強さと青春
スイスがモデルの国です。ここで更に強くなる為の準備をします
ストロダンは救われた。
街を覆っていた黒煙は消え、焼け落ちた区画には復興の槌音が響き始めている。
そして――
魔族幹部を退け、街を守り抜いた功績により、
彼らは正式にB級冒険者へと昇格した。
もはや駆け出しではない。
上級冒険者の領域へと、確かに足を踏み入れたのだ。
城門前。
朝の光の中、装備を整えた一行の前に、一人の剣士が立っていた。
黒い外套を翻し、静かに彼らを見送る女剣士。
その表情はいつもの冷静さを保ちながらも、わずかに名残を滲ませている。
「……行ってしまうのか」
低く、落ち着いた声。
剣を携えた者同士にしか分からない、短い間に生まれた信頼がそこにあった。
腕を組んだ女戦士が、からっと笑う。
「おう! でもまた会う約束だろ!!
次は実力だけで勝ってやるから覚悟しときな!」
その言葉に、女剣士は小さく息を吐いた。
「……ふふ。楽しみにしておこう」
少し遅れて、ノーザが一歩前に出る。
「こちらこそ助けられたよ。
あの場に来てくれなかったら、街はもっと被害が出てた……ありがとう」
真っ直ぐな感謝に、女剣士は一瞬だけ目を細め、そして視線を逸らした。
「私は……復興が完了するまでは、しばらくこの街に拠点を置く。本来の形を取り戻すまでは…剣士としてこの街を守る所存だ…」
そう告げ、彼女は一行を順に見渡す。
「貴殿達の旅路が、これからさらに険しくなる事は分かっている。
だが――」
一拍置き、静かに言葉を結ぶ。
「武運長久を祈ろう。
幸運と、勇気を」
それは祝福であり、同時に剣士としての敬意だった。
軽く拳を胸に当てる女戦士。
黙って一礼する僧兵。
親指を立てて笑う狩人。
そして、何も言わず、確かな決意だけを宿した瞳で応える青年。
やがて、一行は歩き出す。
ストロダンを背に、
魔王へと続く、より危険な戦場へ。
その背中を、女剣士はしばらくの間、黙って見送っていた。
次に会う時は――
互いに、さらに強くなって。
街道は穏やかだった。
ストロダンから伸びる石畳を外れ、草原へと続く道を一行は並んで歩いている。
背後には、救われた街。
前方には、まだ名も知らぬ次の国。
馬の手綱を引きながら、前を見据えていた青年が、ぽつりと呟く。
「……色々あったな、この国」
その言葉に、隣を歩くニーナが小さく笑う。
「本当に。
武闘大会、幹部級との戦闘、街の復興……短期間とは思えないほど濃密でした」
少し後ろで、大きく伸びをしながらヴィヴィが声を上げる。
「でもよ!
楽しかったじゃん! 強い奴と戦えて、剣も新しくなってさ!」
腰に下げた紅蓮の剣が、陽光を受けて鈍く輝く。
「前より、ずっとしっくり来るよ。
前の剣も好きだったけど……今は、ちゃんと“戦士”になれた気がする」
その言葉に、リーが歩調を合わせながら頷いた。
「武器だけではない。
心構えも、立ち振る舞いも……皆、変わった」
錫杖を軽く鳴らしながら、続ける。
「戦う理由を考え、守る覚悟を選び取った。
それは確かな成長だ」
少し離れた位置で、サンが陽気に笑う。
「堅いこと言うのぉ。
まあでも、B級になったのは伊達ちゃうって事やな」
振り返り、仲間を見回す。
「昔なら、街一つ守る戦いなんて無理やったやろ?
今は違う。ちゃんと“戦力”や」
最後尾で歩いていたリコが、興味深そうに首を傾げる。
「確かに。
スキルの質も、使い方も……前より洗練されてる」
そして、少しだけ意味深に付け足した。
「特に――
“選ばれる側”の条件は、もう十分に揃ってきてる」
その言葉に、馬上の青年が苦笑する。
「またややこしい言い方を……
俺はまだ、魔王に辿り着く途中だよ」
だが、否定はしなかった。
歩いてきた道を振り返り、そして前を見る。
「でも……
この国での経験が、次に繋がるのは間違いない」
女魔法使いが、柔らかく頷く。
「はい。
次は、もっと厳しい土地になるでしょう」
女戦士が、拳を握りしめる。
「望むところだね。
あーし達、もう後戻りはしないんだから!」
草原の先、遠くに次の国の影が見え始めていた。
そこには、
新たな試練、
新たな出会い、
そして――さらなる覚悟が待っている。
ノーザ達は、さらに前線へと歩を進めた。
辿り着いたのは――
山岳の国、ヘルヴェティア連邦。
険しい山々に囲まれ、谷と谷を縫うように都市が築かれた国家。
地理的にも軍事的にも、魔族領土に近い人類側国家の一つだった。
この国から防衛軍へ出兵している者も多い。
街道には物資を積んだ軍用馬車が行き交い、城門には常に武装した兵が立っている。
だが――
都市は、奇妙なほど活気に満ちていた。
鎧姿の兵士が、パン屋の前で焼き上がりを待ちながら世間話をしている。
武器を背負った男達が酒場で笑い合い、
子供たちは、剣や槍を目にしても泣かない。
それは慣れだった。
ヘルヴェティアは、何十年もの間、魔王軍と隣り合わせで生きてきた国だ。
この国では、国民皆兵制が採用され
平時であっても、国民の多くが戦闘訓練を受けており、有事には――
最大二十万人の兵を、瞬時に配備することが可能とされている
農民も、職人も、商人も。
誰もが「守られるだけの民」であることを良しとしない。
この国の人々は祖国を守るのは、英雄でも、王でも、神でもない。自分達自身だという事を知っている。
国民全員に覚悟と準備が有った。
だからこそ、
この国にとって魔族との戦いは「非常事態」ではなかった。
恐怖はある。
犠牲も出る。
だがそれは、日常の延長線上にあるもの。
季節が巡るように。
雪が降り、春が来るように。
――起こりうる出来事の一つとして、
彼らは戦争を受け入れている。
そんな国に、
魔王討伐を目指す冒険者達が、足を踏み入れた。
この地で求められるのは、
派手な英雄譚ではない。
覚悟と、実力。
ヘルヴェティア連邦は、戦争特需国家でもあった。
前線に近いということは、すなわち物流の要衝であるということ。
補給路が集中し、街道は常に物資で溢れている。
鍛冶場では昼夜を問わず槌の音が鳴り、
防具職人は注文を断るほど仕事に追われ、
薬師の店には高品質な回復薬が並ぶ。
食料は豊富で、保存技術も進んでいる。
軍の需要に応えるため、街全体が“滞らない”構造を持っていた。
傭兵、冒険者、商人。
そしてそれを支える職人と市民。
さらに特筆すべきは、
魔族素材が大量に、そして合法的に流通していることだった。
魔族の皮、骨、血晶、魔核。
本来であれば高級品、あるいは禁制品になり得るそれらが、
この国では「実用品」として扱われている。
武器に、防具に、薬に、建材に。
魔族は“脅威”であると同時に、
“資源”として明確に位置づけられていた。
戦争は人を殺す。
だが同時に――街を太らせる。
ノーザは、歩きながら思った。
ここは、戦争に怯えている国ではない。
戦争と共に生きてきた国だ。
恐れないわけじゃない。
悲しまないわけでもない。
だが、この国の人々は知っている。
「戦争は、避けられない現実である」ということを。
だからこそ、彼らは備える。
逃げるのではなく、受け止め、耐え、勝つために。
そんな街を歩いていて、
ふと隣から呆れたような声が漏れた。
「……てか、ただの通行人ですら、なんか強そうやな」
視線の先では、
荷物を担いだ老人が背筋を伸ばして歩き、
市場の女商人が、短剣を腰に下げたまま値段交渉をしている。
この国では、
“戦える”ことは特別ではない。
大通りは、人で溢れていた。
だが騒がしいというより、整っている。
荷馬車は規則正しく行き交い、
鎧姿の兵士が巡回しながらも、店先では気軽に世間話をしている。
子供たちは木剣を振り回し、転んでも泣かずに立ち上がった。
歩きながら、思わず漏れる。
「……思ってた以上に、活気があるな……」
視線を巡らせる。
どこを見ても、疲弊や怯えはない。
あるのは“慣れ”と“自信”だった。
少し後ろを歩くリコが、興味深そうに街を眺めながら続ける。
「山脈や大河っていう自然の要塞に加えてさ、軍の防衛体制が異常に強いらしいよ。
魔族ですら“割に合わない”って理由で、この国の攻略を避けるって噂だ」
その言葉に、周囲の兵士が苦笑して肩をすくめる。
そんな時だった。
重い足音。
振り返ると、そこにいたのは――
分厚い鎧に身を包んだ、熊のような体格の男。
肩章からして、明らかに将校クラス。
だが表情は厳めしいどころか、やけに気さくだ。
「おう!冒険者さんよ!ようこそヘルヴェティアへ!」
豪快な声に、周囲の市民がちらりとこちらを見るが、誰も警戒しない。
むしろ「またか」といった空気だ。
男は親指で街の奥を指し示した。
「ここはな、冒険者の修練場もある。
腕を磨きたいなら、これ以上ねぇ場所だぜ?」
ぐっと胸を叩く。
「兵士も冒険者も関係ねぇ。
強くなりたい奴は歓迎だ。
生き残りたい奴もな」
その言葉に、通りすがりの商人が笑って口を挟む。
「修練場でボコボコにされて、鍛冶屋で装備直して、酒場で愚痴って、また挑む。
それがこの国の日常さ」
別の市民が肩をすくめる。
「戦争? そりゃ怖いさ。
でも備えない方が、もっと怖いだろ?」
誰も声を荒げない。
誰も英雄を気取らない。
それでも――
この国の空気は、はっきりと“強い”。
ノーザは、無意識のうちに拳を握っていた。
(……ここでは、覚悟が無いと生き残れないな)
逃げ場はない。
誤魔化しも効かない。
ここは、
強さを“選択”する国ではなく、
強さを“前提”として生きる国だ。
将校の男が、にやりと笑った。
「どうだ冒険者さん?
この国で、一段上に行ってみる気はあるか?」
ノーザは、静かに息を吸い――
そして、はっきりと頷いた。
修練場の方角を見据え、軽く拳を握る者。
新しい剣を背負い直し、気合い十分に鼻を鳴らす者。
地図を眺めながら、次の段取りを頭の中で組み立てる者。
錫杖を鳴らし、静かに呼吸を整える者。
そして――
その背中を、何より誇らしげに見つめる者。
「やったるで兄弟!」
陽気な声が、空気を切り裂く。
「当然だろ!あーし達、この国で一段階強くなるんだ!」
拳を突き上げる勢いは、もう戦場に立つ者のそれだった。
「僕も……サポートはするよ。役に立てる範囲でね」
少し控えめだが、視線は真剣だ。
「日々鍛錬あるのみ、か……」
低く呟き、歩幅を合わせる影が続く。
そして――
一番後ろから、柔らかく、それでいて確かな声。
「ノーザ様……♡」
その一言で、全員の視線が自然と前を向いた。
遠くに見える修練場。
これから先に待つであろう、厳しい日々。
強者に囲まれ、甘えの許されない土地。
だが、誰一人として不安そうな顔はしていない。
――やってやろう。
――ここで、もっと強くなる。
そんな覚悟が、言葉にせずとも共有されていた。
ヘルヴェティア連邦。
戦争と共に生きる国。
この地で、
ノーザ達は次の段階へと進む。
ヘルヴェティアには、冒険者ギルドが存在しなかった。
それは決して制度の遅れではなく、この国が選び続けてきた在り方だった。
国民は皆、働き、学び、鍛える。
兵であれ職人であれ農民であれ、「有事には祖国を守る」という意識は生活の一部として根付いている。
そのため、外から訪れる冒険者に“仕事”を与える必要がない。
代わりにこの国が与えるのは、
時間と環境だった。
能力を磨くための訓練場。
情報が自然と集まる酒場。
新たな縁が生まれる街路。
冒険者にとって、次の戦いへ向かうための“準備期間”に最適な国。
それが、ヘルヴェティアだった。
初日は、何も予定を入れなかった。
街を歩く二人の足取りは、久しぶりに戦場を離れた者のそれだった。
石畳はよく整備され、建物は堅牢でありながらどこか温かみがある。
通りには焼き立てのパンの香りが漂い、鎧姿の兵士が店主と笑いながら言葉を交わしている。
隣を歩くニーナが、思わず息を吐く。
「……綺麗な街並みですね」
感嘆というより、安心に近い声だった。
それを聞いたノーザは、周囲を見渡しながら小さく頷く。
「戦場が近いとは思えないよな」
子どもたちは木剣を振り回しながら走り回り、転んでも誰も慌てない。
剣や槍は日常の風景であり、恐怖の象徴ではなかった。
ニーナは少しだけ歩調を緩め、空を見上げる。
「この国の人たち……戦うことを、特別なことだと思っていないんですね」
「うん。守るって決めてるから、怯えないんだろうな」
そう答えながら、無意識に腰の剣に手を置き、すぐに離した。
街路樹の影を抜け、風が二人の間を通り抜ける。
ニーナの髪が揺れ、その横顔はどこか柔らかい。
「……こういう時間も、悪くないですね」
少し照れたような声音。
ノーザは一瞬だけ言葉に詰まり、視線を前に戻した。
「……ああ。たまには、な」
戦いも、決断も、まだ先だ。
ヘルヴェティアでの初日は、ただ静かに流れていった。
ノーザとニーナは並んで歩いていた。
通り沿いには鍛冶屋やパン屋、訓練場が立ち並び、どこも活気に満ちている。
前方から、制服姿の学生たちが数人、楽しげに話しながら歩いてきた。
剣を背負った少年と、書物を抱えた少女。
互いの肩を軽く小突き合い、笑い声を弾ませてすれ違っていく。
ニーナは、その様子を目で追ったまま、ふっと表情を緩めた。
「……いいですね。ああいうの……」
ノーザは足を止め、隣を見る。
「ニーナ? 学生がどうかした?」
ニーナは少しだけ視線を伏せ、指先をもじもじと絡めた。
「私……魔法学校時代は、勉強しかして来なかったので……ああいう、放課後に友達と寄り道したり、くだらない話をしたり……そういうのに、憧れてたんです……」
ノーザは一瞬考えてから、意外そうに目を瞬かせた。
「え? ニーナって、昔から優等生で人気者だったんじゃないの?」
ニーナは即座に首を横に振る。
「いえいえいえ!全然です!!席は常に一番前、休み時間は魔導書、昼休みは一人で詠唱練習!同級生からのあだ名は“歩く魔導書”でした!」
ノーザは思わず噴き出した。
「それは……なかなかだな」
ニーナは少し頬を膨らませる。
「笑わないで下さい!自覚はありますから!話しかけられても、話題が全部“理論式”か“魔力効率”で……今思えば、青春を自分から全力で破壊してました……」
そう言ってから、ニーナは学生たちが去っていった方向をもう一度見た。
今度は、どこか柔らかい微笑みだった。
「だから……今、こうして歩けているのは……その……悪くないなって、思うんです」
ノーザは照れたように頭を掻き、歩き出す。
「そっか。じゃあ今が、ニーナの青春ってことでいいんじゃないか?」
ニーナは一拍遅れて、ぱっと顔を上げた。
「……それは…ずるい言い方ですね……」
そう言いながらも、歩幅を合わせ、少しだけ距離を詰める。
ヘルヴェティアの街並みの中、二人の影は並んで長く伸びていた。
ニーナは少しだけ間を置いてから、ちらりと横を見る。
「……ノーザ様は……学生時代は、どんな感じだったんですか?」
ノーザは一瞬だけ考えるような顔をして、あっさりと言った。
「中卒だよ!」
ニーナがぴたりと足を止めた。
「……え?」
「王都の学校に通うより、村の手伝いと馬と剣の修行してた畑耕して、馬の世話して、木刀振って、夕方にはくたくた」
あまりにも爽やかに言うものだから、ニーナは言葉を失う。
「そ、それは……青春とか……そういうのは……?」
ノーザは首を傾げた。
「青春?うーん……牛が脱走したのを皆で追いかけ回したのは楽しかったかな」
「それは青春じゃなくて労働です!!」
思わずツッコミが飛ぶ。
ノーザは少しだけ笑った。
「でもさ、嫌じゃなかったよ村の皆で飯食って、馬と走って、剣振って俺はああいうのが好きだったんだと思う」
ニーナは黙って聞いていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……ノーザ様らしいですね勉強漬けで、誰とも話さなかった私とは……正反対」
ノーザは歩調を緩め、ニーナを見る。
「でも今は一緒に歩いてるだろ学生じゃなくても、遅れてても、まあいいじゃないか」
ニーナは一瞬きょとんとし、すぐに視線を逸らした。
「……本当に……」
小さく呟きながら、また歩き出す。
二人の距離は、さっきよりも自然に近くなっていた。
ヘルヴェティアの街では、学生たちの笑い声がまだ遠くに響いている。
それを背に、ノーザとニーナは“今の自分たちの時間”を歩いていった。
学生たちの笑い声が遠ざかる。
少しだけ視線を落としたニーナが、指先でスカートの端をつまんだ。
「……あの頃の私は、つまらない人間だったと思います。
勉強しか取り柄がなくて、冗談も言えなくて……」
ノーザは少し考えてから、歩調を緩めた。
「俺はさ」
ニーナの方を見ず、前を向いたまま続ける。
「その頃のニーナがいたから、今のニーナがいるんだろ」
一瞬、ニーナが言葉を失う。
「真面目に積み重ねてきた時間を、つまらないなんて言うなよ。
それ、誰にも真似できない強さだ」
照れたように、少しだけ笑って付け加える。
「……俺は、そういう人を尊敬する」
ニーナの頬が、ゆっくり赤くなる。
「ノーザ様……♡」
胸の前で手を握りしめ、小さく呟いた。
「そんな事を言われたら……
あの頃の私も、報われた気がしてしまいます……」
街の喧騒の中、二人の距離がほんの少しだけ縮まった。
穏やかな空気が流れていた――その時だった。
石畳の向こうから、地響き。
ヒヒィィンッ!!
土煙を上げて、ラヴズが通りに滑り込む。
その背に跨ったヴィヴィが、指を突きつけて叫んだ。
「イチャイチャすんなあぁぁぁー!!」
「ヴィヴィ!?」
ノーザが振り向いた瞬間、ニーナの肩に回しかけていた“何もしていないはずの距離”が、なぜか現行犯扱いされる。
「さっきから見てたよ!!
しんみり歩いて!目合わせて!空気甘くして!!
青春ごっこかコラァ!!」
「ご、誤解だ!」
ラヴズが得意げに鼻を鳴らす。
(そうだそうだ!イチャイチャすんな!)
「ちなみに言っとくけどさ!!
あーしは小卒だよ!!家も貧乏だったしね!」
間髪入れず、ニーナが冷静に返す。
「自慢になってません」
「ぐぬぬ……!」
ノーザが頭を抱える。
「なんで急に学歴の話になるんだ……」
ラヴズの背で腕を組み、ヴィヴィがふんぞり返る。
「いいかい?
青春とか学生時代とか、そういうしんみり路線はあーしのいない所でやりな!学歴の話はあーしに効く」
「勝手にストーカーしてたクセに……」
ニーナは小さくため息をつき、しかしどこか楽しそうに微笑んだ。
「……ありがとうございます、ヴィヴィさん
おかげでいつもの日常に戻れました」
「でしょ!?
ほらノーザ、行くよ!訓練だ訓練!!」
「……はいはい」
ノーザは苦笑しながら歩き出す。
その背中を見つめて、ニーナは小さく呟いた。
「……さっきの言葉、忘れませんからね」
もちろん――
その声は、誰にも聞こえていなかった。
騒がしく去っていく三人と一頭を、建物の影から静かに見送る影があった。
石壁にもたれ、腕を組んだまま、小さく息を吐く。
「……やれやれだね」
声は軽い。
呆れとも、面白がっているとも取れる曖昧な調子。
視線の先では、ヴィヴィがまだ何か喚いていて、ノーザがなだめ、ニーナが苦笑している。
その光景を、少しだけ首を傾げて眺める。
「本当に……騒がしいパーティだ」
指先で、自分のスキルウィンドウをなぞるような仕草。
だが、何かを操作するわけでもなく、ただ触れて、やめる。
「……まあ、今はいいか」
影から離れ、通りの喧騒に紛れる。
その日の夜。
宿の一室、簡素なテーブルを囲んで、自然と全員が集まっていた。
ランプの灯りの下、地図と簡単なメモが広げられる。
戦闘ではなく、明日の段取りを決めるための時間だ。
ノーザが口を開く。
「俺は明日は訓練場に行ってみる。ヘルヴェティア式の訓練、少し気になる」
この国に来てから、ずっと感じていた“地力の違い”。
それを埋めるには、まず自分からだと判断した様子だった。
リコは軽く手を挙げる。
「僕は……要らないスキル持ってる人探して、買取でもしてこようかな。こういう国、意外と掘り出し物が多いんだ」
どこか商人めいた、けれど自然な口調。
この時点では、まだ違和感はない。
サンは椅子に深く座り、腕を組む。
「ほなワイは街の鍛冶と商人回ってくるわ。物資の流れ見とくんは無駄やない」
リーは静かに頷く。
「拙僧は修練場と医療区画を見て回る。…この国の兵の治療法、興味がある」
ヴィヴィはベッドに腰掛け、剣を手入れしながら。
「あーしは軽く体動かすだけでいいや。昼間の街、思ったより疲れたしね」
最後に、ニーナがノーザの隣で手帳を閉じる。
「私は情報整理と連絡役を。何かあれば、すぐ合流できるようにしておきます」
全員の予定が揃う。
ノーザは一度全員を見回し、短く言った。
「じゃあ、各自自由行動。ただし――無理はしない」
「了解」「おう」「行意」
それぞれが立ち上がり、部屋を出ていく。
最後にランプを消す直前、
リコがふと振り返る。
「……明日も、面白い一日になりそうだね」
誰に向けたとも取れないその言葉は、
夜の静けさに、静かに溶けていった。
オマケ
本編から二十数年後
暖炉の火が静かに揺れる、どこか落ち着いた屋敷の一室。
「でもさ……父さんと母さんも、旅の反動だと思うんだけど。引退してからは結構遊んだらしいぞ?」
向かいに座る銀髪の女騎士が、紅茶を口に運びながら首を傾げる。
「伝説の勇者と大魔導士でも、やはり……。ちなみに、どのようなことを?」
少し考える仕草のあと、肩をすくめて答える。
「俺が一歳くらいの頃かな。母さんが突然、魔法学校の制服を引っ張り出してきてさ」
一瞬の間。
「……で、子連れで“コスプレ制服デート”したらしい。俺を抱っこしたまま」
紅茶を吹きかけそうになり、必死に耐える女騎士。
「えぇ……」
言葉を失い、視線が宙を泳ぐ。
「ノーザ様はどうされたんですか?」
「最初は止めたらしいけど、その後は普通にノリノリだったって」
完全にドン引いた沈黙。
「…あと、俺が3才の頃だ、リリィが産まれる前は大分デカい腹で俺を連れて…」
「……我が君…もう結構です……」
どこか遠い目で、二人は沈黙
――なお、この話を当の本人たちにすると
「記憶にございません」
と、揃って即答されたという。
ニーナは実は滅茶苦茶高学歴です。
学生時代のニーナ↓
福島ナガト https://www.pixiv.net/users/118222108




