鳥人の少女
続きです、ちょっと異種族の仲間が欲しいと思っていたので
ヘルヴェティア連邦・山岳訓練区画。
切り立った岩肌と針葉樹が連なる山中を、ノーザは一人で駆けていた。
息は乱れていない。
脚も重くならない。
だが、楽でもない。
ノーザは岩を蹴り、倒木を跳び、獣道を選ぶように進んでいく。舗装された道など最初から存在しない。地形そのものが訓練場だった。
(なるほど……)
ノーザは走りながら、周囲を見渡す。
(素の状態で、常時バフが掛かってるくらいの身体能力と心肺機能が前提か……)
ヘルヴェティアの兵士訓練は、魔法やスキルに頼らない。
頼るのは身体、判断、そして経験だけ。
制限時間は夕暮れまで。
それまでに街へ戻れなければ、評価は失格。
ノーザは一度、深く息を吸い、吐いた。
「……よし」
ペースをわずかに落とし、足運びを滑らかにする。無駄な力を抜き、呼吸を一定に保つ。
派手な動きはしない。ただ、確実に、速く、長く。
山の静寂の中、風を切る音だけが続く。
山中の空気が、わずかに歪んだ。
ノーザは走る足を止め、即座に周囲へ意識を広げる。
それは訓練で叩き込まれた反射ではなく――感覚だった。
胸の奥で、ちり、と警鐘が鳴る。
(……今のは……)
リコが安全対策として付与してくれたスキル。
“危機察知“が静かに反応していた。
敵意ではない。
だが、人間でもない。
ノーザは足音を殺し、木立の影から慎重に踏み出す。
「……誰か居るのか」
返事は、すぐには無かった。
だが次の瞬間、かすかな羽音と、押し殺した呼吸が聞こえた。
倒木の向こう。
岩陰の奥。
そこにいたのは――人ではなかった。
褐色がかった羽毛に覆われた翼。
人の形をしていながら、明らかに異なる輪郭。
腕ではなくフクロウを思わせる羽と、琥珀色の大きな瞳。
異種族だった。
だが、その姿は痛々しい。
片翼は不自然に垂れ、羽根には血が滲んでいる。
足元には、転倒した痕跡と、無理に移動しようとした跡。
そして――ノーザと目が合った瞬間。
「――っ!」
少女はびくりと身体を震わせ、必死に後ずさった。
だが、傷ついた足が言うことを聞かず、岩に背を打ち付ける。
「いや……来ないで……!」
震える声。
明らかな恐怖。
「見逃して……! アタシは……アタシは、魔王軍じゃない……!」
必死に訴えるように、翼で身体を庇う。
その仕草は、戦意とは程遠い。
ノーザは、すぐには近づかなかった。
剣にも、魔法にも手を掛けない。
ただ、視線を外さず、静かに言葉を返す。
「落ち着いてくれ。俺は攻撃するつもりはない」
少女の瞳が、さらに大きく見開かれる。
「……本当……?」
声がかすれている。
警戒と怯えが、ないまぜになった表情。
ノーザはゆっくりと、両手を見せるように下げた。
「俺はヘルヴェティアの訓練に参加してる冒険者だ。ここで誰かを狩るつもりはない」
一歩、また一歩と、距離を詰める。
だが、一定の距離は保ったまま。
少女は逃げようとして――叶わず、唇を噛みしめた。
「……お願い……」
その声は、戦場のそれではなかった。
追い詰められた“獣”の声でもない。
ただ、生き延びたいと願う、誰かの声だった。
ノーザは、確信する。
(……敵じゃない)
それどころか――
この森で、助けを必要としている側だ。
ノーザは、静かに息を吐いた。
「大丈夫だ。……まずは、その怪我を見せてくれ」
少女は一瞬だけ迷い、
それから、力なく頷いた。
ノーザは少女の前に腰を落とし、距離を保ったままポーチを下ろした。
逃げ道を塞がない位置。視線も、真正面から外す。
「触るぞ。応急処置だけだ、痛かったらすぐ言ってくれ」
そう告げてから、鎮痛剤と回復薬を取り出す。
慣れた手つきで包みを開き、水筒を差し出した。
少女は一瞬だけ迷い、それでも小さく頷いて薬を飲み下した。
顔をしかめるが、拒む様子はない。
ノーザは羽毛の流れを確かめながら、血で固まった部分を避けて回復薬を塗っていく。
直接触れる前には必ず声を掛け、急がず、乱暴にならない。
「……鳥人なんて初めて見た。こんな深い山で、しかも怪我をして……何があった?」
問いかけは静かだった。
少女は俯いたまま、指先を握りしめる。
「魔族に追われて……アタシは戦えないから、逃げるしかなくて……。でも、ヘルヴェティアの人達は強いって聞いてたから、助けて欲しい気持ちはあった。でも……人間が怖くて……」
言葉の端々が揺れる。
恐怖と、期待と、後悔が混じった声だった。
包帯を巻き終え、ノーザはそっと手を離す。
「この国は確かに強い。でも、強いからこそ弱ってる奴を見捨てない。少なくとも俺はな」
短く、しかし迷いなく言った。
「夕暮れまでに街に戻る訓練中だ。歩けるなら一緒に来い。ここに一人で残す気はない」
背を向け、選択肢だけを残す。
少女は少し遅れて立ち上がり、小さく息を整えた。
「……行く」
その声には、先程までの怯えはもう無かった。
山を下る途中、ノーザは歩調を落とし、並ぶ位置に合わせた。
怪我の様子を気にしながら、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば、名乗ってなかったな。俺はノーザ、ノーザン・クレイン。冒険者だ」
それだけ告げると、視線は前の山道へ戻す。
詮索しない、名だけ置く――そんな距離感。
少し遅れて、羽毛を揺らしながら答えが返ってきた。
「……ありがとう、ノーザ。アタシはミネル、ミネル・ヴァリエ。フクロウの鳥人族」
その声は、先ほどよりも落ち着いていた。
ノーザは小さく頷き、進路を確認する。
ミネルが転ばぬよう、自然に外側を歩き、庇う位置を取る。
こうして二人は並び、夕暮れの山道を下っていった。
ヘルヴェティアの街へと続く、細く確かな帰路を。
街道が途切れ、石造りの門が見え始めたところで、ミネルの足が止まった。
フクロウの羽がわずかに強張る。
ミネルは門と兵士の視線を気にしながら、声を落とす。
ここが異種族との共存を掲げる国ではないことを、肌で理解しているようだった。
「やっぱり……目立たないかな。ここ、異種族と普通に暮らす国じゃないでしょ……?」
ノーザは一度ミネルを見て、次に門の様子を確認する。
一瞬で状況を飲み込み、荷袋に手を伸ばした。
取り出したのは、首から下げる簡素なカードケース。革紐付きで、使い込まれた痕がある。
「じゃあ……これ着けといて」
ミネルの首元に、慣れた手つきで掛ける。
ミネルは胸元のそれを見下ろし、小さく首を傾げた。
素材も装飾も地味で、ただの札にしか見えない。
「……なに、これ?」
ノーザは歩き出しながら、あっさりと説明する。
「現地契約証。現地徴集兵とか、臨時雇いが付けるやつだよ、これ着けてればミネルは“俺のパーティ預かり”って扱いになる」
門を見据えたまま、続ける。
「兵士も面倒な詮索はしない。少なくとも、いきなり捕まったりはしないよ」
ミネルは少し驚いた顔でカードを握り、
それから、ほっと息を吐いた。
「……用意が良すぎない?」
「冒険者やってるとね。国ごとの“通りやすい方法”は自然と覚える」
ノーザは肩をすくめるだけだった。
ミネルはカードケースを胸に下げ直し、
ほんの少しだけ、背筋を伸ばしてノーザの隣に並ぶ。
こうして二人は、何事もなかったかのように門へ向かった。
――フクロウの鳥人を連れた冒険者としてではなく、
正規の同行者とその保護対象として。
訓練場の外れ。
夕暮れ前、帰還報告を終えたノーザとミネルは並んで街路を歩いていた。
結果は――不合格。
とはいえ、失望や落胆といった空気は不思議とない。
街を行き交う人々の視線は、確かに一瞬ミネルに集まる。
フクロウの羽、金色の瞳、人間ではない輪郭。
だが、それもほんの一瞬で、誰も足を止めて声を掛けてくることはなかった。
兵士も、商人も、ただ「そういう同行者なのだ」と受け取って通り過ぎていく。
ミネルは、歩きながら何度か周囲を見回し――
ようやく肩の力を抜いた。
「……本当に、大丈夫なんだね」
「でしょ?ミネルは今、“クレインパーティの預かり”だからさ。変に突っ込む方が面倒になる」
「へぇ……冒険者って、思ってたより現実的……
理屈と制度を味方にすると、生きやすくなるんだ」
その背中に、ミネルは小さく笑った。
そして宿屋。
扉を開けた瞬間――空気が弾けた。
「おや、ノーザ殿。そちらの方は……?」
「おーい!!兄弟が女連れてきたでぇぇぇ!!!」
「なんだと!?」
「ノーザさま〜!!いくらなんでも酷いです!!」
一斉に視線が突き刺さる。
ミネルは一瞬、羽を逆立てかけたが、
次の瞬間――
「……皆、まず“人間じゃない”ところを気にしようよ」
場が一拍、止まる。
「説明してください!今すぐ!詳しく!!」
「フクロウやん!珍しっ!」
「落ち着かれよ、皆……」
ミネルは完全に圧倒され、思わずノーザの背中に半歩隠れた。
「……これが、冒険者パーティ……?」
「まあ……だいたい、こんな感じ」
リコは一歩引いた位置でミネルを観察し、
表情は穏やかだが、視線はどこか測るようだった。
「……なるほどね」
誰にも聞こえないほど小さく、そう呟く。
騒がしい声が宿屋に響く中、
ミネルは初めて――
この場所が「安全な場所」だと、心から感じ始めていた。
宿屋の一階。
木の長テーブルいっぱいに、大皿料理が並べられていた。湯気と香草の匂いが部屋に満ちる。
サンが腕まくりのまま、最後の一品を置く。
狩人らしい豪快さの中に、どこか家庭的な手際の良さがあった。
ミネルは少し緊張した様子でスプーンを取り、恐る恐る口に運ぶ。
次の瞬間、目を丸くした。
「……美味しい……」
思わず漏れた声に、翼がぴくりと動く。
「人間って……こんなの食べてるんだ……」
それを見て、向かいに座っていたサンが満足そうに笑った。
「せやろ? 香辛料は控えめにしてん。ミネルちゃんの口に合うとええ思てな」
ミネルは何度も頷きながら、もう一口すくう。
羽毛の間から覗く横顔は、警戒よりも純粋な感動でいっぱいだった。
その様子を眺めていたヴィヴィが、ふと思い立ったように立ち上がる。
ぐいっと距離を詰め、興味津々といった顔で翼に手を伸ばした。
「うわ……ふわふわ……!」
指が触れた瞬間、感触に驚いて声が弾む。
「本当に羽毛だよ……!どうなってんのかと思ってたけど!」
ミネルは一瞬びくっとしたが、拒む様子はなく、少しだけ翼を広げた。
「……触られるの、嫌いじゃないよ。森じゃ同族しかいなかったし」
そのやり取りを見ながら、ノーザは静かに椅子に腰掛けたまま、料理に手を伸ばす。
特別な事はしていない。ただ、同じ卓を囲んでいるだけだ。
少し遅れて、ニーナがミネルの皿を見て微笑む。
「お口に合って良かったです。人間の食事も、悪くないでしょう?」
ミネルは照れたように頷き、また一口運ぶ。
翼の緊張は、いつの間にかすっかり解けていた。
異種族だとか、立場だとか。
今この卓では、ただ「同じ釜の飯を食う仲間」だった。
食事が一段落し、皿が下げられたあと。
ノーザはミネルの包帯の様子を改めて確認しながら、穏やかな声で言った。
「怪我が治るまでは、俺たちのパーティにいなよ。無理に一人で動く必要ない」
ミネルは一瞬、きょとんとした顔をしてから視線を落とす。
翼をすぼめ、少し遠慮がちに続けた。
「ありがとう……でも、大丈夫?
あたし、あんまり戦えないし……それに鳥人って結構目立つんじゃないかな?」
その言葉に、間を置かず横からヴィヴィの声が飛ぶ。
「気にしなくていいよ!異種族なら既にミノタウロスがいるし」
そう言って、ニヤリと笑いながら隣を見る。
「……?」
一瞬の静寂のあと、ニーナがぴしっと背筋を伸ばし、にこやかに言い返した。
「そうですよ。喋るゴリラもいますから」
視線は真っ直ぐヴィヴィへ。
「……は?」
椅子がギギッと鳴り、ヴィヴィが立ち上がる。
拳を握りしめ、こめかみに青筋。
「誰がゴリラだこの乳牛!!」
「言ってませんよ?
“喋る”ゴリラとしか」
「ほぼ名指しじゃねえか!!」
テーブルの向こうで、ミネルは目を丸くしたまま二人を交互に見ている。
その様子を見て、ノーザが小さくため息をついた。
ヴィヴィとニーナの睨み合いが続く中、
ミネルは二人をじっと見比べて、真剣な顔で口を開いた。
「え?……じゃあニーナ、やっぱりミノタウロスだったの?確かに……大きいとは思ってたけど……!」
一瞬、空気が凍る。
次の瞬間、テーブル越しに勢いよく身を乗り出す影。
「真に受けるんやない!!」
派手なツッコミが部屋に響いた。
「冗談や冗談!!
ミノタウロスがあんな清楚な顔しとるかいな!!」
「……」
ニーナが無言で拳を握りしめる。
額に青筋が一本。
「……サンさん?」
低い声で名前を呼ばれ、
サンは即座に視線を逸らした。
「す、すまん!今のは擁護や!擁護!!」
一方で、ミネルは慌てて両手を振る。
「えっ!?ち、違うの!?
ごめん!てっきり異種族が普通のパーティかと……!」
その様子を見て、ノーザが思わず吹き出す。
「……ミネル、天然だな」
ミネルはきょとんと首を傾げ、翼を小さく揺らした。
「え?そうかな?」
その無自覚さに、
場の空気は一気に緩み、
ニーナとヴィヴィも思わず言い返すタイミングを失った。
「……」
「……」
代わりに、二人同時にため息。
こうして、
フクロウの鳥人は、
この騒がしいパーティに――
何の疑いもなく溶け込み始めていた。
「……まあ、こんな感じだけどさ」
肩をすくめて、苦笑い。
「ミネルが目立つかどうかなんて、今さらだよ」
その言葉に、ミネルは一瞬きょとんとし、
やがて小さく、くすっと笑った。
「……うん。じゃあ、お言葉に甘えようかな」
翼が、少しだけ軽く広がった。
翌朝。
まだ薄暗さの残る時間帯、宿の食堂には既に明かりが点いていた。
ミネルは大きく欠伸をしながら、翼をたたんで椅子に腰掛けている。
「おはよ……う。人間って、朝……早いね……」
目の下にうっすら隈。完全に夜行性のそれだった。
向かいの席では、湯気の立つ鍋をかき混ぜながら豪快な声。
「おはようさん!飯は皆で食わなあかんからな!」
その時――
背後から、穏やかな声がした。
「おはよう」
反射的に返事をしようとして、
フクロウの鳥人はそのまま――
「……あ、ノーザ。おはよう」
ぐるん。
首、180度。
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「ぎゃーーーーーー!!??」
椅子が倒れ、食器が跳ね、
誰かが思わず武器に手をかけた。
「首!!首取れた!!」
「後ろ向いたまま喋っとる!!」
騒然とする中、
本人だけがきょとんと瞬きをする。
「あ……ごめん。クセで……」
そう言って、
今度は逆方向に、コキッ、と首を戻す。
「フクロウ族、首……よく回るんだ」
説明する声は至って穏やか。
しかし。
「説明の問題ちゃうわ!!」
「心臓に悪すぎる!!」
「今のは完全にホラーです!!」
半泣き混じりの抗議が飛ぶ中、
当の本人は申し訳なさそうに翼をすぼめた。
「驚かせちゃった?
後ろから声かけられると、つい……」
その様子を見て、
ノーザは一拍置いてから苦笑する。
「……なるほど。便利だけど、初見には刺激が強いな」
「うん。気をつける」
素直に頷くミネル。
その天然な表情に、
朝の食堂は再びざわめきに包まれた
サンの回復薬と魔法による治療は目覚ましい効果を発揮していた。
森の外れ、開けた場所で――
ミネルは軽く助走をつけ、そのままふわりと宙へ舞い上がる。
「うん! だいぶ羽が軽いよ!」
小さく円を描くように飛び回るが、
風を切る音が、まるで聞こえない。
地上でそれを見上げていたヴィヴィが、思わず目を丸くする。
「凄……なんだそれ……羽ばたいてるのに、音が全然しない……」
ニーナは腕を組み、感心したように頷く。
「やはり……フクロウ族の翼ですね。
羽根の縁が櫛状になっていて、空気の乱流を分散させる構造だと文献で読みました」
ミネルは空中でくるりと体を反転させ、
そのまま――真後ろから、音もなく着地する。
「こうやって飛ぶと、獲物に気づかれないんだ」
背後に立たれていたノーザが、一瞬遅れて振り返る。
「……今、いた?」
「うん。後ろ」
「やめてくれ、心臓に悪い」
真顔で言うと、ミネルは少しだけ申し訳なさそうに翼をすぼめた。
「ごめん……でもこれ、フクロウ族だと普通で……
夜は特に、音を立てる方が難しいくらい」
サンが腕を組み、感心半分、呆れ半分で笑う。
「なんやそれ……完全に暗殺者の才能やないか」
「違うよ。狩り」
即答だった。
ヴィヴィがニヤリと笑う。
「つまり……気配ゼロで索敵できて、夜目が利いて、首が回って、空も飛べる?」
ミネルは少し考えてから、首を傾げる。
卓に並んだのは、サン特製の具だくさん朝飯。
焼き肉、卵、パン、そして――山盛りの野菜。
皆が箸を伸ばす中、ミネルだけが少し困った顔で皿を見つめていた。
手羽をもじもじさせてから、申し訳なさそうに口を開く。
「あ、あの……ごめんね……アタシ、野菜は消化できなくて……」
一瞬、空気が止まる。
料理を取り分けていたサンが、きょとんとする。
「……ん? 嫌いなんか?」
首を横に振り、少しだけ胸を張る。
「嫌いじゃないよ。ただ……完全に肉食だから。
草とか穀物、体が受け付けないんだ」
ニーナが思わず資料を思い出すように頷く。
「なるほど……消化器官が猛禽類型なんですね。
腸も短いでしょうし、植物繊維は確かに……」
ヴィヴィは自分の皿の野菜を見てから、ミネルを見る。
「じゃあ……この山盛りサラダ、全部無理?」
「うん。お腹壊す」
即答だった。
「弱っ!?」
ノーザは苦笑しつつ、皿を入れ替える。
「じゃあ肉多めでいいよ。無理して食べなくていい」
その一言に、ミネルの目が少しだけ丸くなる。
「……いいの?」
「当たり前だろ。種族が違うんだから」
そう言って肉皿を差し出すと、
ミネルは一瞬ためらってから、ぱっと表情を明るくした。
「ありがとう……!人間って、優しいね」
サンは鼻で笑い、肉を追加で焼き始める。
「せやから言うたやろ。
遠慮せんでええ、ウチは自由主義やねん」
ミネルは頷き、
肉だけを綺麗に平らげていく――驚くほどの速さで。
ヴィヴィが目を細める。
「……完全に猛禽類だね」
「うん。夜行性で、肉食で、音なく飛ぶ」
そう言って、何でもないことのように笑った。
「だから……戦えなくても、役には立つよ?」
誰も否定しなかった。
怪我は癒え、警戒は解け、
ミネルはいつの間にか仲間の空気に溶け込んでいた。
種族も、生き方も違う。
それでも、不思議とその距離は近かった。
ヘルヴェティアという国は、
戦争と共に生き、
強さを誇り、
それでいて他者を拒まない。
その空気が、
この小さな一行をも包み込んでいるようだった。
ノーザは思う。
ここは、ただ剣を振るうための国ではない。
覚悟を磨き、仲間を知り、
自分自身と向き合うための場所だ。
ミネルという新たな存在は、
戦力ではないかもしれない。
だが、視野を広げ、
世界の広さを教えてくれる――そんな出会いだった。
今日も街は活気に満ち、
訓練場では鋼が鳴り、
遠くでは笑い声が響く。
クレインパーティの旅は、
止まることなく前へ進む。
この国で、
彼らはまだ知らない試練と、
まだ出会っていない強者と、
避けられない衝突が待っている。
新たな仲間を加えて――
ヘルヴェティアでの旅は、今日も続く。
今回の話の為フクロウの生態調べたんですけど面白いですね




