炎と月の戦祭り
すみません、やっぱり今年中に武闘大会だけ終わらせようと思い、こちらが今年の最後です。
控え室は決勝前の盛り上がりを見せていた。
控え室に戻った瞬間、仲間たちがどっと駆け寄ってきた。
サンが豪快に背中をバンッと叩く。
「流石や!!槍鬼をボコボコにしよった!!決勝の客、全員ヴィヴィちゃんに釘付けやで!!」
ヴィヴィは嬉しそうに拳を握る。
「当たり前だよ!あーしはノーザのパーティの戦士なんだ!このくらいは余裕余裕!」
リーは腕を組んでうなずく。
「動きに無駄が無い。まるで猛禽の狩りを見ているようだった……決勝も問題無いだろう」
ニーナは悔しそうに、でもどこか誇らしげに口を尖らせる。
「ふん……まあ、今日だけは素直に褒めてあげます。ノーザ様も心配していたんですから……しっかり勝って下さいね」
ノーザも控え室の隅でほっと肩をなでおろしていた。
「ヴィヴィ、本当にすごかったよ。けど怪我だけは気を付けてくれ。ここで無茶したら旅に支障が出るから」
ヴィヴィは一瞬だけ顔を赤くして目をそらす。
「……ノーザが見てるなら、勝つに決まってんだろ」
リコはノート片手に目を輝かせていた。
「いやぁ〜すごいよ!君のスキル構成、戦い方との噛み合わせが完璧!データ取らせてもらっていいかな?決勝はもっと派手に行こうよ!」
ヴィヴィは拳を突き上げた。
「よっしゃ!!決勝、絶対優勝してやる!!ノーザに……もっとすげぇ所見せてやるんだ!!」
控え室の空気が一気に熱気を帯びた。
ヴィヴィ、決勝戦・入場
灼けるような歓声がスタジアムを揺らす。
砂塵の舞う闘技場、その中央へ続く通路がゆっくりと開いた。
実況の声が空を突き抜けるほどの熱量で響き渡る。
「誰がこの女の“快進撃”を予想出来ただろうか!?
ここまでの圧倒的勝利!!
観客席からは実力不足だなんて声もあったが……覆したッ!!」
観客席からどよめきが広がる。
ざわつきはすぐに興奮へと変わっていく。
「この大会はこの程度なのか!?
いや、違う!!
“この女が規格外”なんだ!!!」
通路の奥から、ゆっくりと足音が響く。
重心の低い歩き方、肩に担いだトマホーク、右手には自分の愛剣。
炎でも纏っているかのような気迫が滲み出る。
「狙うは飽くまで“魔王の首”!!
武闘大会など“通過点”でしかない!!
真に戦場を駆けてきた女戦士!!」
光が差し込む瞬間、観客の視線が一点に集中する。
実況が叫ぶ。
「ヴィヴィアン・スカーレット!!」
ヴィヴィが闘技場へ一歩踏み出す。
その瞬間、爆発のような歓声がスタンドを揺らした。
トマホークを掲げ、ヴィヴィが挑発気味に叫ぶ。
「さあ……派手にやろうじゃないか!」
決勝戦・対戦相手入場
実況が声を張り上げた瞬間、観客席の熱気がさらに跳ね上がる。
「対するは……こちらもここまで“完全勝利”!!
一度も剣を抜かせず相手を沈めた、今大会“真の優勝候補”!!」
闘技場全体がざわめく。
暗い通路の奥から、カツ……カツ……と一定のリズムの足音が響く。
そのたびに、剣が空気を震わせるような重い気配。
観客からどよめきが起きた。
黒いロングコートの戦闘着。
表情を隠すかのようなマスクが不気味さに拍車をかける…腰に下げた漆黒の長剣からは、まるで生き物のように青黒い霊気が漂っている。
「東方の外れより流れ着いた“魔装徒”の末裔!!
剣一本で魔物を屠り歩く孤高の剣士!!
その剣技はすでに単騎Aランク冒険者!
勝つのは当然、負ける姿を想像できないと言われる“絶対王者”ッ!!」
魔剣士が通路から現れた。
観客席が一瞬静まり返り、次の瞬間、轟音のような歓声へと跳ね上がる。
魔剣士の気迫は鋭く、まるでヴィヴィだけを狙う獣のように細められる。
実況が締める。
「“漆黒魔剣士”—— カーミラ!!」
魔剣士は無言で剣を半ばまで抜き、
金属音と共に紫電のような紋様が刃に走る。
場内が震える。
ヴィヴィは口元を釣り上げる。
「おっそろしいねぇ……でも、こういう奴とやりたかったんだよ!」
闘技場中央に二人が歩み寄り、ついに距離が2メートル以下になる。
砂を踏みしめる音すら響くほど、場内の空気は張り詰めていた。
ヴィヴィが肩を回し、深呼吸しながら前へ歩み出る。
瞳はぎらぎらと燃えていた。
「よっしゃ……行くよ!」
対する黒衣の魔剣士カーミラは、ゆっくりと剣を抜く。
刃理性と狂気の境を揺らすような妖しい光を放つ。
敵ではあるが、闘いを楽しむわけでもなく、ただ剣士としての“誇り”だけを映していた。
「勝たせてもらおう……
剣士としての意地がある。
全力で来い。手加減は侮辱になる」
ヴィヴィの胸が高鳴る。
拳をぎゅっと握り締め、獣のように笑う。
「上等だよ!そうじゃなきゃ燃えないねぇ!!」
観客席が割れんばかりの歓声に包まれた。
実況の声がそれに重なる。
「決勝戦——ッ!!
武闘大会、頂点を決める戦い!!
近年稀に見る最高のカードだあああ!!」
審判が旗を高く振り上げる。
ヴィヴィが斧を構えた瞬間、砂が舞い上がる。
カーミラの靴先がほんのわずか動いただけで、殺気が波のように迫る。
両者の視線が真っ向からぶつかり合う。
審判の旗が振り下ろされた。
「——始め!!」
地面がえぐれるほどの衝撃とともに、
二人の最初の一撃がぶつかる
両手の武器が唸り、火と雷の残光が残像を描く。
火炎斬り!! 紫電斬り!!
右手の剣から迸る灼熱。
左のトマホークから放たれる雷光。
二種類の属性が渦を巻きながら、一直線にカーミラへ襲いかかる。
対するカーミラは、マスクで表情は覗えない、しかし…笑っているだろ、剣を横薙ぎに振るう。
その刃から立ち上るのは、満月のような紫黒の光。
闇剣術——ダークムーン 暗雲の月
弧を描く闇の波動が、ヴィヴィの炎と雷をまるで飲み込むかのように対抗する。
火花と黒煙が弾け、衝撃で砂が舞い上がった。
二人の武器がぶつかり合う度に、耳をつんざく金属音が響く。
斧と剣、雷と闇、火と魔力が互いを押し返し、どちらも一歩も引かない。
「へぇ……簡単には崩れないか!」
ヴィヴィが笑う。
その顔は戦士としての喜びに満ちていた。
カーミラは静かに呼吸を整えながら、鋭い目でヴィヴィの足運びを読む。
「悪くない。
その力……“本物”だ」
刹那、地面を滑るように前へ踏み込むカーミラ。
闇の残光が尾を引き、切っ先がヴィヴィの腹部へ迫る——
しかし、ヴィヴィは跳ねるように後ろへ下がり、すれすれで躱した。
「危ないね!でも……楽しいよ!」
斬撃のすれ違い。
属性のぶつかり合い。
鋭い一手と、一歩も退かない読みの勝負。
どちらも決定打には至らない。
だが、観客席には確信があった。
——この勝負、レベルが違う。
「すげぇ……!あれがCランクかよ……!?」
「両者、互角……どころか、技の質が高すぎる……!」
実況の声が震える。
「これは……決勝戦にふさわしい!!
二人とも、一瞬たりとも気が抜けない攻防だあああ!!!」
砂煙の中、
ヴィヴィが斧の柄を肩で担ぎ、ニヤリと笑う。
「さぁ……次はどっちが仕掛ける?」
対してカーミラも構え直し、剣先を静かに向ける。
「まだまだ……ここからだ」
ヴィヴィが大きく地を蹴った瞬間、砂煙が爆ぜた。
「いっくよぉぉぉ!!」
跳躍力強化により、人間離れした高度まで一気に上昇。その身体が太陽を背負い、影がカーミラに落ちる。
次の瞬間——
「流星斬りッッ!!」
落下の勢いを丸ごと乗せ、剣とトマホークを十字に構えて急降下。
火花の尾を引き、まるで墜ちてくる流星そのものだった。
観客席から悲鳴と歓声が一斉に上がる。
「うおおおおおお!!?」
「避けられるのかアレ!!」
対するカーミラは、一歩も引かずその場で剣を構えた。
刃全体に闇が集まり、淡い紫のオーラが形成される。
闇剣術ーーダーククレッセント 闇の逆三日月
振り抜いた軌跡が、夜空の欠片のような闇の刃を生み出した。
それは落下するヴィヴィへ逆角度で交差しながら迫る。
——刹那。
「ぶつかれッ!!」
「受け切る!!」
斬撃と斬撃が空中で交差した。
轟音。
光と闇が弾け、観客席に衝撃が届くほどの爆風を生んだ。
ヴィヴィは着地と同時に二歩、三歩と後退しながらも踏ん張る。
カーミラも剣を支点にして滑るように後退し、地面に黒い砂を散らした。
呼吸が荒くなるカーミラが、わずかに目を見開く。
「……強力だ。
ここまでの破壊力を持つ“落下斬り”は……初めてだ」
ヴィヴィはニヤリと笑い、肩を回しながら構え直した。
「へへっ……そっちも負けてなかったよ?
闇の剣士って言うだけはあるね……!」
観客席は完全に熱狂していた。
カーミラが静かに息を整え、片手を地へ向ける。
剣先が黒く濁り、地面に落ちた影が不自然に揺れた。
闇魔法——ブラックランサー 闇の槍群
次の瞬間、影から黒い槍が何十本も生えてくる。
剣でなく“影”で刺し貫こうとする、魔剣士の中でも上位者だけが扱える闇魔法。
ヴィヴィの足元すれすれを、一本の槍が爆ぜるように伸びた。
「っとっと!!」
高速でフットワークを切り替え、左右に流れるように回避。
槍が出現するたびに地面が穴を開け、黒煙が上がる。
さらに二本、三本と連続して槍が突き出る。
観客席
「すげぇぞあの女戦士!全部見切ってる!!」
槍をギリギリでかわしながら、ヴィヴィが口元に笑みを浮かべた。
「へぇ〜……その剣の腕で魔法もできるのかい?
ノーザみたいな奴だね!!」
挑発混じりの言葉。
カーミラの顔の影がかすかに揺らぐ。
「……その名、強者だろう?
なら私もこの後手合わせ願おう」
剣に闇がさらに濃くまとわりつき、次の一手の気配が強まる。
決勝はまだまだ中盤。
両者は完全に“互角”のまま、さらにギアを上げようとしていた。
闇槍を放ち終えたカーミラが、一度剣を構え直した。
観客席がざわめく。魔力の奔流も、派手なエフェクトも無い。
——ただ、静かに剣を持ち直しただけ。
けれど、その場の空気が一瞬で張り詰める。
カーミラの声は、かすれた囁きだった。
「……奥義。影縫い」
ただ踏み込み、ただ斬る。
見た目は“普通の一太刀”。
ヴィヴィが眉を上げる。
「え、それが奥義?ただの——」
剣が触れ合った一瞬。
バキィッ!!
ヴィヴィの剣に、蜘蛛の巣のようなヒビが走った。
「……え……?」
次の瞬間、
ヴィヴィの剣が折れた。
カーミラの奥義は、派手さの欠片もない。
しかし、斬り結んだ“結果”だけが異常だった。
観客席「折れた……!?剣が……!!」
カーミラの剣には闇がまとわりつき、傷一つない。
「影縫いは……相手の武器そのものの“影”を断ち、耐久を削る技。
派手ではないが、一撃限りの勝負では最も確実だ」
ヴィヴィ、後退。折れた剣の破片が砂に落ちる。
「……なるほどね……これが“奥義”って訳か……!」
右手の剣は砕け、左手のトマホークだけ。
圧倒的不利。
カーミラが追撃の構えを取る。
「終わらせる」
折れた剣の残骸を置き、ヴィヴィはすぐさま短剣を引き抜いた。
投げナイフへと変わる刃が、カーミラへ飛ぶ。
「そらっ!!」
観客席が沸く。
カーミラは飛んでくる刃を軽い身のこなしで全て受け流していく。
「牽制か……よくある手だ」
その刹那を狙って、ヴィヴィが地を蹴った。
跳躍強化スキルが生み出す、まるで弾丸のような踏み込み。
残った左手のトマホークを振りかざして、真正面から踏み込む。
「まだまだぁ!!」
しかし、斧が届く前にカーミラは静かに肩を揺らした。
「単調だ……焦りが出てるな」
カーミラの魔剣がわずかに軌道を描き、
甲高い金属音。
弾かれたトマホークが宙を舞い、
砂の上に転がる。
ヴィヴィの手には、もう武器が一本も無かった。
「……っ!」
焦燥が肌から滲み出す。
カーミラは一歩、ヴィヴィに近付いた。
「武器を奪われた瞬間、心も揺らいだ。——その隙が命取りになる」
観客が息を呑んだ、その瞬間。
サンが思わず叫ぶ。
「ヴィヴィちゃん!!」
ノーザも立ち上がり、拳を握りしめる。
「退がれ!! 距離を取れ!!」
しかし——
ヴィヴィの足は、わずかに震えながらも前に残っていた。
拳を握りしめる。
丸腰でも、諦めてない。
(——ノーザ……見ててよ……!)
「武器がなくても……!」
砂を蹴る音と同時に、彼女の姿が掻き消えた。
跳躍術と強化魔法が乗った高速移動、
次に姿を見せたのはカーミラの背後だった。
拳が赤熱する。
ブレイズナックル!!
炎を纏った拳が、一直線にカーミラの後頭部を狙う——
しかし。
「甘いな」
ほんの一歩、影のように揺れるだけでカーミラの姿が消えた。
空を殴ったヴィヴィの拳が火だけを残す。
視界の端で僅かな気配が揺れた。
(右——!?)
反応した瞬間、カーミラの足が弧を描いて迫る。
「っらぁ!!」
蹴技スキル 大鎌蹴り
ヴィヴィも刃のように軌道を切る強烈な回し蹴りで迎え撃つ!
蹴りと蹴りが真正面から激突し、
衝撃波が砂埃を撒き散らした。
だが——
力の差は歴然だった。
「ぐっ……!」
大地を滑るようにヴィヴィの身体が吹き飛ぶ。
背中が砂に激突し、闘技場の端まで転がる。
観客席がどよめく。
カーミラは追撃をせず、静かに構え直した。
「悪くない。だが技量と練度……決定的に足りない」
一方、ヴィヴィは——
「はぁ……はぁ……っ、まだ……!」
震える足を無理やり立たせ、拳を握る。
丸腰でも、傷だらけでも、勝負は終わってない。
砂を払って立ち上がったヴィヴィの肩が、怒りと悔しさで震えている。
その前で、対照的に静まり返った声が響いた。
「降参しろ。これ以上は怪我では済まない」
その声音に嘲りも侮りもない。
ただ純粋な実力差を理解している者の忠告だった。
ヴィヴィは唇を噛み、炎のような視線を返す。
「……ふざけるなよ。あーしは、まだ終わってない!」
拳を握り直し、足を踏み込む。
しかしその動きは、さっきまでの鋭さを欠いていた。
——痛い。
——視界が揺れる。
——でも、ノーザに貰ったキスがある。負けられるかよ……!
無理やり身体を動かし、再び突っ込む。
「まだだぁッ!!」
渾身のブレイズナックルを繰り出した瞬間——
カーミラの姿がかき消えた。
「っ!?」
背後から冷たい気配。
次の瞬間、横薙ぎの蹴りが——
爆風のような衝撃とともにヴィヴィの腹部を撃ち抜く!
「——がっ……!!」
ヴィヴィの身体が宙を舞い、リングを転がりながら止まった。
「ヴィヴィちゃん!!」 「うそ…ヴィヴィさんが……!」
仲間たちが動揺している。
ノーザが立ち上がりかける。
「ヴィヴィ!!」
しかしその肩をリコが掴む。
「ダメだよ、ノーザ。
今乱入したら、ヴィヴィが失格どころか君らも大会から排除される。
それに……まだ彼女は立つ気だよ」
思わず視線を戻す——
リング端で、血の味を噛みしめながらヴィヴィが、
まだ拳を握っていた。
よろめきながら、しかし意思だけは折れていない瞳。
「はぁ……はぁ……
甘く見るんじゃないよ……
あーしは……“ノーザの女”なんだ……!」
言葉が震えても、瞳だけは揺らがない
カーミラの無表情が、ほんの僅かに揺れた。
(……あれだけのダメージで、まだ立つか。
いい目だ。だが——)
勝負は、もう一押しで決まる。
カーミラがゆっくりと構えを変えた。
その動きに、観客席から一気にざわめきが広がる。
(あれは……!)
(“魔剣士カーミラ”の……本気の姿勢……!)
「ここまでよく粘った。
戦士として、誇っていい闘いだった」
魔剣が真上に構えられる。
魔剣術 真月ーーエンドムーン
ヴィヴィの視界に、全てがスローモーションで迫る。
——速い。
——身体が、動かない。
「あ……終わった……」
その瞬間、胸をよぎったのは “憧れ” だった。
一瞬の回想 —— あの日、ボロボロの村で見た背中
燃える村。
倒れていた自分。
迫る魔族。
その刹那、目の前に飛び込んできたのは——
剣士ノーザ。
魔法使いニーナ。
あの日の光景が、優しく蘇る。
(懐かしいね……
あの時から……
ノーザの背中が、あーしの世界を変えた……)
自分を抱えて走ってくれたあの腕。
魔物に向かって迷わず飛び込むあの決意。
(ノーザ……
不甲斐なくてゴメンよ……
あーし……ノーザのこと……
大好きだった……)
か細い声で、誰にも届かない愛が漏れた。
魔剣が、彼女に振り下ろされる——。
しかし、
気づけば、左腕が勝手に掲がっていた。
ヴィヴィはなぜの左腕をかざしたのか
彼女自身、理解できなかった
防御体勢を取ったつもりは無い、
剣の軌道に吸い込まれるように勝手に動いていた。
ヴィヴィが諦めても諦めていないものが
一つだけあった、本能だった。
本能だけが、まだ「生きろ」と叫んでいた。
生きようとするヴィヴィの本能がそう動かしたのだ
その手には——
雷を宿す魔具、召雷の腕輪
「——っ!」
カーミラの奥義が命中。
召雷の腕輪が粉々に砕け散り、中に残っていた
雷の力が弾けた!
闇を突き破る青白い光。
カーミラの身体が一瞬硬直し、
そのまま感電してよろめく!
観客席が爆発したようなどよめきに包まれる。
「な、何が起きた……!?」 「腕輪が……身代わりになったのか!?」 「ありえねぇ奇跡だ……!」
ヴィヴィ自身も、何が起こったのか理解していなかった。
ただ、砕けた腕輪の欠片を指先に感じながら——
かすれた声でひと言。
「……ありがとう……ノーザ……」
粉々になった腕輪の破片が散る。
雷の余韻で蒼白い火花がまだパチパチと弾けていた。
ヴィヴィの呼吸は荒い。
立っているのがやっと。
対面では——感電から立ち直りつつあるカーミラが、
黒剣を引きずり、再び構えようとしていた。
(もう……武器もない……
でも……負けたく……ない……)
その時だった。
観客席からとんでもない声が響く。
「ヴィヴィ!! 受け取れーーッ!!」
黒い閃光が空を切った。
黒刀六道
ノーザが託された宝刀
それがリング内へ飛んできた。
「……ノーザ……?」
ノーザは叫ぶ。
「リコ!! 頼む!!!」
リコが眉をしかめながらも手をかざす。
「はぁ〜……怒られても知らないよ。
でも……仲間の為だもんね」
スキルトランスプラント!!
ヴィヴィの身体が淡く輝き——
そのスキルが書き換えられる。
ヴィヴィの刀スキル がLv4 に上がった!
六道斬りを使えるようになった!
ヴィヴィの目が大きく開かれた。
その瞳にノーザの姿が映る。
「ノーザ………。
あーし……絶対勝つよ……!!!!」
ヴィヴィが静かに刀を構えた。
その所作は、
野性味あふれる女戦士とは思えないほど静かで美しい。
観客席が、
まるで神事を見るかのように息を止める。
カーミラが魔剣を構え直す。
「来い……!」
ヴィヴィはふっと目を閉じ——
次の瞬間、消えた。
視界から。
「き……消えた!?
いや……速すぎる!!」
音より速い抜刀。
姿を認識する前に斬撃だけが世界を走る。
六道斬り 一ノ型 如意輪天一閃。
斬光が一閃、
リングを一直線に切り裂き——
カーミラの背後にヴィヴィが立っていた。
刀を鞘におさめる……のではなく、
剣先をわずかに振って血飛沫すら出ない完璧な斬撃。
カーミラは膝をつく。
刹那。
「……見事……だ……」
その場に倒れ込む。
審判が、震えながら腕を上げた。
「勝者——ヴィヴィアン・スカーレット!!
大逆転勝利ッッッ!!!!」
観客席が爆発したような歓声に包まれる。
リング中央で、
ヴィヴィは六道を抱きしめて泣き笑いした。
リング横。優勝者用の特設スペース。
歓声がまだ残響のように場内に渦巻いている。
インタビュアーがマイクを向ける。
「優勝おめでとうございます!
大逆転劇、まさかの居合切り……!
今のお気持ちを聞かせてください!」
ヴィヴィは荒い呼吸を整え、
汗と涙でくしゃくしゃの顔のままゆっくりと口を開いた。
「……いや。あーしの負けだよ」
会場が一瞬ざわめく。
意外すぎる言葉だった。
「……えっ? い、今なんと?」
ヴィヴィは悔しそうに、しかし誇らしげに笑った。
「あーし、カーミラには勝てなかった。
正面からの剣の勝負も……
蹴りも……全部押し負けてた」
拳を握る。
その拳は震えていたが、誇りが宿っていた。
「最後に勝てたのは仲間が……“仲間たちが” 背中押してくれたから。それが無かったら、あーし、もう立てなかったよ」
観客席の熱気が変わる。
ただの盛り上がりから——
尊敬と温かさの混じった空気になる。
ヴィヴィはリングに倒れているカーミラへ視線を向けた。
「カーミラは強かった。
剣の速さも、技も、集中力も……
全部、あーしより上だった。
だからこれは……あーしの勝ちじゃなくて、
カーミラへの敬意だよ」
観客席から自然と拍手が起こった。
優勝者が自分の勝ちを誇らない。
むしろ、相手を讃える。
それは戦士として最高の振る舞いだった。
インタビュアーは思わず微笑んだ。
「……素晴らしい言葉ですね。
あなたは真の戦士です、ヴィヴィアン・スカーレットさん」
ヴィヴィは照れ隠しのように鼻をこすり、
「ふん……当たり前だよ。
あーしはノーザのパーティの戦士だからね!」
と言って笑った。
その瞬間、会場の拍手と歓声は最高潮になった。
「じゃあ……借り物を直すね」
軽くノーザとヴィヴィに触れる。
指先が淡く光り、魔法式が走る。
リ・トランスプラント!
ヴィヴィの刀スキルが無くなった、
ノーザの刀スキルがLv4に戻った。
光が収まった瞬間——
ヴィヴィがぽろり、と涙を零した。
「ノーザ……
……ありが、と……」
言い終える前に、勢いのまま抱きついた。
土埃と汗の匂いが混じる、必死な抱擁。
ノーザは驚き、少しよろけながらも受け止める。
「……よく頑張ったよ。
本当に、強かった」
ヴィヴィは嗚咽を噛み殺しながら顔を胸に押し付けた。
「うん……うん……
あーし……負けてられないよね……
もっと……もっと強くなる……!」
その背で拳を握りしめて震えているのがわかる。
少し後ろでニーナがその様子を静かに見つめていた。
腕を組み、ため息をつきながら……
でも、今日は本当に優しい声音で。
「やれやれ……
今日くらいは譲ります。
……こればかりは、仕方ありませんね」
ニーナの目にも、どこか誇らしさが宿っている。
控え室を出た直後——
背後から、静かで澄んだ声が響いた。
「ヴィヴィアン・スカーレット……」
振り返った全員が息を呑む。
そこに立っていたのは、黒いロングコートの裾を翻した魔剣士。
先ほどまで対戦していた、あのカーミラだった。
ゆっくりと手を伸ばし——
顔を覆っていた仮面を外した。
露わになった素顔。
透き通る肌、切れ長の瞳、
気高い雰囲気をまとった、絵画のような美女。
ニーナが固まる。
ヴィヴィも目を丸くする。
サンは半口を開けたまま。
リーは無言で驚愕。
ノーザは「えっ」と素直な声が漏れた。
「いや! 女だったのか!?」
周囲の喧騒が遠くなるほどの美貌。
そして、どこか誇り高い騎士の気配。
美女は微笑む。
「楽しかった……
あれほど全力で剣を交わせたのは久しい。
ヴィヴィアン・スカーレット。
私からお願いだ——また戦ってくれ」
ヴィヴィは目を輝かせた。
口元が自然と笑みになり、左手を差し出す。
「もちろん!
次は……実力で勝つよ!!」
二人の手がガシッと結ばれる。
その握手は、火花が散りそうなほど熱い。
カーミラは満足げに頷き、コートを翻して去っていく。
ヴィヴィは拳を握りしめ、仲間たちに振り返った。
「ノーザ!!あーし、もっともっと強くなるよ!!」
ノーザも笑う。
「……ああ、期待してるよ」
こうして、熱き女同士のライバルが誕生した。
ただのジョセフ対カーズだ




