無いな)

サンは歯を食いしばった。

(過ちや、間違いなんて軽いモンやない、兄弟は……重いモン背負ってもうたんや……)

サンは大きく息を吐き、覚悟を決めて歩み寄った。

「兄弟……」


ノーザはゆっくり振り向く。

「サン……」

それだけで、サンは分かった。

無理に元気を装っていない。


だからこそ、逃げずに言わなければならない。

サンはノーザの前に立ち、少しだけ照れたように頭を掻いた。

「なぁ……ワイな……」

一瞬、言葉を探す。

「正直言うて、どう声かけたらええか分からへん」

ノーザは何も言わない。

サンは続けた。

「軽い事ちゃうし、笑って済む話やない」

「せやけどな……」

サンの目が、真っ直ぐノーザを捉える。

「ワイは逃げへん」

一歩、近づく。

「ワイも一緒に背負ったる!!」


はっきりとした声だった。

「ワイとお前はな……実の兄弟以上の仲や!」

「お前の傷は……ワイの傷やで!!」


拳を胸に当てる。

「お前が立ち止まるなら、ワイも止まる」

「お前が前に進むなら、ワイは横におる」


少しだけ、声が震れた。

「一人で英雄気取るなや……」

「そんな役目、ワイはお前一人に押し付ける気は無い」


ノーザの肩が、わずかに揺れた。

サンは、最後に照れ隠しのように笑った。

「……せやから、背負い過ぎて潰れそうになったら」


「ちゃんと、ワイに寄りかかれや」

ノーザは、しばらく俯いていた。


そして――

ぽつりと、声を漏らす。

「……ありがとう、サン」

サンは鼻を鳴らす。

「今さらやな…兄弟やろ」

その一言で、場の空気がほんの少しだけ、軽くなった。


ノーザはまだ立ち直っていない。

剣も、完全には戻っていない。

それでも――

背負う重さを、分け合える場所は、確かにここにあった。


サンは、しばらく黙っていた。

そして、ふと思い出したように、空を見上げる。

「……覚えとるか?」


ノーザは答えなかったが、

その沈黙が「覚えている」という返事だった。


森の中は、血と焦げた匂いが混じっていた。

倒れ伏す男。

鎧は裂け、脚は血に染まり、呼吸も荒い。

その前に、剣を下げた青年が駆け寄る。


「大丈夫か? 立てる?」

手を差し伸べながら、周囲を警戒する視線。

「無理なら……馬で送るよ」


その様子を見て、少し後ろで魔法使いが微笑む。

「……ノーザ様♡ 優し過ぎます♡」


横から、女戦士が呆れたように声を上げる。

「ニヤニヤしてないで、手貸しな!」


負傷した男――サンは、歯を食いしばりながらその光景を見ていた。

(なんやコイツ……見ず知らずの相手やぞ……)

肩を貸され、馬に乗せられ、村まで運ばれた。

治療が終わった後。

夜、焚き火の前。


サンは立ち上がり、深く頭を下げた。

「この恩は……一生忘れへん!」

勢いよく顔を上げ、真っ直ぐに言った。

「今日からワイとお前は兄弟や!!」

「ワイも一緒に命賭けさせてくれ!!」

少し驚いた顔のノーザ。

困ったように笑って、こう返した。


「……大袈裟だな…でも、無事で良かったよ」


その一言が――

サンにとっては、十分すぎる答えだった。


現在――

サンは、ノーザの前に立つ。

「なぁ……あの時からや」

拳を握る。

「ワイは兄弟達と、常に共にあるんや」

一歩、踏み出す。

「お前が剣を振るう時も」

「迷った時も」

「間違えた時も」

視線は逸らさない。


「お前が嫌でもな……」

少し笑う。


「ワイは、お前に喜んで命預けたる!!」

静かな朝の空気の中で、その言葉は重く、確かだった。


ノーザの喉が震える。

「……サン」

サンは照れ隠しにそっぽを向く。

「今さらや言うたやろ」


ノーザは、ゆっくりと拳を握り返した。

その拳は、まだ震えている。

だが――独りではなかった。


サンが去り、朝の空気が少し落ち着いた頃。

ノーザが一人で立っていると、背後から羽音が微かに聞こえた。

ミネルが、少し距離を保ったまま立っていた。

翼を畳み、視線を下げている。

「ノーザ……」

言葉を探すように、少し間が空く。

「アタシ、人間の価値観とは……少し違うかもしれないけど……」

視線を上げる。

その目は迷いで揺れていた。

「あの時……宿の中で……アタシがニーナを助けられてたら……ノーザは、あんな風に傷つかなくて済んだのかな……とか……」


小さく首を振る。


「それとも……ニーナが助かったのは……全部ノーザのお陰で……」


「どっちも……本当な気がして……」

言葉が絡まり、止まる。

しばらく沈黙。

ミネルは胸元で手を握りしめてから、はっきりと言った。

「でも……」

真っ直ぐ、ノーザを見る。

「ノーザは、間違ってない」

「それは……アタシでも分かるよ」


翼が、少し震える。

「誰も……ノーザを責めたりなんかしない」

「責めてるのは……ノーザ自身だけだよ」


ノーザは、何も言わなかった。

ただ、深く息を吐いた。

ミネルは一歩近づき、少し照れたように視線を逸らす。

「だから……」

「アタシは……ノーザの後ろで飛ぶよ」


小さく笑う。

「前に立つほど強くないけど……」

「ノーザが迷ったら……ちゃんと見える場所にいる」

朝の光が、二人の間に差し込む。

ノーザは、ゆっくりと頷いた。

それだけで、ミネルは十分だった。


悩み、泣いて、自分を責め尽くした夜が、ようやく明け始めていた。


ノーザは立っていた。

まだ胸の奥は痛む。

後悔が消えたわけじゃない。

だが――もう、独りではなかった。


ヴィヴィが一歩前に出る。

腕を組み、いつもの強気な顔で睨みつけるように言った。

「いい加減にしな自分ばっかり責めるなよ、

ノーザ」

ヴィヴィは拳を自分の胸に叩きつける。

「あーしら仲間だろ、一人で全部背負うなんて、そんなの許さないからね」


サンが豪快に笑い、ノーザの肩を強く叩いた。

「そうや!お前の業、ワイら全員で背負ったる!」

真っ直ぐな目で言い切る。

「一人で地獄行くつもりやったら、最初から旅なんてせえへん!兄弟や言うたやろ。逃げ道は最初から塞いどるんや」


リーが静かに前へ出る。

錫杖を地に立て、低く、しかし揺るがぬ声で告げた。

「ノーザ殿が……もし自身を人殺しの悪鬼と呼ぶのであれば……」

一拍、間を置く。


「拙僧達もまた、共に悪鬼に成り下がろう」

リーの眼差しは澄んでいた。

「ノーザ殿が堕ちると言うなら……地獄であろうと、修羅であろうと、共に堕ちる」


最後に、ニーナがノーザの前に立つ。

その声は優しく、しかし迷いがなかった。

「ノーザ様……私達は……

最初から覚悟していました」


そっと胸に手を当てる。

「堕ちる事も」

「誰かを傷つけてしまう重さも」

「それを背負い続ける苦しさも」


ニーナは、はっきりと言った。

「それでも……ノーザ様と共に歩くと決めたのです」


ノーザは、しばらく何も言えなかった。

視界が滲む。

喉が詰まる。

だが――

ノーザは、ゆっくりと拳を握った。

「……ありがとう」

声は震えていたが、逃げてはいなかった。

「俺は……忘れない」

「逃げもしない」

ノーザは仲間一人一人を見た。

「でも……もう、一人では背負わない」

深く息を吸う。

「それが……俺が立ち上がる条件だ」


朝の光が、ノーザの背中を照らしていた。

勇者は、再び歩き出す。

傷を抱えたまま。

仲間と共に。

――それでも、前へ。


予定より、少しだけ長い滞在になった。

傷を癒し、心を立て直し、

そして――失われたものと向き合う時間。


村外れの小さな丘。


簡素な墓標の前に、ノーザは立っていた。


言葉はない。


怒りも、憎しみも、もう口にはしない。


ノーザは一輪の花を供え、静かに目を伏せた。


リコが何者だったのか。


どんな歪みを抱えていたのか。 


それを理解し切れる日は、来ないかもしれない。

それでも。


ノーザは背を向ける。

「……行こう」

振り返らない。

だが、忘れもしない。

仲間達が黙って歩き出す。

誰も急かさず、誰も責めず、ただ同じ方向へ。

こうして、クレインパーティは再び旅に出た。

傷も、後悔も、業も抱いたまま――

それでも、仲間と共に。

次回からいつも通り旅します。くよくよするキャラは好きじゃないので

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