火山より熱い女戦士
今年初投稿、素材集め回です。ヴィヴィって炎属性の剣士だから主役張れそうとたまに思います
武闘大会の翌日。
ストロダンの石畳の街道には、まだ昨日の熱狂の名残が漂っていた。
人混みの中、一人の若い女性が声を弾ませながら駆け寄ってくる。
「え、あの……ヴィヴィアンさんですよね!?
昨日の大会……見てました!ほんと、凄かったです!」
包帯を巻いた頭をかきながら、ヴィヴィが苦笑する。
「へへ……ありがとよ!」
ニーナが横からそっと支える。まだ歩くだけでもフラついているようだ。
「昨日の決勝が“女戦士対決”だった事もあって、女性ファンが急増しましたね……。
治療院の前にもファンのお見舞いの行列ができていましたし……」
ヴィヴィが照れたように頬を掻く。
「いや、そんな……あーしまだ全然弱いし……強いのはカーミラだったさ……」
女性ファンは嬉しそうにほほ笑み、走り去る。
去っていく背中を眺めながら、ヴィヴィがぽつりと呟く。
「……なんか、変な感じだよね。
あーしみたいな田舎の民兵出身が……」
ニーナが優しく微笑む。
「昨日のヴィヴィさんは、とても勇敢でした。
あの試合を見て、勇気を貰った人は多いはずです」
「……そっかな」
「はい。
だからこそ、今日はしっかり休んでください。
――男子組に働いてもらいましょう♪」
ヴィヴィの顔がぱっと明るくなる。
「それいい!!あいつらしばらく働いてなかったしね!!」
ニーナは微笑みつつ
(今日は女性組の休息日です)
そう、今日はヴィヴィは療養、ニーナは付き添いで休みとなった、一方でノーザ達はギルドの任務や旅の準備を進める
素材集めのサン&リコ組
依頼内容:
「オーギュス火山周辺でレア鉄鉱石・魔鉄鉱石の採掘」
火山の噴煙が遠くでゆらめき、地熱で空気が揺らぐ赤茶けた地帯。
サンが深呼吸しながら腰に手を当てる。
「よっしゃ!
ここが噂のオーギュス火山やな!
岩も土も全部カッチカチやけど……こんなもん、ワイらで余裕や!」
その横で、リコが地面にしゃがみ込み、熱気を測るように手をかざす。
「うん、この辺の魔力密度……すごいね。
採れる鉱石もきっとレア物ばかりだよ」
サンが振り向く。
「ほなリコ!アレ頼むで!」
リコが微笑み、片手をサンの肩に触れた。
「了解。じゃあ……君の“採掘向けのスキル”を組み込むよ」
指先に淡い光が灯り──
「スキルインクルード!」
光がサンの腕へ流れ込み、筋肉が一瞬だけ脈打つ。
サンが目を丸くする。
「おおっ……!?
なんや腕が軽うなった気ぃするで……!」
リコが得意げに胸を張る。
「採掘上昇Lv4。
掘るスピードだけじゃなくて、硬い鉱石を砕く精度も上がるからね。
サンなら、きっとこの辺の岩はバターみたいに感じるはずだよ」
サンがツルハシを構え、嬉しそうに笑う。
「バター言うたな!? ほな確かめたるわ!!」
叩きつけたツルハシが、
通常なら数分かかる硬岩を──
一瞬で粉砕した。
「うおおおおおっ!? マジでバターみたいや!!!」
リコが控えめにガッツポーズ。
「うん、いい感じだね。
じゃあこの調子でレア鉱脈探そっか!」
炎の揺らめき、火山の熱、二人の足音が荒地に響く。
こうしてサン&リコの素材集め、快調なスタートを切った。
赤黒い岩肌をサンが岩を豪快に砕きながら、
ふと後ろを振り返った。
「にしてもリコ、
ようこんな“ちょうどええ”スキル持っとったなぁ。まるで今日の為に用意してたんか?」
リコは砕けた岩の破片を観察しながら、軽く肩をすくめた。
「うん? ああ、これ?
別に珍しいことじゃないよ。
“採掘上昇”とか“ダメージ増加”とかって、
どこにでもあるコモンスキルでしょ?」
サンが頷く。
「まあ、よう見るな。戦士や盗賊の初期スキルみたいなやつや」
リコは笑いながら続けた。
「でね。
冒険者の人たちって、成長したり進路を変えたりすると……こういう“よくあるスキル”ってすぐ剥がすんだよね。より高ランクのスキルに入れ替えるために」
「ほうほう」
「そうすると、コモンのスキルが大量に余る。
だから僕がまとめて買い取って、
“必要な人にだけ必要な量を売る”ってだけさ」
岩の破片を軽く蹴って、リコが微笑む。
「値段はだいたい──
200ダストから高くても700ダストくらい。
冒険者の皆には“安いし便利”って結構評判いいんだよ」
サンが腹の底から笑った。
「ははっ! 商売上手やないかい!
そら金も貯まるわ!」
リコは頬をかきながら、少し照れたように視線を外す。
「お金は大事だよ?
“強くなるのに必要なら惜しまない”って人たちが多い世界だからね」
リコの言葉にはクレバーで冷静、合理的な商人の顔を見せていた。
一方その頃、
ノーザ&リー 武器職人の店にて
鍛冶場の熱気と金属の匂いが混ざり合う店内。
壁には所狭しと槍、棍、刀、斧、そしてチャクラムやウルミなどの奇妙な武器まで並べられていた。
ノーザが顎に手を当ててぼそりと漏らす。
「リー、前から思っていたんだけど……
そろそろ素手はやめないか?
せめて護身用くらいの武器は持ってくれよ。
危険な旅だし、いざって時に困る」
横で腕を組んだ僧兵は、浮かない顔のまま首を振った。
「む……
しかし拙僧は武器の心得が皆無。
剣も槍も扱ったことがない。
今更武器を持ったところで、使いこなせる自信がないのだが……」
2人が悩んでいると、
奥から荒々しい声が響いた。
「おいおいおい! そこの坊主!!
武器を前に悩むくらいなら、まず俺に相談しろや!」
ごつい腕をした職人が、片手に大きな金槌をぶら下げながら近づいてくる。
「人と武器を見て四十年!!
人間の骨格も性格も戦闘癖も、見りゃだいたい分かる!アンタに合う武器を、俺が吟味してやるよ!」
リーは思わずたじろいだ。
「し、しかし……今日はすでに……」
「遠慮すんなぁ!!
武器ってのは“縁”が大事なんだよ坊主!
ほれ、つべこべ言わずについて来な!」
強引に背中を押され、リーはよろめきながら武器棚の前へと連れて行かれた。
「む、むぅ……」
ノーザは苦笑しながら肩をすくめる。
(まあ……リーに合う武器が見つかれば、それはそれでいいか)
店内には、金属のきしむ音と、職人の豪快な笑い声が響いた。
女子組の休暇——ストロダン繁華街・服屋にて
賑やかな人通りの中、ニーナが嬉しそうに袖を引いた。
「服、見に行きません?」
ヴィヴィの目が輝く。
「イイね!実はあーし、私服ってほとんど無くてさ……いつも鎧か訓練着ばっかだったし」
2人は女子会気分で服屋へ入っていく。
カラフルなドレス、軽装のワンピース、シックなマント……並ぶ服にヴィヴィの視線が泳ぐ。
(あ、この服可愛い……
着てみようかな……?
いやでも似合うか……?
いや、ニーナに笑われるかも……)
そんな乙女な逡巡をしていると——
「あら?」
横から涼やかな声がした。
見ると、フリルの付いた高級ドレスを着こなした“悪役令嬢みたいな女性”が立っていた。
着飾っているが、どこかマウントを取るような視線。
「あら、あなた……昨日の武闘大会の優勝者さん?
あなたのように“鎧しか着なそうな方”も、こんなお店に来るのね?」
ヴィヴィの眉がぴくりと跳ねた。
「……あ?」
令嬢は扇子を口元に当て、くすりと笑う。
「服ってすぐ(好みに)合わなくなってしまうでしょう?だからいくらあっても足りませんわ〜」
ニーナがすかさず同意して乗ってくる。
「ですよね!すぐ(サイズ)合わなくなって、買い換えないといけなくて大変ですよね!」どたぷん
「…………」
“合わなくなる理由”を一瞬で理解して目が泳ぐ。
ヴィヴィがニヤっと笑う
「アンタは……サイズの問題は無さそうだな!
そのまんまで一生困らなそうだよ!!」
「な……っ!?」
ニーナ口元を隠してクスクス笑っている。
(……今日はこういう日、なんですね……)
ヴィヴィは胸を張る。
「まあいいや。
今日はノーザに可愛いと……いや、なんでもない!
服選ぶんだよ!!」
令嬢は悔しそうに唇を噛んだまま退散していった。
ニーナは満足げにうなずく。
「ヴィヴィさん、では次は試着ですね」
「う、うるさいよニーナ!!」
女子校みたいなテンションのまま、2人は可愛い服を探し始めた。
ゴリアット樹海・木材収集クエスト
鬱蒼とした森に風が揺れ、巨木が並ぶゴリアット樹海。
サンが斧を担ぎながら辺りを見回す。
「ほぉ〜……ここの木は立派やなぁ。材木の宝庫やで」
傍らでメモ帳を取り出すリコが、木の種類を確認している。
「じゃあ……サンにちょうどいいスキル、付けるね。そこでじっとしてて」
リコの手のひらが光りサンの身体を包む。
「スキルインクルード!」
斧がかすかに振動し、金属音を響かせて光を帯びた。
「お……おお!?
……おぉぉぉぉ!!なんやこれ!斧が手の一部みたいや!!」
試しに近くの巨木へ斧を振る。
巨木がまるで薄板のように真っ二つに割れ、地面を揺らして倒れた。
リコが驚いて目を丸くする。
「す、すごい……!これほどとは、これが木こりスキルLv4の威力……!」
サンが得意げに斧を肩に担ぎ直す。
「これなら仕事が捗るで!どんどん切り倒すで!!」
樹海のあちこちに振り下ろされた斧の音が響く。
木々が次々と沈み、素材の山が積み上がっていく。
うんうん唸りながら木材を抱え上げるリコ。
「えっ……こんなに重いの……?か、肩が死ぬ……ッ」
サンが容赦なく次の木材を追加で乗せてくる。
「当たり前やろ!木は重いんや!働けぇ、モヤシ野郎!」
「ちょ、ちょっと……僕はスキル屋であって……力仕事は……っ」
「知らん!ほら、足も動かさんかい!!」
樹海にリコの悲鳴が響き渡る。
こんな調子だが、素材集めは順調そのものだった。
街を離れ、クエストの目的地へ向かって歩き始める二人。
陽光に照らされながら、リーは両手に持った一本の錫杖をじっと眺めていた。
「……ノーザ殿。これは本当に“良い物”なのだろうか?それとも……ぼったくられたのだろうか?」
不安げに錫杖を揺らすと、金属の鈍い音がカラン、と鳴る。装飾は立派だが、見るからに古びている。
横を歩くノーザが苦笑いを浮かべる。
「うーん……凄く似合ってはいるよ。
ただ……ちょっと年季入ってるかな。気のせいじゃなければ、埃も舞ってた気がするし」
リーは眉をひそめる。
「やはりか……。職人殿の勢いに押され買ってしまったが……」
脳裏に、先ほどの武器職人の豪快な笑顔がよみがえる。
「僧侶にピッタリだ!
いや〜、長年売れずに困ってたんだが!
アンタみたいなのを待ってた!!」
※実際に物置の奥から引っ張り出してきた
リーは深いため息をつく。
「……どう見ても在庫処分ではないか……」
ノーザは肩をすくめた。
「まぁ、武器は使ってみないと分からないって言うし。リーなら扱いきれるさ。武器が古くても、腕が良ければ十分強いよ」
錫杖を握り直し、リーは表情を引き締める。
「……仕方あるまい。使いこなしてみせよう。
拙僧の拳を補佐できるなら、それで十分だ」
そう言って歩みを進める二人。
錫杖の鈍い音が、どこか頼もしげに響いていた。
オーギュス火山麓・灼熱の斜面
赤黒い岩肌が続く火山地帯。
吹き上がる硫黄の煙が視界を揺らし、熱気が肌に刺さる。
掲示板の依頼書を思い出しながら、ノーザは周囲を見渡す。
「……見えるだろ。あれは完全に炎タイプの魔物だ」
岩陰の向こうで、火をまとった獣たちが低く唸りながら群れていた。
全身の毛が燃えさかる火山獣の群れ。
村近くの山火事の原因となっている危険な魔物だ。
リーは静かに錫杖を構える。
「……素材の採取には丁度よい相手だな。炎を宿す魔獣の皮や牙は、上質な武具の素材となる……。
加えて——」
炎を纏う魔物たちを睨みつけ、瞳が鋭く光った。
「拙僧の“新たな武器の試し打ち”にも良い相手だ」
リーの手にある錫杖が、熱を帯びた空気にカラン…と鳴る。
普段は素手と体術中心のリー。
そんな彼が武器を手に戦う姿は、どこか新鮮でもあった。
ノーザは息を整え、ニルヴァーナの柄に手を添える。
「派手に暴れていい。ただし、火種を残すとまた山火事だ。一気に仕留めるぞ」
炎の魔獣たちがこちらに気づき、烈火を吐き散らしながら突進してくる。
リーは錫杖をくるりと回した。
「ふっ……丁度いい。拙僧の技がどこまで通じるか……試させてもらう」
二人は駆け出し、灼熱の戦場へと飛び込んだ。
先に動いたのはノーザだった。
まるで空気を裂くように一歩で間合いを詰め、
ニルヴァーナを抜く。
「——っ!」
紅蓮の皮膚を持つ紅炎鮫が、地を滑るように迫った瞬間——
ニルヴァーナの切先が淡く光り、逆袈裟に火花を散らしながら一閃。
紅炎鮫は断末魔もなく崩れ落ちた。
倒れた仲間に怒り、周囲の紅炎鮫たちが一斉に口を開く。次の瞬間、灼熱の息吹が噴き出した。
「ノーザ殿、下がられよ!」
リーが前に躍り出た。
手にした錫杖を軽く一度、カラン、と振る。
澄んだ金属音が熱気の中を震わせると、
迫りくる炎はまるで意思を失ったように四散し、煙となって消えた。
リーは驚嘆とも感嘆ともつかぬ表情で錫杖を見つめた。
「……これは本物だ。この音色……悪しき“気”を祓う。僧兵の武具としてこれ以上の相棒はあるまい」
ノーザが目を丸くする。
「そんな効果まであったのか……」
錫杖は、ただの“売れ残り”ではなかった。
背後の溶岩地帯が唸りを上げた。
大気が揺らぎ、そこから——ひときわ巨大な火蜥蜴が姿を現す。
サラマンダー。
紅炎鮫の群れを統べる“火山の王”だった。
咆哮一つ。吹き荒れる熱風に地面の砂が溶ける。
「リー!挟み撃ちだ!!」
「行意!」
二人は迷いなく左右へ散った。
暴れ狂うサラマンダーが正面へ炎弾を吐き出す。
しかし、その射線にノーザの気配はもう無い。
右——ニルヴァーナが、白く輝く斬撃となって迫る。
左——錫杖が、清浄な音色を帯びてしなやかにうねる。
「——ッ!!」
サラマンダーが振り向いた瞬間、
二つの軌跡がまるで“円”を描いたように重なり合った。
涅槃寂静撃
火の王を中心にして、光と音が十字に交わった。
刹那、サラマンダーの体内に宿る炎がふっと消えたように沈黙し——
巨体は崩れ落ちた。
残ったのは、地熱と岩の弾ける音だけ。
リーが軽く息を整え、錫杖を一回鳴らす。
「……寂静。悪しき炎よ、これにて成仏」
ノーザはニルヴァーナを鞘に収め、静かに頷いた。
「ありがとな、リー。決まった技だ」
涅槃と浄化の合撃——
二人の呼吸が完全に噛み合った瞬間だった。
サラマンダーが崩れ落ち、
数秒遅れて赤熱した地面がぱちぱちと音を立てる。
ノーザはゆっくりと息を吐き、ニルヴァーナを軽く振って付着した火灰を払った。
その瞬間——
ノーザはレベルが上がった!
足元に淡い光輪が広がり、身体の奥から“芯が太くなる”ような手応えが走る。
続けて、視界の端に文字が浮かぶ。
剣スキルが Lv4 → Lv5 に上がった!
新技『セラフィックバースト』を習得した!
「……お、久しぶりのレベルアップだ」
思わず口元がほころび、ノーザは拳を軽く握りしめる。
隣では、リーが錫杖を携えたままうっすら微笑んだ。
「流石、ノーザ殿。戦いの度に一段と強くなられる」
溶岩の照り返しで微かに白く輝くノーザの横顔は、
これから手にする“新たな力”への静かな高揚を隠しきれなかった。
新技——
それがどれほどの破壊力なのかは、まだ二人にも分からない。
だが、ニルヴァーナがわずかに震えるように共鳴した。
(使うのは、また今度だな)
ノーザは鞘に収めた刀の背を軽く叩き、
リーと共に火山の麓を後にした。
ゴリアット樹海から戻ったサンとリコ。
火山麓から戻ったノーザとリー。
──四人は夕焼けに染まる武器屋の前で待っていた。
その路地に、ニーナが腕を引くようにしてヴィヴィを連れてくる。
「そろそろ夕方だよ、どこ行くんだ? なんか妙に急がせるじゃないか……」
「ノーザ様ー! お疲れ様ですー! 連れてきました!」
声を張るニーナ。
その先には──待っていた仲間たちの姿。
ノーザが軽く手を上げた。
「ヴィヴィ、こっちだ。ちょっと見せたいものがある」
ヴィヴィの表情がピタッと固まる。
胸騒ぎと期待が同時に湧き上がるような顔。
「……見せたいもの?」
サンがニヤニヤしながら肩をすくめた。
「せやせや。兄弟が珍しく昼からワクワクしとったで?」
リーは静かに頷きながら、武器屋の扉へ手を添える。
「行かれると良い。今日の成果が形になっております故」
夕陽が武器屋の看板を赤く照らす。
その光景は、まるで“新たな始まり”を告げているようだった。
ヴィヴィはごくりと喉を鳴らし、足を一歩踏み出す。
「……え、ちょっと。なんだよ皆……あーし、なんかドキドキしてきたんだけど……」
その言葉に、ニーナが微笑む。
武器屋の扉を押し開けると、
金属同士が触れ合う“澄んだ音”と、鍛冶場特有の熱気が迎えてくれた。
奥から、腕組みした職人が満面の自信を浮かべて現れる。
「おう! 待ってたぜ。──完成してるぞ!」
ヴィヴィの目が一瞬で輝いた。
促されるまま、作業台の上に載せられた剣へと近づく。
「これは……」
濃い紅を帯びた刃が、灯火に照らされて妖しく光る。
その刀身は熱を孕むようにわずかに揺らぎ、
鞘は淡い陽炎のような文様を浮かべていた。
職人が誇らしげに説明する。
「刀身は──紅蓮鉄鉱石をヘパイストスの炭で鍛えた紅蓮玉鋼!
鞘は陽炎樹製に金装具造り、柄には紅炎鮫の革、
保護油にはサラマンダーの焔油を使った。
最高の素材だけで仕上げた炎の剣だ!」
熱気を帯びた説明に店内の空気が震えた気がした。
ノーザがその横で、小さく微笑む。
「どれも火属性を引き出し、増幅させる。
ヴィヴィ専用に作ってもらった剣だよ」
その言葉を聞いた瞬間──
ヴィヴィの喉がつまる。
「ノーザ……皆………!」
視界がじんわりと滲む。
拳を震わせながら、作業台の紅蓮の剣にそっと手を伸ばした。
触れた瞬間、
まるで呼応するように、ごうっと刃が微かに赤熱した。
ヴィヴィは涙をこぼしながら笑う。
「……こんな……こんな凄い剣……
あーしのために……!!」
背後ではサンが鼻を鳴らし、
リーは静かに頷き、
リコも珍しく素直に感嘆の息を漏らし、
ニーナはほんの少し悔しそうにしながらも優しく微笑んでいた。
──そして、ヴィヴィの新たなる相棒がここに誕生した。
紅蓮剣──その刃、炎の如く燃え立つ。
紅蓮剣の柄に指をかけ──
ヴィヴィがそっと抜き放つ。
瞬間。
空気が爆ぜた。
店内が一瞬だけ赤く染まり、
ヴィヴィの周囲に“陽炎”が揺れ立つ。
「!!!?」
ヴィヴィの目が大きく見開かれた。
ただ剣を握っただけなのに、
腕に、胸に、背中に──力が“溢れ出す”。
ヴィヴィの火属性が強化され煌火属性となった!
新技《煉獄火炎斬り》を習得した!
新技を習得した!
「な、なんだよこれ……っ!」
剣身が呼応するように赤々と脈動し、
ヴィヴィの髪先までほんのり熱を帯びる。
ただ立っているだけで、店の空気が温度を上げているのがわかる。
鍛冶屋の親父が汗を拭って笑う。
「言ったろ?炎使いにゃこれ以上ねぇくらいの最高の剣だってよ!」
ノーザも驚いていた。
剣を握るヴィヴィの“存在感”が違う。
まるで戦場そのものがヴィヴィを中心に揺らぎ出すような──
圧倒的な“格”の上昇。
「……すごいな、ヴィヴィ。
まるで……別人みたいだ」
ヴィヴィは震える声で笑った。
「……あーし……今なら……
どんな敵でも燃やし尽くせる……!
それくらい……力が湧いてくるよ……!」
炎の剣が静かに唸りを上げる。
紅蓮剣、真の主を得た瞬間だった。
ストロダンの夕暮れ。
宿屋の食堂には、今日一日の疲労と達成感が溶け合ったような、温かい空気が満ちていた。
大鍋の蓋がガバッと開き──
ブワァァッ!!
湯気と共に、食欲を直撃するスパイスの香りが一気に広がる。
「ほら皆!今日は山盛り野菜と辛旨チキン鍋やでぇ!!
頑張った身体にはこれが一番や!!」
サンが誇らしげにおたまを掲げる。
テーブルに並んだ仲間達が、思わず歓声を上げた。
「うわっ、めっちゃいい匂いする!」
「この香辛料……サンさん本気ですね」
「野菜も肉もゴロッゴロだ……最高じゃないか!」
ヴィヴィは紅蓮剣の鞘をそっとテーブル横に立てかけ、
まだ興奮気味に頬を緩めたまま鍋を覗き込む。
「……あーし今日、最高の日だったよ。
皆、本当にありがとうな……!」
ノーザがふっと微笑む。
「こっちこそだよ。
ヴィヴィの喜んだ顔、久しぶりに見た気がする」
ニーナは嬉しそうに、でもほんの少しだけ嫉妬を滲ませて、
それでも今日は素直に笑った。
「ええ……。今日は皆で良く働きました。
こんな美味しい鍋で締められるなんて、幸せです」
リーも湯気越しに頷く。
「うむ……労働の後の食事は心を豊かにする。
サン殿、良い腕前だ」
沢山の野菜と大ぶりのチキンが煮えたぎる鍋を囲む仲間達。
とりわけヴィヴィは──
紅蓮剣を手に入れた余韻に浸りながら、
その熱気と同じくらい温かい笑みを浮かべていた。
「さあ食べよ!今日はお疲れさんの乾杯や!!」
サンが器に鍋を取り分け、
全員の前に湯気と笑顔が揃う。
ノーザが箸を構え、ぽつりと呟いた。
「……よし、今日はいい日だったな。
皆、お疲れ様」
「お疲れ様ーー!!」
湯気が立ち昇り──
辛旨チキン鍋の香りが、仲間達の笑い声に溶けていった。
こうして、ヴィヴィの新たな相棒《紅蓮剣》と共に、ノーザ達の旅は次の段階へ進んでいく──。
地名が24年のジャパンカップの海外勢です。




